第14章 守りたい場所、いたい場所

(モトゥブのフリーミッション:「砂丘の楼閣」 より)


 ライア総裁と新生ローグスの対SEED、イルミナス打倒の約束が取り付けられた日、3惑星の軌道外周に惑星規模の物体が確認された。その宙域からAフォトン反応とSEEDの飛来が観測された為、それは巨大なHIVEではないかとの見解出された。
 その3日後、ラドルスはライア総裁に呼び出されていた。
「お呼びでしょうか?」
「ああ、来たか…」
側近のクランプと何らかの資料を見ていたライアは顔を上げ、部屋の入口に立っている青髪の青年を手招きする。総裁に一礼して部屋を出て行ったクランプとすれ違う形で総裁のデスク前に立ったラドルスに、ライアは紙の資料を差し出す。
「そこで構わないから一読してくれ、その資料はその後破棄する」
「…例の巨大HIVEの件ですか」
最初の数行にざっと目を通したラドルスの呟きに、ライアは軽く肩をすくめ、
「やれやれ、レニオスの奴案外口が軽いんだね。まぁ、相手は選んでいるようだけどね」
「あれの場合、上手く巻き込むつもりでもあったと思いますけどね」
苦笑しつつもライアの示した椅子に座り資料を読むラドルス。それにはガーディアンズ・コロニーからの観測による巨大HIVEのデータであった。
「まぁ、お前も事の中心付近の人間ではあるからね」
「自分としては、そういう役は他の人に譲りたかったですけどね」
「昔からそうだが、それは逃げだぞ。少しはアルティノアを見習ったらどうだ」
ライアの言葉に、ラドルスの脳裏にガーディアンズのエースの一人としての立場を確立しつつ一人の女性の姿が浮かぶ。
「逃げではなく、分相応って事ですよ。彼女は彼女の能力に相応しい働きをしてる訳で」
「まぁ、それはそうだが…」
「で、これを読ませて何をさせたいんです?」
資料を机の上に放り出して、ライアの方に向き直るラドルス。
「ああ、暫くの間トムレイン博士の指示で動いてもらいたいんだ」
「トムレイン博士の?」
Aフォトン研究の権威、カナル・トムレイン博士は一時期イルミナスに誘拐されていたが、現在はガーディアンズの保護下にいる。
「博士自身は巨大HIVEの調査隊を編成してもらっているんだが、いくつか他に調査して欲しいとの話が出ていてる」
「それを調べろ、と?」
「そういうことだ、同行者の人選は任せる。ただし、レニオスとその愉快な仲間達は調査隊の主力になってもらう予定だから連れて行けないぞ」
ライアの言葉に、脳裏に浮かんでいたリストにバツ印をつけるラドルス。残ったメンバーをライアに告げるが、更に何人かの削除を告げられる。不服そうな顔をするラドルスにライアは苦笑し、
「お前と同様の任務を他にもやらせているんだ、お前んとこばかりに人は回せない」
「なるほどね・・・」
苦笑しつつ、ラドルスは残ったメンバーで行く旨を再度ライアに告げるのであった。

「で、このメンツですか?」
クライズ・シティのカフェでオクリオル・ベイが同席したメンバーを見回して呟く。ラドルス、りりな、オクリオル・ベイ、ミツ、アルトの5人が丸テーブルを囲んでいる。
「と、いうかレインさんがいないのは珍しいですね」
「彼女はルミルミの方に取られた。向こうはアルトとセットで欲しかったようだけどな」
ミツの言葉にラドルスが苦笑しつつ答える。
「俺はレインのおまけかよ・・・」
ラドルスの言葉にそう言って大げさに天を仰いだ後にテーブルに突っ伏すアルト。
「と、いうか・・・あっちは女性中心だからなぁ・・・アルトがいると色々と問題があるんじゃないか?」
「まったく、素直に言えばいいのに…」
腕を組んで考え込むように呟いくラドルスに、りりながホットミルクのカップをテーブルに置いて続く。
「でしょうね。剣士殿としてはメンバー的に前衛がもう一人欲しかったでしょうからね」
怪訝な顔をするアルトに向かってオクリオル・ベイが独り言のように説明する。
「まぁ、そういうことだ」
そっぽを向いて呟くラドルスにりりなはクスッと笑ってからホットミルクのカップに口をつけるのであった。

 惑星モトゥブの西クグ砂漠の一角に新たなレリクスが発見されたのはモトゥブでのSEEDウィルス散布テロの少し前の事である。最初の調査隊が内部で旧世代の情報端末の様な物を発見していたのだが、機材の関係からその中に記録されているデータの吸出しと解析は第二次調査団で、となったのだが、その直後に起きたSEEDウィルス散布とコロニー落着事件、その後の混乱で放置されていた。混乱から立ち直った所で、第二次調査隊が編成されたが、SEEDに侵食された原生生物とスタティリアの起動が確認されており、その排除を兼ねた調査がラドルスに周ってきたのである。
「でも、気になるのが、その第一次調査隊が入り込んだ際に、既に人の出入りした痕跡があったことなんだよな…」
到着したレリクスの前での打ち合わせ、ラドルスが資料を確認しながら呟く。
「第二次調査隊はスタティリアに阻まれて撤退しているんですよね?」
「原生生物の進入防止策はとってたらしいんだが、それが破壊されていたのと、スタティリアが起動しているとは思わなかったらしく、護衛がそんなにいなかったらしい」
「まぁ、ガーディアンズもまだ完全に立ち直っていない時期でしたしねぇ」
ミツの問にラドルスが答え、オクリオル・ベイが続く。
「防止策って多分ネットだったんですよね?なんで壊れちゃったんでしょうか?」
呟きりりなが周辺を見渡す。
「モトゥブでの事件の際にSEEDフォームが破壊したと推測される。となっているな」
「こんなとこまで砂漠を越えてきたんでしょうか?」
りりなの疑問にラドルスが顎に右手を当てて考え込む。確かにりりなの言うとおり、クグ砂漠の奥にあるこのレリクスは地元の人間でさえ最近まで気付かなかった所である。あの事件の際にここまでSEEDフォームが来なかったとは言い切れないが、何かが引っかかる。
「なんか嫌な予感がするな、レインに何か隠し事がバレて待ち構えられている時に、玄関の前で感じるのと同じ悪寒がするぜ」
アルトの言葉に一同が苦笑するのであった。

 レリクス内部にはヴァンダ・オルガが大量に入り込んでいたが、それに加えてトラップが仕掛けられていた。元々はレリクスに備えられていたものなのであろうが、それに人の手が加えられていた。
「嫌な予感的中ですね、どさくさ紛れに誰かがここを使ってますね」
ラドルスの剣で叩き壊されたトラップの残骸を杖でつつきながら、りりな。
「だな、何をしていたんだか」
そう続いたのは、本人の要望でビル・デ・ビアとガチで殴り合っているアルトに万一の際には飛び込めるようにしつつも、周囲を素早く見ているラドルス。
「周辺の浄化は完了しましたよ〜」
「って、相変わらず熱いですな、彼は」
先に他のエリアの浄化をしていたミツとオクリオル・ベイがやってくる。
「サンクス。で、何か変わった事とかは?」
「この次の次のエリアですけど、噂のスタティリアがいますね、型は騎士と鳥です」
「犬もいましたけど、それは」
「鳥さんですかぁ〜、ラド様嫌いなんですよね・・・あれ」
スタティリアには犬型のガルヴァパス系、騎士型のスヴァルタス系、鳥形のライグタス系が確認されているが、いずれもその外殻は硬く、打撃が半減されるのである。特に空を飛ぶライグタス系は、剣が届きにくい事もあってラドルスが嫌いな敵リストに入っているのである。
「受けろ俺の拳を!!」
アルトの声が広場に響き、それにビル・デ・ビアの巨体が倒れる音が続く。その上に立ってポーズを取ろうとするアルトの首根っこをラドルスが掴む。
「はいはい、次いくよ〜」
「あっ、こら!!勝利のポーズがまだだ!!放せ〜!!」
足をバタつかせながらもラドルスに引きずられていくアルトであった。

「流石に疲れたな・・・」
動かなくなったスヴァルタスの上で勝利のポーズを取っているアルトを眺めながら、壁にもたれ掛って座り込むラドルス。りりながトテテテテとやってきてその横に座り、ナノトランサーから水筒を取り出して、ラドルスに渡す。
「サンキュ」
それに口をつけているその前で、オクリオル・ベイが壁を銃底で叩いて周っているのが見えた。そして、その動きはある地点で止まる。
「どうしました?」
件の端末に遠隔調査用の通信装置を取り付け終わったミツが駆け寄ると、オクリオル・ベイは壁の一部を交互に叩き、ミツに向き直る。
「・・・若干音が違いますね」
「こういった場所では隠し部屋ってのは定番ですからね…アルトさ〜ん」
オクリオル・ベイの手招きでスヴァルタスの上から降りてきたアルトがやってくる。
「どした?」
「いや、ここの壁、思いっきり殴って見てくれますか」
「おうよ!!」
気合と共に思いっきり拳を壁に叩きつけるアルト。
「ふっ、俺の拳に砕けぬモノなし」
アルトの言葉に一瞬遅れてと共にその壁が崩れ落ちる。そして、そこには通路が奥に向かって延びている。水筒をりりなに返しながら、ラドルスも一同の背中ごしにその通路を覗き込む。
「ところでミツ、例の端末はどうだった?」
「一応装置は取り付けましたが、期待薄ですね。データは吸い出された後、消されてますよ。」
「ふむん」
「この奥にある可能性はありますけどね」
「とりあえず、突撃してみましょう〜」
ラドルスとミツの話にりりなが杖を振り上げて続く。それに苦笑しつつ先に進む一行。通路はすぐに扉で塞がれている。
「動体反応がありますね」
呟くオクリオル・ベイの言葉で一行は扉の正面を避けて両サイドに分かれる。それを確認した後、オクリオル・ベイが扉を開る。一瞬の間の後、フォトン弾が一行の目の前を過ぎ去っていく。それを確認してオクリオル・ベイが凍結のトラップを中に放り込む。その煙が晴れた所でラドルスとりりなが先陣をきって部屋に飛び込む。中には凍結状態のイルミナスのキャスト兵が3人おり、りりながノス・ディーガを放ち、続けてラドルスが順次ソードを振るう。が、最後の一人といった所で、なぜかその動きが止まる。
「ラド様!?」
凍結が解除されその無防備な頭に銃を突きつけたイルミナス兵にりりながノス・ゾンデを放ち。吹き飛ばされ動かなくなったイルミナス兵には目もくれず、ラドルスにかけよったりりなではあるが、ラドルスの視線の先を追った途端、やはりそのまま硬直してしまう。
「やれやれ、出番無しか・・・よ・・・」
軽口を叩きながら部屋に入ってきたアルトであったが、正面にあるモノに思わず立ちすくむ。そして、続けて入ってきたミツとオクリオル・ベイも同じ状態になる。
部屋の正面には数本のガラスケースに入ったビーストの少女が入っており、その姿はどことなくりりなに似ているのであった。

 ガーディアンズに報告の後、マヤの指揮の下に機材の回収チームが派遣されることとなった。一行には帰還命令が出たが、ラドルスとりりなはその回収チームの護衛の為にレリクスに残る旨を伝えた。アルトとミツは何か言いたげであったが、オクリオル・ベイに促され、ダグオラ・シティへ帰還の途についた。レリクスの入口近くの岩に二人は座り、暫く黙って砂漠を眺めていたが、ラドルスが先に口を開いた。
「ニューデイズでも同じモノを見た。ただし、あっちではガラスケースの中は空だったが、残ったデータから察するに同じ事をしていたんだろう。」
「私も同じ存在なんでしょうか?」
「分からない。・・・いや、多分そうなんだろう。なんの為かは分からないが、強靭な体と精神力を持つ生命体を作るのが目的だったらしい」
「イルミナスの事ですから悪いことなんでしょうね」
『・・・』
二人の間に再び静寂が訪れるが、今度もそれを破ったのがラドルスであった。
「だけど、りぃはりぃだ。どんな存在であろうとそれは関係ない」
「!?」
「違うか?」
ラドルスの問に黙ってりりなは空を見上げる。
「ここに、ラド様の隣に居ていいんでしょうか」
「いいんじゃないか?」
あまりにあっさりした返事に問いかけたりりなはどう反応していいか分からなかった。
「だから、りぃはりぃなんだ。食いしん坊で寝るかホットミルク飲んでれば幸せな、自分の相方の頼りになるガーディアン。自分は、そんなりぃとの場所も守っていきたい」
りりなは空を見上げた黙っている
「・・・私は、私はやっと見つけたこの場所に・・・」
「ん?」
「私は、この暖かい場所にいたいです」
ラドルスは黙ってりぃの肩を抱き寄せる。りりなはそのままラドルスの腕の中で泣きじゃくるのであった。

 翌日、回収班と共にラドルスとりりなはガーディアンズ・コロニーに帰還した。更に翌日、マヤからラドルスとライアに、ガラスケースで回収された生命体が全員その生命活動を停止した旨を受ける。そして、最後にはこう付け加えられていた。
「今回発見されたのはクローン体であり、またデータ上に数十人単位で、同タイプのクローン体が各所に配属されている模様」
それを読んだラドルスはその事をりりなにも告げず、端末から消去したのであった。

 同日、グラール教団の幻視の巫女と星霊主長ルツの連名でガーディアンズへの協力受諾の声明がグラール全惑星に発せられた。混乱の渦中にあったグラール太陽系も打倒イルミナスとSEED撲滅へ向けてその体制を立て直しつつあった。
 そしてそんな中、トムレイン博士率いる第一次調査隊が暗黒惑星から帰還し、トムレイン博士はライアを通じてガーディアンズにあるシュミレーター解析の協力を要請するのであった。


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