第4章 実験動物掃討作戦

(ストーリーモード:「陰謀の影」より)


「ラドルス・・・ガーディアンズ機動警護部所属、我流剣術による近接戦闘を得意とする。ソードの戦闘能力には特筆同盟成立100周年記念祭と同時に起こった初のSEED襲来時にパルムのホルテス近郊で原生生物の討伐任務中、炎侵食と原生生物の凶暴化によって・・・」
「お姉さま、何を見てらっしゃるのですか?」
端末室のドアが開き、黒い躯体に白銀の髪をストレートにした女性キャストが入ってくる。
「先日の甘ちゃんのデータを見ていたのですよ。なんかこっちの仕事にちょっかいかけてきそうな奴かな、と思ったのですよ」
と、お姉さまと呼ばれたポニーテールのキャストが画面を示す。そこには青い髪の青年が映っていた。ストレートヘアのキャストはその青年の略歴に目を通す。その目は姉同様SEED初襲来の日の項目で止まる。
「ほむほむ、あの日・・・SEEDの事なんて何も分かっていなかった状況下では、これって割とがんばった方じゃないですか?」
「本人はそうはおもってないようなのですよ」
「たまにいる、全員を助けたかったってタイプですか?それは贅沢ってもの。自分だけ生き残って町一つ救えなかったガーディアンなんてあの日はゴマンといるだろうに」
「だから甘ちゃんなのですよ〜」
と、ポニーテールが席を立つ・・・
「どちらへ?」
「ヤニが切れたのですよ。ここは禁煙なのですよ」

「ほい、検査終了。検査結果を報告するから、少し待っていてね」
「は〜いです。ありがとうございました」
ペコリとおじぎをして、りりなは部屋を出て周囲を見回す。待合室には見慣れた青い髪の青年が座って、自分に手を振っているのが見えた。りりなはそこにテテテッと駆け寄り隣に座る。
「お待たせしました」
「いや、自分も今終わった所だ。ほい」
と、ラドルスが紙コップをりりなに渡す。そこにはまだ暖かいホットチョコレートが入っていた。ふーふーと息をかけつつ、それを飲むりりな。
「それを飲んだら、あっちの個室に移動だ」
「ふきゅ?」
「あまり、おおっぴらには話せない内容の可能性もあるんだろう」
「なるほろ」
先日のHIVE内での任務の後、参加者は全員隔離処置を受けた後、宿舎への帰宅許可が出た後も何度か検査を受けていた。ただ、それが何の検査であるかは知らされていない。
「ラドルスさんにりりなさん、2名とも異常はありませんでした。本日の検査で終了となります。本部にはこちらから連絡しますので、そのまま帰ってもらって構いません」
個室で暫し待たされた後での医師の言葉に一礼する二人だが・・・
「異常なしってことは、何を正常としての判断なんだ?」
ラドルスが医師に尋ね、聞かれた医師は無表情のままそれに答える。
「HIVE内には様々な細菌が確認されています。それに感染していないことが正常ということですよ」
「・・・わかりました」
再度一礼して、部屋を出たラドルスであった。

「『様々』・・・ね」
「納得いかないって顔ですね。ラド様」
「ん?ああ・・・いい感じに誤魔化されたからな」
宿舎でラドルスはコーヒーを飲みながら先日来の医師達の言葉を脳内で反芻している。そういった時は邪魔はしちゃいけないと、黙ってホットミルクを飲んで待つりりなである。
「検査もそうだが、もう一つ気になる事がある」
「なんです?」
どうやら考えが煮詰まったらしい・・・独り言の形だが、それに合いの手を入れるりりな。
「最後に現れたキャストのペア、彼女らは何者だ?」
「機動警護部では見たことありませんね」
「まぁ、俺も見かけた事があれば、そもそも聞かないな・・・やっぱ情報部の可能性が高いかな」
と、立ち上がりカップにコーヒーのお代わりを注ぐ。
「どなると、なんかの調査活動でしょうね」
「その『なんか』というのは、あの同盟兵達に絡むことだとは思うけど、」
ラドルスはテーブルに戻り、そのままカップを傾ける。
「あからさまに変でしたね、あの方達」
「ま、それはそうなんだが」
カップを置き、今度は手を組みその上に顎を乗せてラドルスは言葉を続ける・・・
「ますますキナ臭くなってきたな・・・」
と、ラドルスとりりなの端末が同時に呼び出し音を鳴らす。
「誰かからのパーティ編成の要請ですね」
ガーディアンズの所持する基本装備である端末にはパートナーカード、通称「パトカ」と呼ばれる名刺交換の様な機能がある。端末を通じて相手とパートナーカードを交換すると、その相手にパーティの編成要請や簡単な通信文を送れる様になる。勿論、受信側の都合に合わせて、それを受信しない等の機能は備えられている。
二人に来たのは、オクリオル・ベイからであり、発信元は・・・
「・・・本部の実験施設だと!?りぃ、行くぞ!!」
「了解です!!」
二人は宿舎を飛び出した。

「実験施設内にて実験用の原生生物が逃げ出しました。それの殲滅を手伝ってもらいたくて・・・」
パーティの編成要請を受けた二人にパーティ用の通信チャンネルからオクリオル・ベイの声が聞こえる。ラドルスの端末には他に二名のガーディアンがパーティになっているとの情報が表示されていた。
「時雨殿と音遠殿も来ていたのか」
ホルテスシティを本部へ向かって走っているラドルスの声を通信機が拾い、パーティメンバーへ送る。
「来ていたというか、最初に出くわしたのは俺達なんですよ」
「で、まずは本部に居合わせたベイさんを捕まえて、知っている人で最強のコンビを呼んで貰った訳」
時雨と音遠の声が順に聞こえる。そんなやりとりをしている間に本部内に入った二人だが、そこはアラート音の中駆け回るガーディアンの姿があった。
「あ、ラドルスさん!!実験動物が逃げ出し・・・」
ミーナが受付カウンターの中から声をかけるが、
「ああ、それで救援要請を受けて来た所だ、悪いがこのまま行かせて貰う」
「上に同じです〜」
と、立ち止まらずに受付を駆け抜ける二人
「お二人に星霊のご加護がありますように・・・」
ミーナの声を背に受けて、実験棟に入る二人。と、りりながラドルスの袖を引っ張って言った。
「ラド様、ベイさん達の所へ行くにはこっちが近道です」
と、りりなが資材搬入口と書かれた通路を指差す
「そうなのか?俺はこの辺は疎いんだ、先導をまかせる」
「んみゅぅ〜」
りりなを前に駆け出す二人・・・と、その出口に3人の男が横合いから飛び出してきた。内大柄な一人は袋を肩に担いでいるが、その袋がもぞもぞと動いている。そして、先頭を歩く男をラドルスは知っていた。
「ロブリル・マナート?」
呼ばれた男がこちらに気づく、そして慌てた様子で大柄な男を先に行かせ、二人でラドルス達を塞ぐ形に通路に陣取る。それを見たラドルスは通信機に呟く
「すまん、一度パーティを抜ける・・・こっちに用事が出来た・・・」
「ラドさ〜ん!!」
時雨の悲鳴を聞きつつパーティを抜けるラドルス、それを見てりりなをラドルスと同じくパーティを抜け、二人で編成を行う。
「ふん、薄汚いビーストの娘も一緒か・・・」
セイバーを構えながら、りりなを見てロブリルが鼻で笑う。
「ビーストも、ニューマンも、そして、優等種とかほざいているキャストも・・・元はヒューマンに使われる為に生み出されたものなんだ・・・」
もう一人の男がスピアを構えて呟く、その言葉に何か引っかかりを覚えたラドルス。
「・・・そのヒューマン主義な言葉、イルミナスとかいう秘密結社みたいだな・・・」
ラドルスのその言葉にロブリルが「ほう」と表情を変える。
「イルミナスを知っているとはな、ならば話は早い、俺はお前の腕を買っているんだ。お前ならあのイーサン・ウェーバーよりも使えるだろうとな」
「イーサン・・・ウェーバー・・・だと?」
ラドルスは呟きながらナノトランサーからソードを取り出す。しかし、出方が分からない上に片方はガーディアンということで、フォトンの刃は形成させない。
「ラド様を評価しているって点はいい事ですけど、どうせ悪い事をするんですよね!!」
りりなが杖をロブリルに向けて口を挟む、その瞬間ロブリルとスピアの男の表情が怒りに歪む。
「ビーストの奴隷ごときがヒューマン同士の会話に入り込むな!!」
スピアの男がりりなを指差して叫んだ瞬間、りりなの前に立っていたラドルスの姿が消え、悲鳴が通路に響いた。
りりながその方向を見ると、スピアの男が右肩を抑えてうずくまっている。そして、その肩から先にあるべきモノとスピアが床に転がっていた。
「ビーストは奴隷じゃない・・・」
うずくまった男の傍らにはラドルスが立っており、ソードを一振りして血を落とす。
「ラドルス、お前・・・今何をした・・・」
「見えなかったのなら、答えても無駄だ」
セイバーを構えなおしながらのロブリルの言葉に振り向きながら答えるラドルス。その目はりりなには初めて見る、殺気に満ちた目であった。
「答えて貰おうロブリル、さっきの袋に入っているのは『誰』だ?」
そう言ってソードの切っ先をロブリルに突きつけるラドルス。と、その背中に向かって男が床にあったスピアを左手で投げつける。
「黙って床に転がってろ・・・、口が動けば話は聞ける・・・」
さっきまで前にいたはずのラドルスの声が、男の後ろからしたと思った途端、回転をつけた右肘が男の鼻に直撃し、後頭部を床に叩きつけられた男はそのまま気を失う。と、本来ラドルスに当たるはずだったスピアはその向こうにいたロブリルの右胸に刺さり、再び悲鳴が通路に響いた。
「・・・」
初めて見るラドルスに、りりなはただ呆然していた。と、そこへ後ろから足音が聞こえる。杖を構えつつ振り返ると、そこにはルゥが立っていた。
「なんの用だ、ルゥ」
ロブリルに再びソードを突きつけながら、ラドルスが尋ねる。と、その視界に心配そうに自分を見るりりなが入る・・・。
ラドルスの視線が自分のものと重なった。と、りりなが思った次の瞬間、ラドルスが空いた手で自分の顔を殴った。
「ラド様!!」
すぐさまりりながレスタをかける。
「ありがとう、りぃ」
ソードを持ったまま自分に顔を向けたラドルスはりりなのよく知るラドルスの顔であった。
「んみゅぅ〜!!」
それを見た、りりなは思わずラドルスに抱きついていた・・・

「こんな非常時に・・・キャストの私には理解できない行動です・・・」
なにやら喚いているロブリルを後続の情報部に引渡し、ルゥはラドルスとしがみついたままのりりなを交互に見ていつもの耽々とした口調でそう言った。
「それにしても、先ほどの戦闘力は今までのあなたのデータからは考えられないものでした。データの修正が必要ですね」
「火事場のなんとやらって奴だ、修正の必要はないさ・・・で、あいつは・・・」
ラドルスが顎でロブリルを示す。
「既にお気づきだとは思いますが・・・、彼はイルミナスの内通者でした」
「内通者・・・」
「ええ、イルミナスの工作員を内部へ誘導し、実験用原生生物を放ち、その混乱に乗じて作戦を成功させたようです」
「作戦?あの騒ぎは陽動だったってことか・・・」
「はい。イルミナスの作戦内容に関しては、ラドルスさんがそれに関するミッションに関わった際に改めてお話します。では、失礼します」
と、一礼してロブリルと倒れた男、そして他の情報部の人達を連れて通路を戻っていくルゥ、
「実験用原生生物を放ちつつ・・・って!!」
ルゥを見送りつつ呟いたラドルスは大事な用を思い出して「あっ」叫んだ。
「ベイさん達の所にいかないと!!」

「これで終わりですかね?」
りりなが杖の石突で床を「トンッ」と突いて誰にとでも無く言った。周囲には大量の原生生物が倒れており、ガーディアン以外に動くものはいなかった。
「というか、もう少し遅かったらまじめにやばかったんですよ」
と、時雨がラドルスに愚痴をこぼす。が、ラドルスとりりなが到着した時には大半の原生生物が倒されていた。
「ど〜こが苦戦していたんだか・・・」
という言葉を喉元までにするラドルスの前で通路の扉が開き、二人の人影が視界に入ってきた。
「ネーヴ先生と総裁だ・・・」
音遠が呟き一礼し、一行もそれにならう。近づきつつ片手を上げるダルガン総裁。周囲を見回しラドルス達に労いの言葉を投げる。そして、次の部屋に向かおうとしたダルガンをネーヴが引き止める。
「どうしました?先生」
「いや、総裁は先に行っててくだされ、わしはちと用事があるでの」
と、総裁の向かおうとした通路とは反対の通路を示す。
「わかりました。先にいってますよ、先生。あ、君達も引き続き原生生物の掃討を頼むよ」
ラドルス達の目の前で二手に分かれるダルガンとネーヴ。
「では、次のブロックに行きますか」
オクリオル・ベイがそう言ってもう一つの扉を示し、一行はそこから次のブロックへ向かうのであった。

「ふ〜、終わった終わった・・・」
宿舎に戻り、テーブルにつくラドルス。テーブルの上のカップに口をつけすっかり冷めたコーヒーに顔をしかめる
「暖めてきましょうか?」
「いや、いい。これ飲んで新しいので口直しするよ」
と、一気にカップの中身を飲み干し、コーヒー豆の缶を出すラドルス。
「ところでラド様・・・」
「ん?」
コーヒー豆を挽きながらりりなの方を向く。
「あの時のラド様・・・、正直怖かったです」
「・・・すまない」
「・・・でも・・・」
「ん?」
「私の為に怒ってくれたのは嬉しかったです」
「・・・照れるから、そういうことは面と向かって言わないでくれ・・・」
そう言いつつも、豆をかなり細かく挽き過ぎた・・・と内心落ち込むラドルス。
「えへへ、私もホットミルクつくろ〜っと」
そんなラドルスの微妙な表情の変化に気づきつつも気づかなかった振りをして冷蔵庫からミルクの瓶を出すりりなであった。

「お姉さま、またあいつのデータですか?」
ストレート髪のキャストがポニーテールがいる端末室の入り口に立って言う。
「ん〜、今日の騒ぎでなかなか面白いデータが取れたので見ているのですよ」
ポニーテールの背中越しに画面を見るストレートヘア、そこには資材搬入通路で戦うラドルスの映像がスローで映っていた
「ほう、確かに面白いですね」
「でしょ?」
ストレートヘアの表情を見てポニーテールが微笑む
「フィレア、私はもう少しこれを見てみたくなってきたのですよ」
「任務に影響が出なければお姉さまの好きにどうぞ」
フィレアと呼ばれたストレートヘアのキャストはそう言って部屋を出る。それを見送ったポニーテールの端末にルゥの顔が映る。
「おや、ルゥじゃないですか、何か御用ですか?なのですよ」
「ヘルシンゲーテ、モトゥブへ行き、イルミナスの拠点捜索をお願いします」
「了解なのですよ」
「後、ラドルスさんの事を調べているようですが、任務に支障が出ない範囲に留めてください」
「・・・了解なのですよ・・・」

ガーディアンの宿舎にて・・・
「へっくしっ」
「さっきからクシャミが止まりませんねラド様」
「誰か噂してるのかな」
と、淹れたてのコーヒーを飲むラドルスであった。
事故と発表された原生生物の逃亡事故も無事収束し、一見平和に見えるガーディアンズコロニーであったが、その背後で起こった事件を知る者はまだ多くはなかったのであった。


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