第16章 同盟軍本部奪還作戦

(ストーリーモード:母への絶縁状 より)


「お久しぶりですね・・・」
ガーディアンズ本部の一室、呼び出されたラドルスはそこでルムアの姿を見つけた。
「わざわざこっちに来てまで文句を言いに来たのかな?」
ルムアとテーブルを挟んで正面に座り、ラドルスは肩をすくめる。
「あの日以来、大小問わず20前後のミッションをこなされているようですが、あれも一回も使っていないのは確かに文句の一つや二つも言いたいですが・・・、まぁそれはついでです」
「ついで?」
「ええ、ライア総裁に用があったのでね。」
「ほむほむ。まぁ、とりあえずいつも持ち歩いてはいるとだけ言っておこうかね。」
「その辺にほっぽとかれるよりはマシですかね・・・」
ルムアの苦笑を見つつ、ラドルスは立ち上がる。どちらへとのルムアの問いに
「ホルテス・シティに陣中見舞いに・・・」

 ガーディアンズがグラール教団からの協力の約束を取り付けてから暫くたったある日、ガーディアンズのライア総裁は、同盟軍の暴走キャストの対応の為、ある作戦を実行した。
同盟軍兵士にプログラムされている統制モードを制御しているシステムの停止を目的とした作戦であり、ミッションは完了したのだが、停止したシステムとは別にマザーブレインと呼ばれる中央制御装置があることが判明する。
再度マザーブレインの停止作戦を発動するライアであるが、発動直後にある報告が入る。
「暴走キャスト達が同盟軍本部から出撃の体制を整えているだって!?」
ホルテス・シティの西部にある同盟軍本部から同盟軍兵士が街への出撃準備をしているのが確認されたのである。
同盟軍兵士によるホルテス・シティ破壊活動を懸念したライア総裁は、逆にこれを機にマザーブレイン停止作戦の後方かく乱も兼ねた別作戦の発動を決意する。
「同盟軍本部の制圧作戦を開始する!!」
そして、その作戦は本部で暇そうにしているある部隊に課せられたのである。

ホルテス・シティと同盟軍本部の間には陸橋架けられており、徒歩ではそこを通るしかない。そして、その中央近くにバリケードを築いて陣取った同盟軍兵士に向かって突撃する姿があった。
「無茶するな、ジャバ!!」
黒コート姿の男が後方から銃で援護しながら叫ぶ。
「無茶は承知!!やぁぁぁってやるぜ!!」
前方から絶え間なく続くフォトン弾の光の中、命中コースの物だけをその武器で弾きながら同じくジャバと呼ばれた黒コート姿のビーストの男が突撃していく。敵陣の直前でその姿が光に包まれ、青い光に包まれた巨大な獣が現れる。そのまま、その獣はその腕を振り回して周囲の敵をなぎ倒していく、そして・・・
「まさしく、壁・・・だな」
その影に隠れるように黒コートの男達が続く、すると・・・、獣の姿が光に包まれる
「・・・へっ」
黒コートの男達の視界に、銃を構える同盟軍兵が見える。そして、それが一斉にフォトンの光を放つ。
『どわぁぁぁぁぁぁぁ』
黒コートの男達は慌てて左右のバリケードの影に散るのであった。

 ホルテス・シティの西地区、パルムカフェと呼ばれる店先に立てられた幾つかのイベントテントを眺めながら、青い髪の青年と紫のツインテールの少女が連れ立って歩いている。二人はあるテントの前で立ち止まるとその中に置かれたテーブル上の紙を眺めている二人の黒いコート姿の男に声をかけた。男の一人―黒コート愛好会局長レニオス―が振り向いてやって来た二人、ラドルスとりりなを交互に眺めて呟く。
「ナイスタイミングだ・・・」
「・・・そんじゃ、そういうことで!!」
その呟きにシュタッっと片手を上げて立ち去ろうとするラドルスの襟首をもう一人の男―副長ゼロ―がつかむ。
「まぁまぁ、そう言わずにここに座って・・・今コーヒーを出すから」
ゼロに示された椅子に苦笑しながらも座るラドルス。りりなもその隣にちょこんと座り、ゼロに出されたホットミルクのカップに口をつける。
「レニオスの『ナイスタイミング』はなんか嫌な予感がするけど、話を聞こうか」
「話が早いじゃないか」
レニオスはテーブルの上に置かれたティーカップに一口だけ口をつけてから説明に入る。
「同盟軍本部へは、この先にある陸橋を通らなければいけない訳なんだが」
「あのお堀は深そうだしなぁ」
「飛んでいけば対空砲の餌食が確実さ」
ラドルスの言葉にレニオスは肩をすくめて応え話を続ける。
「ぶっちゃけると、陸橋を越えようとしている俺達と、出ようとしている暴走キャストが鉢合わせ中な訳だ」
と、レニオスはテーブルの上に広げられた地図の一点を指差す。陸橋の半分位の所にポイントが書き込まれている。そこまでの書き込み内容を見てりりなが呟く。
「少しずつ進んで、そこまでたどり着いたってとこですね」
「そんなとこだ、まぁ・・・善戦はしているとは思うよ」
ゼロの言葉に頷くレニオス。
「で、ちっとテコ入れに出ようと思っていた所に丁度盾になりそうな剣士殿が来た訳だ」
「そういうことね・・・」
立ち上がったラドルスを見て、りりながカップの中を飲み干して立ち上がる。
「ほんじゃ、行きますかね」

 同盟軍本部入口へと続く陸橋の中程、破壊された戦闘車両の破片等で作られたバリケードの影で二番隊と一番隊の隊長が破片越しに聞こえる着弾音に苦笑していた。
「さぁて、どうする?」
二番隊隊長―封神―がハンドガンで応戦しながら一番隊隊長―ジャバウォック―に尋ねる。
「ちょっと俺の武器にはあいつらは遠いんだよなぁ・・・」
「あそこまで届く剣ってのは確かになさそうだなぁ」
二人のやりとりに他の隊員達が笑みを浮かべている。そんな彼らの横を、一同のリーダーが通りすぎる。
「っと、局長危ないでっせ」
ジャバウォックの制止もスルーして、レニオスはバリケードの上に片手をついてヒョイっと飛び越える。
「やれやれ・・・りぃ、援護を頼むよ」
「はいですぅ〜」
呆然とするジャバウォックの横をラドルスがレニオスと同じようにバリケードを飛び越える。そして、封神とジャバウォックの間にその相方の少女がちょこんと自分の場所を確保する。そこへ同盟軍兵士達が一斉に銃を撃ち始める。ラドルスとレニオスはそんな事関係無しにハンドガンを撃ちながら左右にステップしながら突撃していく。
「すげぇ」
「ほらほら、感心してないで援護援護」
感嘆の声を上げたジャバウォックの背後にいつの間にかゼロが立っており、手持ちのロングボウで同盟軍に牽制をかける。そして、りりなもラドルスの前方へ着弾するようにノス・ゾンデを放っていく。
「流石に、この距離を全力ダッシュはきついな」
呟きながらも、基地入口に立って銃を撃っていた同盟兵の目の前で最後はスライディング気味に間合いを詰めて、右手のセイバーでライフルの銃身を斬り落とし、立ち上がりながらハンドガンを0距離から撃ち込むラドルス。
「泣き言は立ち位置を確保してからだ」
間合いに入る直前でナノトランサーから愛用のツインセイバーを取り出し、体を回転させながら左右から襲い掛かる同盟軍兵士を同時に斬り倒すレニオス。更に通路から出てきた同盟軍兵士の一団の中に飛び込むと、左右の剣の一振り毎に一体の同盟軍兵士が倒れていく。獲物を愛用のカリバーンに切り替えて戦いつつ、横目でそれを見ていたラドルスは苦笑交じりの思いを口にするのをこらえていた。中々どうして、あれだけ動けるのに、なんでいつもさぼっているのだか・・・。
『局長!!』
「ラドさま!!」
ジャバウォック達とりりなが立て続けに基地入口に入ってくる。が、その時には既に周辺の征圧は済んでいた。
「すげぇ・・・」
封神の言葉にラドルスが苦笑しつつ呟く。
「ほとんど、あんたらの局長さんの仕事さ」
「ほへ〜」
りりなが視線をレニオスに移すと、その当人は剣をナノトランサーにしまい、壁に寄りかかって座り込んでいた。
「と、いう訳で俺はとっても疲れた。ここに本陣を移した後は休ませてもらうぜ」
一同は苦笑するしかなかった。

『こちら二番隊、ポイントα2を確保』
『こちら一番隊、ポイントβ1を確保』
同盟軍基地入口に移動した本陣に次々と要所制圧の報告が入ってくる。そして、次の制圧ポイントを指示していくレニオス。
「ほう、普段は面白軍団にしか見えないけど、まともに作戦行動取れるんだな」
「意外ですね・・・」
その様子を見ながら呟くラドルスとりりな。
「お前等・・・俺達をなんだと思ってるんだ?」
『さぁ〜ねぇ〜』
と言っていた横で、緊急通信が入る。
『こちら三番隊、救援を請う!!新種の人型SEEDフォームが!!』
そのまま途切れる通信。一瞬の空白の後、レニオスとゼロは他の部隊の現在位置の確認を始め、どの部隊に救援に行かせるかを考え始める。
「嫌な予感がする。俺もいく」
ナノトランス内の武器とアイテムを確認し、本陣を出て行くラドルス。
「勿論、私も一緒です〜」
その後ろをりりなが追うのであった。
「とりあえず、一番隊のB班を現場に向かわせろ、至急だ」
レニオスの指示にゼロが通信を送った。

 ラドルスが現場に到着すると、通路には黒コートの男達が倒れている。いずれも微かに息はあるようであった。
「りりな、応急処置を」
「はいです〜」
返事の後、りりなは順番にレスタをかけていく。と、通路の奥から雄叫びが聞こえた。
「ん?あの声・・・ジャバか!?」
カリバーンを手に駆け出すラドルス。りりなも全員にレスタをかけ、その後を追う。ラドルスが通路の突き当たりに出ると、そこは踊り場になっており、そこでジャバウォックが何かと戦っていた。長く赤い髪を振り回す女性のようでもあるが・・・纏ったオーラにはSEEDフォームのそれであった。
「助太刀するぜ!!」
剣を構えて突撃するラドルスの横をその腕に吹き飛ばされたジャバウォックが飛んでいった。
「レグランツ!!」
飛んできたジャバウォックをりりなが反射的にレグランツで弾き飛ばす。
「ひ、酷いな嬢ちゃん・・・」
「ふきゃ!?ケダモノさんでしたか」
慌ててレスタを架けるりりなの姿を横目に、ラドルスはSEEDフォームの正面に立ち、その長く伸びる腕の攻撃を弾いていく。
「おやおや、お前も中々やるじゃないか・・・黒コートの仲間かい?」
「!?」
SEEDフォームに話しかけられたという事に驚くラドルス。そしてその隙を突いて横薙ぎの腕に弾き飛ばされるラドルス。
「くっ」
空中で受身の姿勢をとって、なんとか壁に叩きつけられるのは回避するラドルス。着地したところへりりなが補助テクニックをかけていく。
「さんきゅっ」
「えへへ♪」
ラドルスが再度間合いを詰めようと駆け寄ると、その横をノス・ゾンデの雷球が通り過ぎ、SEEDフォームにの足元で弾ける。と、そのSEEDフォームがりりなを見て驚愕の顔に変わる。
「あれは実験体・・・そうか、生きていたのか・・・」
今度はその隙をラドルスが逃さず、SEEDフォームの左腕を肩から斬りおとす。悲鳴を上げて後方にさがるSEEDフォーム。さがった距離をそのまま詰めるラドルス
「俺も忘れては困るぜ」
ツインセイバーを構えてラドルスの影からジャバウォックが飛び出し、体を半回転させながらその両手の剣を横腹に叩きつける。が、その直後に赤く太い物体がラドルスとジャバウォックの視界に迫る。『髪の毛?』と思ったときには床に叩きつけられる二人。直後ジャバウォックはなんとか立ち上がり、追い撃ちをかわすが、ラドルスはそのまま脇腹に髪の毛が突き刺さる。
「ラド様!!」
ジャバウォックがラドルスをかばうように剣を構え、りりながラドルスに駆け寄る。うつぶせになったままピクリとも動かないラドルス、そしてその周囲にに赤い液体が流れていくのがりりなの視界に入る。
「ぐおっ!!」
ジャバウォックの悲鳴に振り返ると、右肩と左足に髪の毛を突き刺され持ち上げられるジャバウォックの姿があった。
「ジャバさん!!」
「ぐっ、早くそのへっぽこの手当てを・・・こっちはなんとかするさ!!」
左手に持った剣で右肩に刺さっている髪の毛を斬り落とすジャバウォック。バランスを崩して体が床に落下する。りりなが泣きそうになるのを堪えながらレスタをラドルスにかけているのを見ながら、SEEDフォームとりりなの間になるように立ち上がるジャバウォック。
『ジャバ、後数分で封神とゼロが到着する。もちこたえろ!!』
レニオスの声が通信機から聞こえてくる。それまでもつかな・・・と内心呟くジャバウォックにSEEDフォームの右腕がつかみ掛かり。そのまま無造作に放り投げる。
「ジャバさん!!」
なんとか止血が済んだラドルスの横でりりなが叫ぶ。が、壁にもたれかかったままうなだれているジャバウォックからの返事はない。
「さぁ〜って、今度はお嬢ちゃんの番だよ」
歩み寄るSEEDフォームの前にりりなが立ち上がる。
「お嬢ちゃんに、勝ち目はないよ」
妖艶ともいえる笑みを浮かべるSEEDフォームに向かって杖を構えるが、すぐさまその手が髪の毛にはたかれ、杖が転がり、ジャバウォックの足に当たって止まる。りりながナノトランサーから別の杖を取り出すが・・・実体化した直後に再びその手に髪の毛が当たり杖を叩き落とす。
「さぁ〜って、後何本持っているのかな」
りりなの目の前で歩み寄ったSEEDフォームはりりなを見下ろす。
「杖がなくても、ラド様は私が守るんです!!」
「では、見せてもらおうかしら」
次の瞬間、りりなの横を数条の髪の毛が伸びていき、ラドルスの両手両足に突き刺さる。
「!?」
「守るんじゃなかったのかしらね!!」
先ほどのジャバウォックと同じようにラドルスの体を持ち上げ、ジャバウォックの横に放るSEEDフォーム。微かなうめき声を上げるラドルスを見たままりりなは動けなくなる。
「これで止めといこうかね」
数条の髪の毛がSEEDフォームの周囲で浮き上がり。ラドルスの方向へと向きをそろえる。
そして、それがラドルスへと一斉に襲い掛かかったが・・・
「なに!?」
SEEDフォームが驚愕の声を上げる。金属同士がぶつかった様な音を立てて髪の毛がラドルスの周囲で何かに阻まれている。何かがその周囲に舞っているのが微かに見える。
「結晶化した高純度フォトン・・・なのか?」
呟き、振り返ると・・・
「ラド様は私が守るんです!!」
決意の表情で歩み寄るりりなの周囲に同様の結晶が舞っていた。そして、それらが八方からSEEDフォームに襲い掛かかる。その衝撃に身体がよろめいた所へ、アッパーを受けた形で結晶があたり、SEEDフォームは後ろに吹き飛ばされる。
「ふざけるんじゃないよ!!実験体風情が!!」
立ち上がり、数条の髪の毛が一斉にりりなに向かって伸ばすが、それは全てフォトンの結晶に阻まれる。
「・・・行け」
りりなが静かに呟くと、今度は結晶のいくつがが細い槍のような形に変わりSEEDフォームに襲い掛かる。髪の毛を振り回し、それらを弾き飛ばすSEEDフォームであったが、弾き飛ばされたそれらが空中で角度を変え、結果、全方向からSEEDフォームに突き刺さる。苦痛の声を上げるSEEDフォームを横目に、りりなが腕を振り下ろすと、結晶がラドルスとジャバウォックに張り付く。結晶が仄かに光フォトンの輝きを放つと、二人がうめき声をあげて目を開ける。
「り、りぃ・・・」
思ったよりもしっかりとした足取りで立ち上がったラドルスを見て形勢の不利をSEEDフォームが感じ始めたその時、通信が入る。
「例の小娘達にマザーが破壊された。長居は不要だ、撤退するぞ」
「分かりました」
その様子に気付いたラドルスが足元にあったジャバウォックのツインセイバーの一本を手にとって突撃する。が、斬りつけた剣は空を切り、見上げたラドルスの目の前には宙に舞ったSEEDフォームがいた。
「今回はここで退くけど、次は容赦しないよ!!」
と、捨て台詞を残して姿を消し、りりなの放ったフォトン結晶その直後に消えた空間を通り過ぎる。
「とりあえず、凌いだ・・・のか」
「みたいですね」
呟きその場で座り込んでしまったラドルスとりりなの耳に、ゼロと封神の声が聞こえたのであった。

 その後、同盟軍本部は黒コート愛好会によって制圧が完了。暴走キャストの制御を行っていたAフォトンウェーブの発信も途絶えた為、同盟軍はその機能を回復した。その数日後、カーツを代表とした臨時司令部がガーディアンズに対してSEEDとイルミナスに対する共闘を約束し、ついにグラールの主な勢力がガーディアンズの呼びかけの元に集うこととなったのである。
「で、りぃの『あれ』はなんだったんだ?」
ここ数日の動きを伝えるニュース番組の音を聞きながら、宿舎でコーヒーを淹れていたラドルスが横でホットミルクの鍋をかき回してるりりなに尋ねる。
「ん〜、よくわからないんですけど、やり方が頭に浮かんだというか・・・自然とできちゃったんです」
「ふむん。まぁ、それならそれでいいけどね」
「って、それでいいんですか?」
「本人が分からないって言ってるのに、それ以上聞いてもしょうがないだろ。よっし、入った。そっちもできたら、お茶にするか」
「はいです〜」
鍋からカップにホットミルクを注ぎながらいつもの笑顔で返事をするりりなであった。


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