第13章 闇を斬り裂く剣

(オリジナル)


 惑星パルムの西地区にあるGRM本社、その中にある客間のソファにラドルスとりりなは所在なげに座っていた。案内の人に「少々お待ちを」と言われてから30分近く経っている。
「ラド様、いいんですかね。私達こんな所にいて」
りりなが隣に座っているラドルスに尋ねる。ラドルスは天井の模様となっている線を辿るのをやめ…、相方のビーストの娘に視線を移し、
「まぁ、ライア総裁を通しての正式な要請だからね。来ない訳にもいかないでしょ」
と、肩を小さくすくめる。
 ガーディアンズはライアを新総裁として迎え、ようやくSEEDとイルミナスに対する組織的な行動を起こせるようになったばかりである。それこそ、コルトバの手やジャーバの爪も借りたい状況な中、GRM社よりラドルスのパルム本社への来訪要請があったのである。最初は渋ったライアであるが、正式な手続きで来た来訪要請であり、又内偵を始めたGRMから何らかの情報が得られるかも知れないと思い、ラドルスと念のためとしてりりなをパルムに派遣したのであった。
「それはそうと、ラド様・・・」
「ん?」
「本人の前で『総裁』つけたら、また蹴飛ばされますよ」
「ははは、そうだったね」
ライアは公の場以外では周囲に自分をただ『ライア』と呼ぶように言っている。その反応を面白がって「そうさぁ〜い」と呼んだアルトがドロップキックをくらったのは先日の事である。
「にしても…先方はこっちの事はよく知ってるようだな」
「ん?」
怪訝な顔をするりりなに、ラドルスは空になったカップを軽く持ち上げて見せる。
「ちゃんと俺にはブラックのコーヒー、りぃにはホットミルクが出ただろ?飲み物の好みまで知ってるって事さ」
「ええ、中々興味深い人材でしたので、調べさせて頂きましたよ」
ラドルスの言葉に部屋の外からの声が続き、一人の男が入ってくる。GRMの研究員服を着た中肉中背の男で、歳は30になっているかいないか、といった所である。男は片手に小さいケースを提げ、ラドルス達の前に座る。
「一応、はじめまして…ですね。GRM社武器設計主任のルムアです」
「ガーディアンズ機動警護部のラドルスです。こちらはパートナーのりりなです」
互いに一礼の後、ルムアは持って来たケースをテーブルの上に置く。
「前置きは省いて、単刀直入に行きましょう。ラドルスさんに、『これ』を使って貰いたくて今回は来て頂いたのです」
そういってケースをラドルス達の方へ向かって開ける。そこには未稼働状態のソードが一振り入っている。
「今の騒ぎで発売が遅れてしまったGRM社製の最新型ソード、ディラガンスレイ。新型フォトン・リアクターによりフォトンの圧縮率を高め、従来のソードに為しえなかった攻撃力を誇り、あのディ・ラガンをも一撃で倒せのではないか、ということからその名がつけられた…でしたっけ?細部が以前見た試作品とは違うようですけどね」
ラドルスの説明にルムアはほぉと感嘆の声を上げる。
「そういえば、我が社の新作発表会には毎回来て頂いてるんでしたね。おっしゃる通り、これはディラガンスレイのカスタムタイプです。コードネームは『ディラガンスレイMk-2』、開発部では『エルディザート』と呼ばれています。闇を切り裂く刃と言う意味だそうです。フォトンはその名の通り光フォトンで形成されます」
「ふむん、なんとなく話が読めてきた。…これも『あの装置』実装型ソードって訳だ」
ラドルスの声にりりなが微かに緊張する。恐らくりりなにしか判断はできない位に微かではあるが、声に敵意が篭ったのである。
「ええ、おっしゃる通りです。『あの時のソード』についていたモノの改良型が実装されています。でなければ、ラドルスさんをお呼びしたりはしません。そして、既にこれはラドルスさん用に調整がされているんです。後は実際に使って貰って最終調整のみの状態です」
ルムアはそういって目にかかっていた前髪を指で流しつつ微笑む。
「こっちも単刀直入に聞こう。『あれ』は一体なんなんだ?」
「『Lord of Field Sysytem』、周囲のフォトンを強制制御して、それを全てフォトンリアクターの稼動に用いています。現在のグラール文明の基礎ともいえるフォトンを支配する。文字通りその場の支配者たりえる装置ですよ」
「それで、あの場所のフォトンが極端に少なくなっていたんですね」
りりなの言葉にルムアは頷き。
「ええ、そのデータも見させて頂きました。こちらでの実験時以上にフォトンの吸収が行われたようですね。正直驚きましたよ。」
「何の為にそんなものを、武器の攻撃力を上げる為の装置として開発されたにしては大袈裟過ぎる気がするが」
ラドルスの声には明らかに敵意が混じっている。それを気付いているのかいないのか、ルムアは大袈裟に両手を広げ、
「ええ、元々は『あるモノ』を無力化する為に開発していたのですが…、運用で色々と問題が出てお蔵入りしそうになりましてね、その技術の副産物です。武器の攻撃力を上げると同時に、それは相手の纏うフォトン場…ガーディアンにはラインと呼んだ方が馴染みがあると思いますが、それをも弱体化、最終的には無効化できるのですよ。そして、これは…」
ルムアは言葉を一回切って両手を顔の前で組む。
「SEEDには勿論、Aフォトンにも有効なのです。理論上での話、Aフォトンの凝縮エネルギーも吸収可能なのです。」
ラドルスとりりなは同時に息をのむ。二人には『あるモノ』とは何であるか思い至ったのである。
「これは、元々はイルミナスのあの兵器対策に開発していたと言いたいのか…」
一瞬躊躇したものの、探りの言葉を入れるが、ルムアはあっさりと
「ええ、ガジェット対策ですよ。元々の装置は弾頭サイズに出来ず、事前設置がせいぜいな代物でしてね。そんなもので迎撃なんてできないって訳ですよ」
「なるほどね…」
「で、ここまでお話した上でもう一度お聞きします。『これ』を使って貰えますか?」
ルムアの言葉にラドルスは腕を組み、暫し天井を見上げる。そして、再度ルムアを見て、
「正直、自分の主義には反する武器なんだがな…、断られた場合の手は既にいろいろ打っていそうだな」
「ええ、お察しの通りです。で、こちらとしては即刻ラドルスさん用の最終調整作業に入りたいので、ここで返事を貰えれば、時間の無駄も省けて大助かりな訳です。」
「ま、例のL.F.S.とやらは強制稼動じゃないんだよな」
「ええ、そこは以前に使って頂いた物と同じ仕様です」
「ならば、基本的に普通のディラガンスレイとして使わせて貰うとするよ。」
ラドルスの言葉にルムアは苦笑しつつ、
「恐らく、使わざる得ない状況になるとは思いますがね…、兎に角、調整準備に入りたいと思いますので、又暫くここでお待ちを…」
ルムアは立ち上がり、部屋を出て行こうとし、ラドルスの方へ振り返る。
「参考までに聞きたいのですが、ラドルスさんの主義とは?」
「剣に限らず、武器は使い手の為に、使い手は武器の為に、互いに協力して歩んでいくモノだと思っている。しかしこいつは、まず使い手に自分の所まで上ってくるように求めている。それも周囲にから勝手に奪いつつ上った場所からだ。」
「…なるほど、今後の参考にさせてもらいましょう」
ルムアはそう言って、今度こそ部屋を出て行った。

 GRM社内のシュミレータールーム。一時間程待たされた後、ラドルスはそこに呼ばれて入っていた。りりなは外のオペレータールームで中の様子を見ている。待たされている間にラドルスはディラガンスレイの柄に自分の手の握りに合わせて布を巻きつけていた。その状態で通常の刃を出して軽く振っている。
「では、始めます。L.F.Sのスイッチを入れて下さい。最小レベルであれば周辺のフォトンだけで十分効果がのぞめます。」
ルムアの声が響いた後、ラドルスの足元に淡いフォトン光の円が広がっていた。
「またまた、こんなデータまで持っているとはね…」
L.F.Sのスイッチを最小レベルで入れ、剣を構えなおしたラドルスの前には、ダルク・ファキスが浮んでいた。ラドルス自身も以前あるミッションで戦った事があるガーディアンズでは第二形態と言われているモノである。
「あれは、ラド様でも一人じゃ無理です!!」
オペレータールームでその様子を見ていたりりながルムアに駆け寄る。以前戦った時は仲間もいて苦戦したのである。
「大丈夫ですよ、あなたのパートナーさんの力量を信じなさい。第一、模擬戦のようなファキス苦戦にするようでは…」
「主任、ラドルスさん、思いっきり逃げ回っています!!」
「・・・」
呆然とするルムアが見ている、オペレータルームの画面にはダルク・ファキスの尾から逃げ回るラドルスの姿が映っていた。時折斬り付けているのではあるが、どうみても牽制にしか見えない。
「あ・・・」
数回目の斬り付けで、りりなにはそれが何を目的としているか分かった。しかし、ルムアを始めとした研究員達には逃げ回っているようにしか見えないようである。
「なるほど…ね、こいつはなかなか強力だ…すっげ〜、疲れるけど」
シュミレーター内で戦うラドルスが小声で呟くが、マイクはそれを拾えなかったようである。そんな折、ラドルスの周囲に小さな火の玉が降り注ぐ。が…
「もしかして、こういうことも出来ちゃうのか…」
直撃コースの火の玉を切り裂いていくラドルス。直後に振ってきた巨大隕石の落着点を避けつつ、ダルク・ファキスに向かっていく。
そこへ、隕石が落着し、その爆風で転がるラドルスであったが、受身をとりつつ立ち上がりと同時に薬類を使用して、火フォトン過多による燃焼と、衝撃で受けた傷を回復させる。
そのまま、体を反転しフォトンビームを撃とうとしているダルク・ファキスに駆け寄り、ソードを叩き込む。そこで初めてルムアがラドルスの意図に気付く。
「フォトン場を消滅させていたのか!!」
「です、先程あなたが言った性能を試していたんですよ」
そんなやりとりをしている間にもラドルスはダルク・ファキスに止めを刺そうとしていた。が、何を思ったか、間合いを一旦取る。
「…意地が悪いですね」
微笑むりりな前でモニターでは剣を正眼に構えるラドルスが映っている。
「まさか…」
ルムアの予想通り、ラドルスはL.F.Sのレベルを最大に上げる。
「ルムアさん、これが見たいんだろ!!」
通常は真ん中が割れているフォトンの刃が一枚になり、鍔の左右部分からフォトン粒子が溢れ翼のように広がる。
「くっ、流石にきついな、これは…」
そのまま、一回り大きくなった光フォトンの刃をダルク・ファキスに叩き込む。断末魔の声を上げて、ダルク・ファキスは小爆発を起こしながら床下に落ちていく。それを見届ける前にラドルスはL.F.Sを切り、通常モードの刃を支えに片膝をついてしまう。
「あの時よりかはマシ、か…やっぱり、こいつは…」
りりながかけよった時には、ラドルスはそのままの姿勢で意識を失っていた。

 数日後、ガーディアンズ・コロニー。
大事を取ってディラガンスレイの調整が完了するまでパルムにいたラドルスとりりながパルムとのPPTステーションから出てくると、レニオスとゼロ、ジャバウォックが出迎えに来ていた。
「…なんか嫌な予感がするんだが?」
警戒の態度を見せるラドルスにレニオスは苦笑して、ジャバウォックに顎で何か指示を出す。ジャバウォックが傍らにあった箱をラドルスに向かって開ける。そこには一着の青を基調としたブレイブスコートが入っていた
「GRMの指示で作成依頼が来ていたモノがあってな、正直俺達と同じにしたかったんだが、多分着ないと思ってな、色はベイさんの見立てだ」
レニオスの言葉に、「確かに黒だったら受け取り拒否したな」と返し、それを受け取るラドルス。
「なんでも、お前さんの剣の反動を抑える仕掛けがしてあるらしい、言えば分かるとの事だが…」
レニオスの伺うような視線に黙って頷くラドルス、そしてその横に立つりりなにジャバウォックが一枚の紙と鞄を差し出す。
「で、お嬢ちゃんの方も同じ仕様で服をプレゼントするので、デザインとサイズをこれに書いて送ってくれってさ」
「ほむほむ」
「で、こっちはお嬢ちゃんに使ってみてくれと依頼が来ている弓、ヨウメイの試作品らしい」
「ほえ〜」
りりながケースを開けるとそこには弓が一張入っていた。りりなが使っているリカウテリに似ているが、若干デザインが変わっている。
「んみゅぅ〜、使ってみますね〜」
と、りりなが嬉しそうにその弓をナノトランサーに仕舞うと。レニオスがタイミングを待っていたように口を開く。
「で、だな…」
「ほら、きた」
と、ラドルス。
「ん?」
「いや、続けてくれ」
暫し横目でラドルスを見つつ、レニオスは言葉を続けた。
「これはまだ一部のメンバーにしか連絡がされていない事なんだが…。先程、惑星軌道上に巨大なHIVEが見つかった。場合によっては黒コートに召集がかかるかもしれん、その際には二人に協力を要請したいんだ」
「巨大ってどんくらいですか?コロニー位大きかったりして」
りりなの言葉にラドルスが「それはサービスしすぎだ」と突っ込んでいると…
「おしいなりりな、もうちょいおまけして惑星サイズだ」
『惑星〜!?』
レニオスの言葉に暫しだらしなく口を開けて言葉が出なくなる二人。なんとかラドルスが先に我に返り、
「…総裁はなんか言っているのか?」
「いや、ライアは昨日からモトゥブに行っていてな…」
「ローグスに直談判に言ったんですよ」
レニオスの言葉にゼロが続く。
「…ライアが直談判?殴りこみになってなければいいけど」
やれやれといった感じで肩を落とすラドルス。
「まぁ、ライアもこの連絡を受けてコロニー帰還の途についている。後数時間で到着の予定だ。ガーディアンズとしてどう動くかは2、3日後になるだろうが、先の件、心に留めておいてくれ」
「ああ、わかった」
「了解ですぅ〜」

 同日、ライア総裁は新生ローグスと共闘の約束が取り付け、対SEEDの第一歩を踏み出したのであったが、パルムとニューデイズは依然として沈黙を保っているのであった。



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