第7章 モトゥブ壊滅

(ストーリーモード:「殲滅の代償」より)


 その日、モトゥブは先日来からの砂嵐が去り、久しぶりの快晴となっていた。大人達はそれぞれの仕事に出かけ、子供達が声を上げながら住居地区の広場を走り回っていた。
「ん?なんだろうあれ・・・」
子供の一人が雲ひとつ無い空を指差す。そこには見たこともないシャトルが一機、かなり高い所で旋廻していた。
「俺知ってるぜ、あれは同盟軍のシャトルだよ」
額に手をあてながら皆が空を見ている時、子供の一人が得意げに言った。「ふ〜ん」と最初に空を指差した子供が呟く。


・・・それがその子供の最後の記憶となった。


ガーディアンズ・コロニーにあるガーディアン宿舎の一室でアラーム音が鳴り響く、その宿舎の住人、ラドルスが飛び起きる。と、なぜか布団の中に潜り込んでいたりりなが布団ごと床に転がり、「ふきゃ」と声をあげる。
「そんなところで何やってるんだよ・・・」
「ゆうべは、なんか寒かったんですよ〜」
お前さんは猫かいな、と言いかけて猫だな・・・と、自己完結するラドルス。が、アラーム音にすぐに我に返る。
「本部への緊急呼び出しですね」
「ああ、いくぞりぃ!!装備は対SEED中心で組んでいけ」
自分のナノトランサーを持ち身支度を整えるラドルス
「SEED?」
「ああ、全く・・・やな予感はよく当たるってのは誰の言葉だったかな・・・」
対SEED用ラインを装着し、宿舎を出るラドルス。それに続くりりな・・・と、なんとは無しに宿舎の扉を見てしまう。が、ラドルスの催促の呼びかけに答え、首をかしげながらもその青髪の尻尾が揺れる背中を追いかけるのであった。

シャトルがモトゥブの大気圏に入った衝撃で小刻みに揺れる。その中でラドルスは腕を組んで黙って座っていた・・・脳裏には先ほどのガーディアンズ本部でのやりとりが思い出される。
「モトゥブでSEEDフォームの大規模発生が確認されました。同盟軍と協力し、その対処を行ってください」
ミーナの言葉に表情を変えずにラドルスは「やっぱり」とりりなにしか聞こえない位の小声で呟く。
「で、現場には誰が?」
「既に20近いパーティが現場に向かっています」
と、ミーナがラドルスに現場に向かっているガーディアンのリストを示す。アルトやオクリオルやルミナス、そしてライア・・・、ラドルスの知っているガーディアンの多くがそこには上がっている。
「・・・こんだけのメンツが揃っていて、まだ緊急コールがかかるのか」
「とにかく、数が多いそうで・・・」
「ラド様・・・」
りりながラドルスの手を強く握る。その手の震えがラドルスにも感じられた。
「とにかく、現場に向かう。りぃ、シルフィも連れて行くぞ」
「はいです〜」
シャトルの振動が弱まった事で、現実に引き戻されるラドルス。横にはりりなが眠っており、その横にはラドルスのパートナーマシンナリー(PM)のシルフィーネがラドルスとりりなのカップの片づけをしていた。
「シルフィ、対多数の長丁場になる。頼りにしてるぞ」
「私はへっぽこな誰かさんより腕は確かですよ」
「違いない・・・」
シャトル内にステーションへの到着アナウンスが流れた。

モトゥブのダグオラシティには人気がなかった。ラドルスとりりな、そしてシルフィーネがフライヤーベースの方へ向かうと、見覚えのある女性キャストがガーディアンに説明を行っていた。
「とうとう、ラドルスさんまで来られたのですか・・・」
「ゲイド殿、お久しぶり・・・っと、光希殿とμさんだったのか」
以前HIVE攻略の際に会ったミカリス・ゲイドといたのはニューマンのテクター光希とキャストのガンナーTYPE Mμである。
「なんか、大変な事になってるようで・・・私達は担当区域に行きますね」
「ああ、そっちも気をつけてくれ」
光希達は一礼してステーションに入っていく。ラドルスはそれに応え、ミカリスに向き直る。
「状況は既に聞いているようですね。それで、ラドルスさん達の担当区域ですが・・・このポイントをお願いします」
と、示された区域には赤い点が無数に表示されて、真っ赤になっている。
「これ、みんなSEEDフォーム反応かな?」
「そうです。300程の反応が確認されています。それと、SEEDウィルスのワクチン接種はお済みでしょうか?」
「ああ、自分もりぃも済んでる。ついで言うとそこのPMにも無理やりキャスト用のを処置してもらった」
「・・・予想されてたようですね。今日の事態を」
「外れていれば良かったんだけどね・・・範囲と規模は予想以上だったが、これは外れても嬉しくないな」
ミカリスの言葉におどけたように肩をすくめるラドルス。しかし、その顔は笑っていない。
「ならば、話は早いですね。速やかに担当区域の浄化をお願いします。それと、万が一生存者がいた場合は即、同盟軍に連絡をお願いします」
「・・・了解」
その時のりりなにはラドルスの返答が一瞬遅れた意味が分からなかった。

襲い掛かってくる最後のパノンを横薙ぎで払い、ラドルスが溜息と共に岩にもたれかかった。
「大丈夫か、りぃ、シルフィ・・・」
「はいです〜」
「私も問題はありません。戦闘続行可能です。」
周囲の安全を確認したうえで、ラドルスはナノトランサーから水筒を取り出し、中の成分調整済みの水を飲む。りりなも同様に自分の水筒の中身を飲んでいる。
「なお、今のでスコアが350体を越えました」
「何が300だよ・・・。それとシルフィ、単位は「人」だ」
「ラド様?「人」・・・って、まさか」
了解、と言ったシルフィの横で、水筒を持ったままりりながラドルスの言葉の意味に気づき、硬直する。
「ゲイド殿とも言ってただろう?予想通りだったんだ・・・」
「出かける時にも、もうSEEDフォームだと分かってたようですしね」
「イルミナスがSEEDウィルスを大規模散布するとしたら、モトゥブだってとこまでね」
「前にもそんな事を言ってましたが・・・風で流れやすいからですか?」
「それもあるが、肉体的抵抗力のあるビーストにも効果があれば、他の種族と大抵の生き物にも効果があるって証明されるしな・・・」
「・・・」
「今までのSEEDフォームは、元はビーストだったと?」
黙り込んだりりなに代わってシルフィーネが口を開く。
「そういうことだ。原生背物だけではこの数の説明がつかない」
「でも、それってつまり・・・モトゥブの人たちを殺しているって事ですよね」
りりなが涙目で呟く。
「俺も、この事態を想定してからずっと考えているけど、他に解決策が思いつかない」
「でも・・・」
「仕方ないだろう、総裁も既にこの処置方法を承認したんだ」
反論しようとした、りりなの頭上から声がする。見ると、黒い女性キャストが2人、岩の上に立っていた。一人は髪をストレートに、もう一人はポニーテールにしている。
「お前達は、HIVEで・・・」
HIVE「ライア」でラドルス達の前に現れたキャストである。
「覚えていてくれていたようで安心したのですよ〜」
「ま、忘れたくても人間の男っては美人の顔は忘れられないものらしいですわ、お姉さま」
岩の上から飛び降り、りりなの横に立つ二人のキャスト。
「にしても、こんな簡単に近づかせていいのかねぇ。とっくにこれの射程範囲だったんだが?」
ストレートヘアがライフルを出して構える。
「攻撃の意思はなさそうだったから、ほっておいたんです〜」
ラドルスの代わりにりりなが涙をぬぐいながら答え、「そいうこと」とラドルスが続ける。
「おやおや、このお嬢ちゃんも結構優秀なのですよ〜」
ポニーテールが驚いたようにりりなを覗き見る。
「当然だ、俺の相方なんだからな」
「えへへ〜」
と、りりなはストレートヘヤから離れ、トテテテテとラドルスの横に走っていく。
「で、総裁も承認したってのはなんのことだ?」
ラドルスの手にはハンドガンが握られている。「いつの間に持ち替えた?」と内心の動揺は隠して、ポニーテールが答える
「今回の大規模なSEEDフォームへの対応方法のことなのですよ。通商連合と同盟軍、ガーディアンズの間に、全て浄化処理する事で合意がとられているのですよ」
「・・・元に戻す方法がない以上、それが正論だろうな」
「おや、『あの』パルムの一件から、反対すると思っていたんだがな・・・」
ストレートヘアが意外そうな顔をする前で、ラドルスの顔が険しい物になる。
「・・・俺の事は全部調査済みってことかい」
「そうなのですよ〜」
「パルムの一件???」
りりながラドルスとキャスト達の顔を交互に見ながら首をかしげる。それに気づき、一呼吸してからラドルスが話し出す。
「・・・同名締結100周年記念式典の日、俺はパルムのある村で原生生物の退治をしていた」
「それって、SEED襲来の・・・」
「そうだ、それでその村は炎侵食でパニックになった。なにせ、普通の火事に見えても水では消えない火だものな・・・」
「更に、そこへ侵食で凶暴化したヴァーラがやってきたのですよ。そこの剣士の奮闘のかいもあって、村人の1/3は怪我はあったものの、なんとか生きてホルテスまで逃げれたのですよ。」
ラドルスの話にポニーテールが続く。その言葉にラドルスの叫びとハンドガンの銃声が重なった
「でも、2/3は助けられなかった!!」
ポニーテールの顔横の位置の岩に弾痕ができたが、ポニーテールは動じていない。そのまま懐からタバコを取り出し、火をつける。
「あの日、壊滅した村や町もあった中、お前は全滅は防いだ。SEEDの事も侵食の事も分かっていない状況でも1/3は助けられたと、なぜ考えられない」
フ〜っと煙をはくポニーテールに続いたストレートヘアの言葉に、ハンドガンを構えたまま黙るラドルス。それを見てストレートヘアはフッと鼻で笑った後に言葉を続ける。
「しかし、この状況を予測した上で浄化をしているということは、少しは悟っているようだな・・・。」
「元に戻す方法が分からない以上、浄化によってその魂を解放するのが、一番と考えただけだ・・・ベストが無い以上、モアベターな方法を取るしかない」
ラドルスの搾り出すような声を聞きながら、りりなの視線は、ラドルスのハンドガンを持っていない右手が強く握り締められ、そこから血が滴り落ちているのを捉えていた。
「まぁ、いい・・・やはり、お姉さまが興味を持つだけあって面白い・・・」
「フィーちゃんもそう思うですか?」
ストレートヘアの言葉にポニーテールが微笑んで続ける。
「という訳で、この任務に勝手についていくのですよ〜」
「拒否権は認めない」
「・・・はぁ?」
突然の話の展開にすっとんきょうな声をあげるラドルス、その右手にこっそりレスタをかけるりりな。
「その向こうには鉱石の加工場があるのですよ。二人とPMじゃちょっときついのですよ。言っている意味は当然分かるとは思っているのですよ」
「でも、そこさえ終われば、この辺の浄化は完了だ・・・っと・・・」
ストレートヘアが言葉の途中で通信機に耳を傾け始めた。その様子にポニーテールも同じ行動を取る
「・・・おやおや、あのビーストのお嬢さんも現実を知ったようなのですよ〜」
「素質はあるが、これで潰れるようならこれからの戦いには必要は無いでしょうね」
そんなやりとりが聞こえるが、ラドルス達にはなんのことやら分からない
「さて、失礼した。そろそろ、行こうか」
そういってストレートヘアがライフルを構えなおす。と、斧を出したポニーテールが思い出したように、
「そうそう、言い忘れていたのですよ〜。私はヘルシンゲーテ、そんで、彼女が・・・」
「妹のフィレアだ・・・」
「フィーちゃんと呼んであげてなのですよ〜」
「お姉さま!!・・・ラドルス、もし言ったら、撃ち抜く!!」
なんかどっかで見たような組み合わせだなぁ〜と思いつつも、先を行く二人の後をついていくラドルス達であった。

二人のキャストの戦闘力は凄まじかった。SEEDフォームを次々と蹴散らしていく
「戦闘力もだが、コンビネーションが凄いんだな」
剣を振るいながらそう分析するラドルス、
「さっきの紹介の言葉から姉妹のようですからね」
同じくテクニックでSEEDフォームを倒しながら答えるりりな、
「でも、私とラド様も引けをとらないと思いますよ?」
「その辺はうぬぼれてもいいと思います」
りりなの「えへへ」とシルフィーネの言葉が重なる。
「ラドルス!!」
フィレアの声に振り向くと、獅子と人を組み合わせた様な大型のSEEDフォームがラドルスに鎌のような右手を振り上げていた。振り向きの回転を利用し、その脇に剣を叩き込むラドルス。
「痛い・・・」
何か小さな声が聞こえたような気がして、剣を引き上げる手が止まる。
「何をしているのですよ〜」
ヘルシンゲーテが後方から大きく飛び上がっての斧の一撃を叩き込む。
「痛いよ・・・」
剣を抜き、正面に立って構えるラドルスに、今度ははっきりと声が聞こえた。
「意識が残っているのか・・・」
ラドルスは静かに目を閉じる。周囲のSEEDフォームはほとんど浄化され、修羅場に一時の静寂がよぎったが・・・。
「すまない・・・」
ラドルスがそう呟いた声がりりなに聞こえた次の瞬間にはSEEDフォームの頭が胴体から離れ地面に落ちる音が響いた。

残りのSEEDフォームを全て浄化し、その場で黙祷するラドルスとりりなとシルフィーネ。そしてそれを見ているヘルシンゲーテとフィレア・・・
「ま、死者を敬う気持ちは悪いことじゃないのですよ」
タバコを吸いながら呟いたヘルシンゲーテの通信機がアラーム音を立てる。
「はいはい、お仕事お仕事・・・なんなのですの〜」
「ヘルシンゲーテ、そこにラドルスさん達はいますね」
ルウの声が通信機から聞こえる。画像は荒れてほとんど見えない・・・
「いるのですよ〜」
「ならば、4人は至急パルムへ向かって下さい」
「パルムへ?」
「ホルテス・シティでキャストが暴走を始めています。その対処をお願いします」
「了解なのですよ〜」
と、通信機を切ろうとしたヘルシンゲーテの手を止めてラドルスが割り込む。
「ルウ、モトゥブからコロニーへも何組かまわしてくれ、陽動の可能性がある」
「その可能性は否定できません。こちらで手配します」
「頼む・・・」
そういって通信機を切るラドルス。りりなとシルフィーネがやってくる
「二人とも疲れているとは思うが、今日はもう少しがんばってくれ」
「了解」
「はいです〜」
と、ヘルシンゲーテとフィレアが別方向に歩いていく
「・・・どこへ行く」
「ここからなら私達のシャトルの方が近いのですよ、後剣士とテクターとPM位は乗れるから安心するのですよ〜」
「了解した」
そういって、二人の後を追う2人とPM

後に多くのガーディアンズにとって記憶に残ったであろう一日はまだ終わっていない・・・


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