第2章 砂塵に潜む闇

(ストーリーモード:「砂塵の奥」より)


「イーサン・ウェーバーの捜索?」
ラドルスが昼食のうどんを食べながらりりなの告げたミッションに応えた。
「モトゥブの廃坑を調べるんだそうです」
「俺達だけで?」
モトゥブは戦争前から鉱山があちこちで掘られている星である。廃坑と一口でいっても年代物も含めたらいくつになるか分からない
「いえ、何チームか出るようですね」
と、りりながうどんをすすっているラドルスの前に端末を示す。そこには見知った名前を含めた何チームかの名前がリストアップされていた。
「ライア殿が本命かな?ルゥがついてるもんな」
「確率が高いってだけじゃないですかね?」
「ふむん」
「・・・とりあえず、そのうどん食べちゃって下さい」
「了解」

惑星モトゥブ、惑星表面の大半が岩と砂漠に覆われた過酷な環境の下、ビーストを中心とした社会が形成されている。通商連合と呼ばれる合議制のそれは、ローグスと折り合いをつけながら、治安は良いとは言えないが、それなりの治世を行っている。
その惑星モトゥブの首都とも言えるダグオラシティに降りたラドルスとりりなはそのままガーディアンズ支部に向かった。そこで、待ち合わせしている人物と合流する為である。
果たして、その人物は支部の入り口で立っていた。
「お久しぶりです。アークさん」
りりながその人物の前にテテテっと走って行き、おじぎする。
「やぁ、りりなちゃん。ラドさんもお久しぶり」
アークと呼ばれたヒューマンの男性は丸いサングラスを外し、ラドルスに片手をあげた。その両腰にはハンドガンが一丁づつ下がっている。ナノトランサーが標準装備のガーディアンにしては装備をそのまま下げるのは珍しい。
「で、もう一人いると思ったんだけど・・・」
ラドルスは辺りを見回すが、周囲にそれらしき人影はいない・・・と、そこへビーストの男性が一人走ってくる。
「すいません、遅れました。」
「もう一人って蒼さんだったのか」
ラドルスは面識がなかったが、アークとは知り合いのようである。簡単な挨拶を済ませた一行は、本部から指示のあった廃坑に向かうのであった。

「アーク殿、ここってモトゥブだよな・・・」
「どしました?・・・へっ?」
クグ砂漠の砂丘を越えたラドルスの問に疑問を思いつつ後に続いたアークの視界の先にはゴーモンの姿があった。モトゥブには生息しているはずのない原生生物である。
「誰かが密輸したのが逃げ出した・・・って割には数が多いですね」
両腰のハンドガンの弾数を確認しつつアークが呟く。
「って、ジャーバまでいますよ」
砂丘に登った蒼が手のひらを額に当てつつもう片手で指差した先には、確かにパルムの原生生物ジャーバの巨体が見えた。
「あれには、剣は余り効かないから嫌いなんだけどなぁ・・・」
「私のバータでイチコロです」
頭をかきながら愚痴るラドルスの横に立ちりりなが弓を出して答え、そしてフォトンの矢を放つ。矢はまっすぐに先頭を歩くゴーモンに命中する。
「ブレイク!!」
それを見たラドルスの掛け声と共に、一同は砂丘を駆け下りていく。
後方からりりなが弓を放ち。ゴーモンを倒していく。が、その間を抜けて向かってくるゴーモン・・・そこへ、アークが一直線に走って行き、交差と同時に両腰のハンドガンを抜き放つ。駆け抜けた後にはその両側のゴーモンがその巨体を砂の中に倒していた。
「ひゅう〜」
後に続いた蒼が口笛を一吹きし、そのまま愛用の斧を振るう。一振り毎に数匹のゴーモンが倒れていく。
「こりゃ、今回は前に出る必要ないかもな・・・」
中盤に待機し、りりなに向かってくるゴーモンを倒しつつラドルスが呟く、蒼が斧とソードで周囲のゴーモンをなぎ倒し。アークはジャーバのダム・バータの氷柱を軽やかなステップでかわしつつ、まるで舞いでも踊っているようにその両手のハンドガンをジャーバに叩き込んでいる。
ゴーモンとジャーバの一団を浄化するまでそれ程の時間はかからなかった・・・

「なんか妙な事になってきましたね」
周囲に原生生物のいない事を確認した上で、岩場の影で休憩する一行の中で蒼が肩をすくめる。黙って頷く一同。その後、ヴァーラとオルアカにも遭遇した。それは最初の遭遇が偶発事故でないことを示している。
「どうやら、他の星から原生生物を持ち込んでいる団体がいるようですね」
「アーク殿も『団体』と思うか・・・」
「組織・・・と言ってもいいかもしれませんよ」
「なんで、団体とか組織って話になるんですか?」
アークとラドルスの会話にりりなが疑問を挟む。
「あんだけの数の原生生物を捕獲、運搬して、かつ今まで見つからなかった。それなりの人を動かせないと無理な話ですよ」
アークの言葉にふむふむと頷くりりな、それを見て分かってるのかな?と思うラドルス。
「まぁ、原生生物の件は気になりますけど、先に目的の廃坑の調査をしちゃいましょう」
蒼の言葉に一同は頷き、廃坑へと再び向かおうとした・・・が、その時ラドルスの通信機がコール音を鳴らす。
「ん?俺だけ????」
通常の通信ならパーテイメンバー全員、少なくともパートナーとなっているりりなのそれも鳴るはずである。しかし、出ない訳にもいかず、ラドルスは通信を受ける。
「おい、へっぽこ剣士!!何回コールしたと思っているんだ!!」
モトゥブ支部のマナの声が通信機から漏れる。
「何回??これが最初だぞ?」
「何を言っている。メンバー全員に何度もコールしたのに、一向に誰も出ない、全滅したかと思ったぞ」
「全員?」
通信機から聞こえるマナの言葉にアークが険しい顔をする。同時に蒼もナノトランサーから探知機らしきものを出し、その数値を見ている。
「ふむん・・・」
「おいっ、何黙ってるんだ!!」
蒼の行動の結果を黙って待つラドルスに通信機の向こうからマナが怒鳴っている
「いや、どうやら電波状況が悪いらしいな」
ラドルスの言葉に蒼が頷きつつ、補足をする。
「悪いというより、ジャミングの類ですね」
「今、お前達のいるポイントを確認したが、そこもだめなのか」
「『そこも』?どういうことだ」
「そこから東の岩山を越えた辺りでライアのパーティが通信不能になったんだ。お前にはそっちに向かって貰いたくて連絡したんだが・・・」
ラドルスとマナのやりとりを聞き、今度はりりなが、自分の端末から地図を出して、ラドルスに見せる。そこに現在位置と進行方向のマーカーが表示される。それを覗き込んだ蒼が端末を操作すると、最短かつ、最適な進行ルートが示された。ラドルスとアークがそれを見て、指でOKサインを出す。
「了解、これよりライア殿達の確認に向かう」

地図に示された道を登っていく一行であったが、そこに予想外の妨害が入った。
「特殊任務訓練を受けたキャスト?」
奇襲を受けつつもそれを撃退、その動きはラドルスの言葉通り特殊任務兵のそれであった。同盟の作戦区域や基地なら兎も角、砂漠の真ん中での遭遇は余りにも不自然である。しかも・・・
「ラド様、この方々って認識票がありませんよ〜」
りりなの言うとおり、同盟軍であれば所持している認識票を所持していなかった。
「同盟軍の極秘任務に就いているなら持ってないのもありえますけど・・・」
「可能性は0じゃないな、このジャミングも原生生物も同盟軍がモトゥブの砂漠で周囲に気兼ねなくなんかやってるって思えば、一応筋は通る・・・」
「いえ、これは同盟軍所属のキャストじゃないですよ」
アークとラドルスのやり取りに蒼が否定の言葉を続ける。
「彼らというか、これら・・・と言うべきですね。個別の意思回路が入ってないようです」
「つまり、集中操作タイプのマシンナリーのような機械兵って訳か・・・」
蒼の言葉にラドルスが一時腕を組み考え込むが・・・すぐ腕を解く。
「いや、考えていてもしょうがない、なんか妙な雰囲気だが、今はライア殿達の確認をしなければ・・・」
「それは不要だ、今頃息絶えているだろうからな・・・」
ラドルスの言葉に上から声が続く、顔を上げると、岩場の上に赤い影が立っていた。それは細身のキャストで、その両手にはツーヘッドラグナスが握られている。
「まさか!?」
その姿にアークと蒼が驚きの声をあげる。ラドルスは記憶には引っかかったものの、その名前を思い出せずにいた。
「エンドラム機関のレンヴォルト・マガシですよ、ラド様・・・」
怪訝な顔をしていたのを読まれたのだろう。りりなが後ろから小声で言い、それでラドルスも以前に見たエンドラム機関の資料にあった名前と一致した。
「・・・死んだはずじゃなかったのか?」
HIVE内で目撃が報告されたものの、イーサン・ウェーバーにより撃退とその報告は締められていた。
「ククククク、ガーディアンというモノは本当に愚かだ・・・私はエンドラム機関のマガシではない。イルミナスのマガシだ!!」
「くっ」
ラドルスが一歩前に出てソードを振るう。そこに岩場から飛び降り様に振り下ろされたマガシのツーヘッドラグナスの刃が当たる。その両刃の炎から発せられる火の粉にソードのフォトン光が反射する。
「ほう、これを受けるか・・・少しはやるようだな」
身を引いたマガシに向かってソードを構えるラドルス。その横に蒼が斧を構えて立ち、後ろにアークとりりながそれぞれ、ハンドガンと杖を構えて身構える。
「ならば、なおさら生かして帰す訳にもいかんな・・・」
「生かして帰す気なんてハナからなかった癖に・・・」
マガシの薄ら笑いに呟く蒼
「イルミナス・・・ヒューマン原理主義を唱えた秘密結社でしたね」
蒼の言葉に、マガシの唇はさらにつり上がる。
「過去形で話すとはガーディアンズもお気楽な連中だな」
「なに!?ということは・・・」
今度はアークが驚愕の声をあげる。ラドルスは内心の驚きを表情に出さず、マガシの動きを探る。が、ラドルスに疑問が生じる・・・
「お前、本当にレンヴォルト・マガシか?」
「ふっ」
「イーサン・ウェーバーとやりあった・・・という割には俺にも隙が見え見え・・・なんだよ!!」
ラドルスが言葉と同時にグラヴィティ・ブレイクを叩き込む。マガシはその剣を受け止め・・・ようとしたが、その腕ごとラドルスの剣がマガシを両断する
「はれ?」
叩き込んだ本人が一番驚くほど、あっさりとマガシはその機能を停止した。
あわてて、さがるラドルス、その目の前でその躯体は小爆発を起こしてバラバラになる。
呆然とするラドルスの前で、アークがその破片の一つを摘みあげる。
「劣化クローンキャストって奴ですかね、噂でしか聞いたことはないですが、量産できる代わりに個々の性能は本体には遠く及ばないそうです」
「正直、退路の模索しかしてなかったんだけどな・・・」
アークの言葉に苦笑しながら呟くラドルス。蒼も同意とばかりに頷いている。と、マガシのいた方を見たりりなが叫ぶ
「ラド様!!ライアさん達です〜」
振り向いたラドルス達の視線の先には3つの人影がこちらに歩いてくるのが見えたのであった。

「この件は口外無用ってことですね」
モトゥブのガーディアンズ支部内にあるミーティングルームでルゥを交えての情報交換の後にアークがそう締めくくった。
「そう願います」
ルゥがアークの言葉に無表情に頭を下げる。
「イルミナス・・・か」
「『ヒューマンこそが最高なんだ!!』って人たちの集まりでしたっけ?」
ラドルスの言葉にりりなが疑問を投げかけ、ラドルスは苦笑しながらもそれに頷き、言葉を続ける。
「600年前に壊滅した・・・って事になっていたんだけどね」
「戦争とその後の同盟成立も含めてずっと、歴史の影に隠れていたって訳ですね」
ラドルスのそれにアークが続く、
「それが、なんで今出てきたのかは分からないが、ロクでもないことを考えているのは確かですね」
との蒼の言葉に一同は黙って頷く。
「不確かな情報を元に推理するのは有益ではありません。その辺でお止めになった方がいいと思います」
そのルゥの言葉で一同は解散となった。
モトゥブ支部を出てふと空を見上げるラドルス。グラールを包もうとしている不穏な空気を感じつつも、まだ彼にはどうしたらいいのかが見えないでいた・・・


メニュー 奮闘記メニュー 目次


inserted by FC2 system