第18章 ハビラオに舞う光

(ストーリーモード:フォトン採取作戦 より)


 イルミナスのガジェット量産基地の破壊ミッションから帰還したラドルス達は一時の休暇を楽しんでいた。しかし、その裏では各惑星代表による首脳会議が開かれていたのである。議題は発見された巨大HIVE―リュクロス―にどう対抗するかであった。
 その首脳会議の最終日、ラドルス達に召集がかかる。
「なんだろうね?」
「恐らくSEED対策に目処がたったって話だと思いますけど」
と言っているのはガーディアンズ本部への道を歩きながらラドルスとりりな。本部に到着すると、ミーナに大会議室へ行くように通達が出ている事が知らされる。そして、カウンターには黒コート愛好会局長の姿もあった。
「レニしゃも?」
片手を挙げて挨拶したラドルスにレニオスは応えて、二人の方へ歩いてくる
「こっちは代表が数名来いって通達があったんだが…さっきからここを通ってるメンツを見ていると、嫌な予感がするなぁ」
「嫌な予感?」
「中堅所から上が皆呼ばれているっぽいんだ…そういう大事には巻き込まれたくないだろう?」
どうやら本気で言っているらしいレニオスの首根っこを掴み、レニオスの抗議を無視してラドルスは大会議室へと向かったのであった。

 大会議室にはレニオスの言うとおり多くのガーディアンの姿が既にあった。お互い見知った同士で話をしているようだが、ざっと聞こえる範囲ではこれから何が話されるのかを把握している者はいそうにない。
「なんか、嫌な予感がしてきた」
「だろう?」
ラドルスの独り言に突っ込みを入れるレニオス。
「そういや、ジャバの様子はどうなんだ?」
「ですです、復帰はしているって聞いてはいるんですけど、姿を見ないんです」
他に思いついた話題も無いので、同盟軍本部での戦闘で負傷した黒コート愛好会の一番組隊長の事を尋ねてみるラドルス。
「まぁ、元々怪我は大した事無かったからなぁ…どちらかというと、調査部に連れてかれてるってのが正しいんだ」
「調査部に・・・ですか?」
りりなの相槌に頷き、レニオスは右手の人差し指を立てて…暫し沈黙する。その様子に怪訝な顔を浮かべたラドルスにレニオスは苦笑で返してから、
「ほら、話に聞いただけで名前が出てこないんだが…お前さんがトンズラこいた時に居所教えてきた、揃いの黒い素体を使ってる女キャストが二人いただろう」
「ああ、ヘルシンゲーテとフィレアか」
「そうそう、あいつら調査部所属らしいんだが…」
「調査部?・・・なるほどね」
今までの事を思い起こし、全てが繋がったと一人納得するラドルスであったが、
「あ、総裁が来られましたよ」
りりなの言葉に我に返る。
「遅れてすまない」
その声に振り向くガーディアン達の前をライアが通り過ぎるが・・・その姿に皆の視線が釘付けになる。その視線を感じてライアは一瞬戸惑うが、
「?…ああ、コレか。ネーヴ先生がどうしても着替えていけって煩くてさ」
ライアの視線を受けて威厳のある格好をしてもらわないと、とネーヴ、最後に皆に似合っているじゃろ?との言葉に喝采が送られる。苦笑しつつも本題に入ると話しを切り替えるライア。
「まずはみんな・・・ガーディアンズ・コロニーが落ちてからこれまで本当によくやってくれた。みんなのお陰でイルミナスをブッ潰すことができた。正直、たった数ヶ月でここまでできるとは思ってなかったよ。みんな、本当にありがとう」
再び喝采があがる。それが一段落するのをまって、ライアは言葉を続ける。SEEDとの戦いを終わらせる為には暗黒惑星リュクロスをぶっ潰す必要があると。そして、その為に全ガーディアンズに緊急任務を下命することにしたと・・・。
一体どんな命令なのか、静まり返る会議室にライアの声が響いた。
「――キノコ狩りだ」
一瞬の沈黙の後、大会議室には驚愕の声が響き渡るのであった。

「え〜っと、つまりですね。封印装置のエネルギーは今殆ど無いんです」
「まぁ、それは分かる。それとキノコがなんの関係があるかってのが分からない」
そう呟くアルトをはじめとして、クライズ・シティのカフェでりりなが座っているテーブルを中心に『今ひとつ説明が分からなかった面々』がりりなの話を聞くために集まっている。
「トムレイン博士はどうやら通常フォトンで『合の時』を起動させようとしているらしいな」
レニオスの言葉に、りりなが「その通りです」と言ってから、
「Aフォトンではなく、LSSを応用したフォトンジェネレータで起動することにより、人の心から発生するフォトンを利用しようって事なのです」
「・・・それって、気合と根性でSEEDをなんとかしようって事か?」
ビーストのガーディアンの言葉にりりなは暫し考えて、
「まぁ、そんな所です」
「・・・なんか、すっげ〜馬鹿にされてないか、俺」
にっこり笑ったりりなの顔に釈然としないと言った感じのガーディアンの言葉に笑いが起こる。
「でも、このジェネレータはとっても高いようなんです。それで、さっきのキノコさんの登場になるわけです。そのキノコにはフォトンの出力向上の触媒になるそうなんです」
「なるほどな、それでLSSの不足分を補うって訳か」
「ですです」
ラドルスの相槌にりりなが笑顔で返す。
「ただ、量が半端ないよなぁ〜」
封神の言葉に頷く一同、概算ではあるが、70万Kvのキノコが必要と言われているのである。
「そんなに生えてるのかよ・・・って話だよな」
「それは行って見ないと分からないそうなんです」
アルトの言葉に自分の事のようにシュンとなるりりな、その頭にラドルスはポンッと手を置いて、
「出たとこ勝負はいつものこと、今はやれることを精一杯やろうぜ」
『だな!!』
「ならば、各自さっさと準備して出発する。モタモタしてると総裁にニューデイズ方向にぶん投げられちゃうよ」
「ライアならやりかねないな」
ラドルスの言葉に苦笑しながらそれぞれの支度に散っていくガーディアン達の様子を上層から見ている姿が2つあった。
「実はあいつの話も首脳会議で出てね・・・。人材が揃っているのがうらやましいと言われたよ」
ライアの言葉に隣に立っている女性―アルティノア―が微笑する。
「時々思うんです。もしも、私でなく彼が総裁の下に居ればコロニーは無事だったんじゃないかって」
「私としてはオマエ・・・アルとラドルスが一緒に戦っていたら・・・とも思ったこともあるけどね。今は過ぎ去った事を悔やむより、目の前の課題を片付ける事に専念しよう」
「キノコ狩りですか・・・今までの任務とのギャップを感じなくもないですけど」
「みんなそう思っているだろうね。しかし、任務は任務だ。しっかり頼むぞ」
「了解です」
アルティノアは一礼して、待ち合わせ場所にいるであろう部下のもとへ向かった。

 ラドルスとりりなは、カフェからもう一度ガーディアンズ本部へと戻り、調査部の扉を叩いていた。受付に用件を告げ、案内された部屋へ通される。暫く待たされた後に見知った顔が3人入ってくる
「おう、ラドさん。わざわざ出迎えに来てくれたのか?」
「ジャバ、お前さんはぶっちゃけ口実だ」
ラドルスの言葉に笑顔がそのまま硬直するジャバウォック。
「というか、ラド様がそんな事したら明日はキャリガインが大行進してきますよ?」
「だよな・・・でも、少し夢を見たかったんだよ・・・」
りりなの言葉に肩を少し落として椅子に座るジャバウォック。その時には既にラドルスは後の二人の方に注意を向けていた。
「お久しぶりなのですよ〜」
「まぁ、いつかは来るとは思っていた」
ラドルスの視線を受けたまま、二人のキャスト―ヘルシンゲーテとフィレア―はラドルス達の向かい側の椅子に座る。
「さて、色々あるとは思うけど、早速フィーちゃんが本題に入ったるするのですよ〜」
「・・・お姉さま・・・。まぁ、しょうがない」
チラリと横に座る姉を見てからフィレアは部屋にあった端末を操作して壁に映像を出す。そこには一枚の似顔絵と写真が数枚映った。どちらも同一人物のものであろう。そして、その人物をラドルスとりりなは知っていた。
「同盟本部にいたSEEDフォームか・・・」
ラドルスの言葉にフィレアは頷き、
「そう、似顔絵はジャバウォック氏の証言を素に描いたものだ。全く、会ったときには大怪我していた癖に詳細な情報を提供してくれて大助かりだったよ。それは兎も角、こいつは今までも行く度かガーディアンズの扱った事件に関わっていてな」
「あんな美人は一度見たら忘れない!!」
拳を握って相槌を打つジャバウォックを無視して、ラドルスはフィレアに先を続けるように促す。
「こいつの名はヘルガ・ノイマン公式記録では20年前に死んでいるはずの人物だ。11歳でタルカスシティの工科大学を卒業後にエンドラム機関の前身となる組織に所属し、どうやらそこでイルミナスの掲げるヒューマン原理主義に触れたらしいな」
「死んだのではなく、SEEDフォームになっていたって訳か」
「・・・ちょっ、あのおね〜さん、今いくつなのさ!!」
「生きていれば43歳になっているはずだ・・・」
ジャバウォックの場違いな突っ込みに冷静に応えるフィレア
「43か〜・・・」
考え込むジャバウォックだが、数十秒たってからポンッと手を打ち
「それ位なら年上のおね〜さんで十分OK、許容範囲!!」
「・・・これ、撃ち抜いていいか?」
フィレアの言葉にとりあえず、ほっといてくださいとりりなが応える。
「コホン、更に言うと、コロニー落着前になるのだが、ある事件で彼女は歪曲空間に封じられているはずなんだ」
「はず・・・?」
「ああ、私達の次Verの素体が絡んだ事件だったのだが、ルウと彼女、そして彼女についていたガーディアンの3人で歪曲空間に封印したと、ルウが報告している」
フィレアの言葉に映像がルウの報告書に変わる。それにざっと目を通すラドルスとりりな。合の時で封じられたSEEDの解放を企んだヘルガと3人の戦いの詳細がそこには書かれていた。「なるほど、彼女が・・・ね」と内心呟き、ラドルスはその報告書の中にあった一文について尋ねる。
「そこに、ヘルガが最初のSEED襲来を起こした公算が高いとあるが?」
「それがお前にこれを話している理由だ。一番知りたい情報だと思ってな・・・こいつはどうやらどこかのレリクスでSEEDに関する資料を発見したらしい、詳細はエンドラム機関が消滅した今では不明だが・・・SEEDウィルスもこいつが開発したらしい」
「なるほどね・・・こいつが・・・そうなのか」
「ラド様?」
りりなの声と自分の手を握る感触にラドルスは笑顔で振り返り、
「大丈夫だ。今は個人の恨みより合の時だ」
「はいです」
「ふむ、これで任務を放棄するようだったら、色々とそこの娘さんにはお見せできない方法で拘束しようと思ってたが、安心してもいいようだな」
フィレアの言葉に硬直するラドルス、なぜか目を輝かせるりりな、椅子からずり落ちるジャバウォック、
「冗談だ・・・」
フィレアの間をおいての言葉に洒落に聞こえなかったんだよ!!とラドルスが抗議の声をあげるのであった。

 ニューデイズのハビラオ地区、目的のキノコはここにある'らしい'との話で、ラドルスとりりな、そしてジャバウォックが到着した時には既にガーディアンズ、同盟軍、グラール教団から採取チームが訪れていた。担当から採取地域を割り当てられ、3人はハビラオの森の中を歩いていく。
「まぁ、こんだけ人員がいればなんか起きても対応は可能かね」
「確かにな・・・SEEDの事が無ければ本当に平和なキノコ狩りって雰囲気だよな・・・ってこれかな?」
ラドルスの足元にあったキノコにセンサーが反応し、それを取ってみる。
「・・・みたいですね」
資料と見比べて確認するりりな
「美味いのかな、これ」
『食べるな!!』
ジャバウォックの言葉に突っ込みの声をハモらせる二人。

 担当地域の引きがよかったのか、その後もかなりの数のキノコが見つかり、なんとかノルマ分はこなせそうになってきたが・・・
「なんか、頭がボ〜っとしてきたんだが・・・」
突然、ジャバウォックがそう言って座り込んでしまう。
「ジャバ?」
「もしかして、フォトン中毒ですかね・・・」
りりなが資料をラドルスに見せる。フォトン濃度が高い地域にいると、体質によって気分が悪くなったりするとの記述があった。
「どっか、フォトン濃度の薄い所に連れていった方がいいな・・・」
ジャバウォックの首根っこを掴んで引き摺りながら周囲を見渡すラドルス。どこも高濃度フォトンの放つ淡い光で包まれている。
「でも、このへん濃度が軒並み高いんです」
「ふむん・・・どうしたもんかな・・・」
「あ・・・」
完全にぐったりしたジャバウォックを引き摺りながら思案するラドルスにりりなが何かを思いついたように手を叩く。
「なんかいい方法が?」
「ん〜、でも・・・ラド様が嫌がる方法なんですよね」
「今はそんな事言ってる時じゃない」
「それじゃ・・・エルディザートをその辺に突き立ててですね・・・」
りりなの言葉に、その意味を察したラドルスはジャバウォックを地面に寝かし、少し離れた場所に立つ
「最小出力でこの距離なら平気かな」
ナノトランサーからエルディザートを取り出し地面に突き立ててL.F.S.スイッチを入れる。エルディザートが周囲のフォトンを吸収し、徐々にではあるがフォトン濃度が薄くなっていく。ラドルスそれをなにとは無しに座って眺めながら、呟く
「こういう使い方もあったんだな・・・」
「ですね」
休憩のお茶のカップをラドルスに差出ながら相槌を打つりりな。
「俺はあの剣が、周囲から力を奪うって点が好きになれないんだ・・・でも、イルミナスの基地で咄嗟に出したのはあれだった」
カップに一口だけ口をつけて言葉を続けるラドルス。
「どっかであの剣を頼りにしてしまってたって思ってるんですね、ラド様は」
「そうなんだけどね・・・」
「こう考えてはどうですかね・・・奪うんじゃなくて、SEEDを倒す為に力を借りるんだって」
「詭弁だな・・・第一、借りたものは返さないといけないぞ」
「それはSEEDの無くなった平和なグラールを皆の手にってすれば、十分お釣りが来ると思いますけど?」
「・・・こいつ、既に反論を予期していたな。」
りりなの笑顔にラドルスは苦笑して、再び地面に突き立てた剣を見る。
「そう考えれば、少しは使ってやれるの・・・かな」
「ラド様ならできますよ」
そう言ってラドルスに寄りかかって肩に頭を乗せるりりな。その横で目が覚めたジャバウォックは密かに起きるタイミングを探っているのであったが・・・。身体に何かの振動を感じて飛び起きる。
「何だ、地震か!?」
ラドルスもエルディザートを抜いて周囲を探る。と・・・その周囲が暗くなる。
「・・・上です!!」
りりなの声に空を見上げると、視界をピンク色の何かで埋まっている。あわててその場を離れるラドルス。大きな振動に元々いた場所を見ると、ピンク色の巨大な物体がそのには立っていた。
「・・・ラ、ラッピー???」
りりなの言葉に、それがようやくラッピーの形をしている事に気づいた3人は同時に叫んでいた。

『デカッ!!』

だが、そのピンクラッピーの攻撃に我に返ったジャバウォックが背後に回り、ツインセイバーで斬りかかる。
「あんま、効果なさげだな・・・」
澄ました顔(?)のピンクラッピーを見上げて呟くジャバウォック。ラドルスもエルディザートを手に斬りかかろうとするが、振り回されるその巨大な羽に間合いに入れず舌打ちをしている。と、そこへ・・・
「んみゅぅ〜」
りりなの周囲にフォトンの結晶が浮かび、それがりりなの合図で一斉にピンクラッピーに襲いかかる。
「どうやら、ここはお嬢ちゃんにおまかせパターンだな」
りりなの前にラドルスと並んで武器を構えるジャバウォックの呟きに頷くラドルスであったが、ラドルスは別の事が気になっていた。
「こいつが、りぃのフォトンは吸収しようとしていない?」
りりなの勝利宣言を聞きながら、手元の剣の動作に微かな疑問を浮かべていたラドルスであった。

「ほいよ、3人分・・・確認してくれ」
計測班にキノコの入ったナノトランサーを渡しているジャバウォック。重量を計測している係員の結果を待っていた3人であったが、そこへ通信が入った。
曰く、「モトゥブのレリクスにSEEDフォームが来襲、救援に向かえ」
「やれやれ、今日は平和な任務だと思ったんだけどなぁ〜」
「まぁ、そうは上手くいかないものです。あっちにフライヤーが待ってますから行きましょうラド様」
りりなの言葉に頷いて、後に続くラドルスであった。


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