最終章 
Unbreakable Heart〜フォトンの渦の中で〜

(ストーリーモード:For brighter day より)


 ガーディアンズ・コロニーは最終作戦に向けて慌しい空気に包まれていた。デネス・レリクス、ハビラオ・レリクス、クグ・レリクスの各封印装置へ幻視の巫女を支援する「祈りの輪」を形成する女性達も向かい、準備が整いしだいリュクロスの幻視の巫女の詠唱が開始される手はずである。そんな中、ラドルスはモトゥブへ向かう船を見送ろうとしていた。
「まったく、見送る方と見送られる方、逆だったらどれだけ気楽だったことだろう」
今回の最終作戦発動前に機動警護部の隊長に就任したアルティノアが肩を竦めて呟く。その仕草の端々になにやら焦っている印象を受けたラドルスであったが、責任ある立場についたためだろと解釈していた。
「そうしたら、俺はのんびりコーヒーを飲む暇もなかったな」
「全く・・・私の副隊長の要請も蹴って」
「俺は相方とのんびりしてたいんだよ、ってそろそろ時間だな」
「やれやれ、まだ言いたい事は山ほどあるんだけどな・・・続きは作戦終了後に聞いてもらうからな!!」
シャトル入口に歩き出しながらも最後にラドルスを指差してそう言い残していくアルティノアの背中にラドルスは
「ああ、作戦終了後に!!」
と応える。アルティノアは振り返らずに片手をあげて応えるのであった。

 アルティノアを見送った後、ラドルスは自分の部屋に戻り、最後の準備をしていた。それが一段楽すると、りりなと共にテーブルについてコーヒーを淹れた。りりなもいつも通りホットミルクを作っている。そこへラドルスのPMのシルフィーネがやってくる。
「作戦終了後の夕食は何がいいですか?なんでも好きなものをおっしゃってください」
ラドルスとりりなは暫く考え込むが、
「いや、帰ったら多分暫く宴会続きだから、食材は買い込む必要はないな・・・ただ、」
「アイスを買っておいてください!!」
「・・・だそうだ」
肩を竦めるラドルスにシルフィーネは了解しました。と応えるのであった。

 数時間後、シャトルに乗ってコロニーを発進したラドルスとりりな、オクリオル・ベイは同盟軍の船に移乗し、リュクロスを目指していた。
「あっちには黒コートと・・・ルミルミとてんて〜もいるのか、アルトもいれば心強いんだけどなぁ」
編成表を見ていたラドルスは窓から外を眺めながら呟く。
「まぁ、レインさんがハビラオで輪のメンバーになってますからね。こっちには連れてこれないでしょう」
「馬に蹴られちゃいますよ」
オクリオル・ベイ、りりなの言葉に苦笑で応えて。もう一度編成表に目を落とす。巫女の護衛も兼ねた精鋭メンバーはトランスミッターを設置しながら制御室へと向かう。ラドルス達3人と黒コートは封印装置の基部の守護が任務となっていた。
「基部前はやけに広いんですね」
りりなが図面を見ながらラドルスと同じ感想を口にする。
「やはり大部隊で来るとしたら、ここだろうな・・・」
「ですね、数対数の戦いになりそうだからこその黒コート配置でしょうね」
「まぁ、下手に制御室周辺になって、SEEDの精鋭相手にするよかマシかな」
「疲れるでしょうけどね」
ラドルスとオクオリルのやり取りにりりなが最後に合いの手を入れて微笑む。
「確かにな」
「ですな」
そう返して笑う3人であった。

「よう、遅かったな」
リュクロス内部、封印装置の基部へ到着したラドルス達をレニオスが出迎える。周囲にはいつものテントが建てられており、黒コートのメンバーがあちこち走り周っている。まぁ、こっちが本陣だ、と案内するレニオスの横を歩きながら、状況を尋ねるラドルス。
「連絡によると、先程トランスミッターの設営も終わって、幻視の巫女さんは制御室へと向かったそうだ」
「来るとしたら、もう少しだな」
「ああ、間に合ってくれて安心したよ。黒コート愛好会32名と『白銀の悪魔』、『へっぽこ剣士と黒猫』がいれば相当数が来ても防げるさ」
「あんたは数に入ってないのかい」と、ラドルスが突っ込もうとしたそこへ本陣からゼロとジャバウォックが走ってくる。ゼロが端末で地図を表示させてレニオスに見せる。
「局長、封印装置と制御室の間・・・こことここの二箇所なんですけど、妙な反応が・・・」
「妙?」
「ええ、報告にあったSEEDフォームの女の反応と・・・もう一つはハウザーのものが・・・」
『なに!?』
レニオスとラドルスの声が見事に唱和する。
「ハウザーの方は、アルティノア隊長達の進路上にいて、こちらからは手を出せません。しかし、もう一つはこの先の通路から先回りが可能・・・」
ゼロはそこで説明を中断する。既にラドルスがその通路の入口に向かってかけだしており、その後ろをりりなが追いかけている。
「・・・失敗したなぁ」
苦笑するレニオスであったが、視線をオクリオル・ベイ、ジャバウォックの順に向け、
「すまないが、二人だけでは心配だ、一緒に行ってやってくれ」
「了解しましたよ」
「それはいいですけど、こっちは平気ですか?」
即答したオクリオルの横でジャバウォックが不安の声を返す。
「まぁ、大丈夫だろう。楽ができなくなったけどな」
「そういうことなら、了解しました」
そいってオクリオルと共にジャバウォックがラドルス達を追って去っていくのを待っていたかの様に警報が鳴り響く。その音にレニオスが端末で周辺に設置したレーダーの反応を見ると、今レニオス達がいる手前の通路のそれはSEEDフォームの反応を示す点で黄色に埋まっていた。
「レニしゃ〜、きたようだよ〜」
本陣から妙に嬉しそうなルミナスが走ってくるのが見える。
「みたいだな・・・」
と返してルミナスとゼロを伴って本陣へ早歩きで戻りながら、レニオスは設置した隔壁の閉鎖と大型火気の配置を指示する。そして、本陣に到着すると、マイクと取り出した。
「局長レニオスだ。皆、そのまま聞いてくれ・・・SEEDフォームの大群がこちらへ向かっている。目的は封印装置の破壊と思われる。数は概算で3000と出ている」
ここで一旦言葉を切って隊員達の動揺が収まるのを待つレニオス。
「一人当たり100匹いかない数を倒せばそれで終わるが、封印装置に辿り着かせなければ別に倒す必要もない、足止めして合の時を発動させれば、俺たちの勝ちだ。因みに戦勝会会場として『ホテル・ヘッジホッグ』の『緑の丘』を3日間押さえてある。これには全員参加を義務とするのでそのつもりで戦いに臨むように、殉職なんかで欠席した奴には俺が直々に愉快な墓碑銘を考えて刻んでやるのでそのつもりで」
一同に笑いが起こる。レニオスは一呼吸間を置き、
「重ねて言う『全員生き残れ』これは絶対命令だ!!」
歓声が起こる中レニオスは愛用の武器をナノトランサーから取り出し、本陣を出る。
「少々俺らしくなかったな・・・」
「全然いいと思ったけどなぁ。あ、勿論私達も参加させ貰うからね」
「レニしゃが欠席したときには私たちが考えてあげますよ、墓碑銘」
横について並んで歩き始めたルミナスとリーファの言葉に苦笑しながら、レニオスは最前列に向かって歩いていくのであった。

 封印装置内部、廊下を歩いているラドルスとりりなは微かな振動を感じて立ち止まった。どうやら後方からのようである。
「始まったな・・・」
「みたいですね。戻ります?」
答えが分かっているのに尋ねるりりな。
「いや、申し訳ないが、決着をつけたいんだ・・・ガーディアンズとしてでだけではなく、俺としても」
「私としてはそんなラド様の戦いに付いて行くのが目的でしたから、帰れって言ってもダメですよ?」
先手を打たれて、言い出そうとした言葉を飲み込んで、ラドルスは再び歩き出す。その先には大きめの広間が見える。警戒しつつも中に入ったラドルスはそこに目的の存在を見つけた。
「てっきり小娘か巫女と一緒にいると思ったのだけどね」
そう言ってヘルガがSEEDフォーム化する。
「生憎と、同行する女性はこの娘だけと決めているのでね」
応えてラドルスはエルディザートを手にする。
「ガーディアンズの剣士殿はそんな出来損ないが好みとはね」
そういってヘルガが地面を蹴る。
「こんないい娘は滅多にいないぜ!!」
応えてラドルスが地面を蹴る。
両者は中間で交差し、ヘルガの爪とラドルスの剣が激突する。りりなはありったけの補助支援テクニックをラドルスにかけ、ノス・ゾンデを連発する。ラドルスの視界にはそれは入っていないはずであったが、着弾直前で間合いを一歩外し、雷球の弾ける衝撃範囲から逃れる。
「やるねぇ!!」
衝撃に弾け飛びながらもヘルガの髪の毛の束がラドルスへと伸びて襲い掛かろうとするが、それは寸前の所で金属音と共に動きを止める。
「例のフォトン結晶かい!?でも、この硬度は」
「ここはフォトン濃度が高くて助かります」
片手を床について衝撃から立ち直ろうとしたヘルガの足元にフォトン結晶が次々と襲い掛かり、ヘルガは床を転がってそれをかわしていく。が、逆方向から銃撃を肩に受けてのけぞる。そこへラドルスが剣を突き立てるが、ヘルガはかろうじてそれをかわす
「ふ〜、やっと追いついたぜ」
部屋にジャバウォックはツインセイバーを持ってかけてきており、その後ろにはライフルを構えたオクリオルの姿があった。それを見てヘルガは暫く考え、結論を出す。
「あのうざいガーディアンを始末してこようと思ったが、ここは退くしかないようだね。お前達はこれの相手でもしていな!!」
ヘルガが前面に手をかざすと、空間が歪み、巨大な人型SEEDフォームが現れ、雄叫びをあげる。
「ぶるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
それを見たオクリオルが警告の声を上げる。
「以前の合の時に目撃情報があります。マガシがSEEDフォーム化した奴です!!」
「これはあのマガシの戦闘データをほぼ完全に移植した上に今のハウザー様の思考パターンをコピーした強化版のマガシだよ、幾らお前たちでもこれにはかなわないよ。せいぜい苦しみながら死んでいくがいいさ!!」
と、高笑いを残して周囲の空間を歪めて転移しようとしたヘルガの目に青い髪が映る。
「なに!?」
見ると、ラドルスのいた場所からマガシの頭上を経由してヘルガの場所までいくつかのフォトン結晶が浮いている。ラドルスはこれを蹴りながらヘルガの胸にエルディザートを突きたてていた。
「このまま決着をつけさせてもらう!!」
ラドルスの声と共に、エルディザートの刃の光が輝きを増す。が、そのままヘルガの姿はその胸の剣とそれを持つラドルスごと消えようとしていた。
「ラド様!!」
かけよろうとしたりりなをジャバウォックがひょいっと抱き上げる。
「離してください!!」
抗議するりりなにジャバウォックは無言で、りりなをラドルスに向かって放り投げる。
「ひゃぁ!!」
それを叩き落とそうとしたマガシの腕をオクリオルがライフルで撃ち、足元にジャバウオックが体当たりをして体勢を崩す。りりなはそのままラドルスの方へ飛んでいき、それに気付いたラドルスが片手をりりなの方へ伸ばす。
「りぃ!!」
それの手がりりなに触れた瞬間、ヘルガもラドルスもりりなもその姿を消す。それを見届けてからジャバウォックは立ち上がり、その両手にある双剣を構え直す
「さてっと、俺たちはこれの相手かな・・・」
「その様ですな」
ジャバウォックとオクリオル・ベイの前でSEEDマガシが再度雄叫びをあげながら立ち上がっていた。

 封印装置基部では黒コート愛好会達は第二防衛線まで下がっていた。
「誰だ!!3000なんて言ってたのは!!」
封神がアサルトクラッシュでSEEDフォームをなぎ払いながら悪態をつく、後方からどんどんSEEDフォームがやってきて、3000なんて数字ではとっくになくなっていた。
「まったく、何をやっているのやらなのですよ〜」
間の伸びた声がして封神が振り返ると、ポニーテールの黒い素体の女性キャストが立っていた。
「まとめて相手してあげるから、かかってくるのですよ!!」
赤い片刃の斧を構えて不適な笑みを浮かべるキャストにSEEDフォーム達が襲い掛かる。が、無造作とも言える突撃でそれらは全て弾き飛ばされる。
「すげぇ〜」
呟く封神に襲い掛かろうとしたSEEDフォームが銃声と共に横に吹き飛ぶ。
「油断大敵だ、ボサッっとするな!!」
封神の横にもう一人ロングのストレートヘアーの女性キャストが歩みより、ライフルからショットガンへと持ち替える。
「合の時まであともう少し、ここは死守なのですよ、フィ〜ちゃん」
「了解、お姉さま!!」
フォトンの残光を残し敵郡の中に見えなくなったヘルシンゲーテとフィレア、取り残された形の封神であったが、
「ほらほら、お待ちかねの第二射いっくよぉ〜!!みんなよける〜!!」
この場には似使わない別の声と同時に端末が警報の音をあげる。SUV着弾範囲にいる事を知らせるそれに、その場を離れる封神。他の黒コート達も同様に離れた所で、その場に空中に開いたナノトランスのゲートからフォトンビームが数十条降り注ぐ。光が晴れた後にはそこには何もない円形の空間が開いていたが、それもすぐに後続のSEEDフォームによって埋め尽くされた。
「まったく、白銀の悪魔とはよく言ったもんだぜ」
と、封神が呟いた時、前方で大きな爆発音がし、壁が崩れるのが見えた。
「副長殿が扉を爆破した!!暫くは後続を抑えられるぞ!!」
黒コートの誰かの声が周囲に響き、
「そういうことだから、周辺の敵の掃討に専念しろ!!負傷者は後方に下がれ!!」
レニオスの指示する声が続く。
「おっし、上手くいけば少し休憩が取れるかもな」
横からきたデルジャパンの腕を片方の剣で弾き飛ばしながら、自分を奮起させてSEEDォームの群れの中に飛び込んでいく封神であった。

 ふと気付くとラドルスはどことも言えない空間に浮いていた。まるで透明なゼリーの中に埋まっているような感覚である。
「フォトンですね、全部・・・まるでフォトンの渦です」
ラドルスにしがみ付く形になっていたりりながラドルスの動きに気付いて声をかける。
「ヘルガは・・・」
右手にエルディザートの存在を確認したが、突き刺していたはずのヘルガの姿はなかった。
「どうやら空間転移に失敗したようですね・・・。同じ空間にはいるようです」
りりなが周囲を見渡す。が、ヘルガの姿は見えない
「ん?誰だ?」
突然ラドルスが何か呟く。
「どうしました?」
りりなの疑問の声にラドルスは遠くを見るように目を細めて。
「いや、見覚えがないんだけど、白い髭の老人が手招きした後に向こうに消えていったんだ」
りりなもラドルスと同じ方向を見てみるが、誰の姿も見えない。
「フォトンによる幻覚症状ですかね?」
「にしては、やけにはっきり見えたな」
「って、あれ?」
今度はりりなが声を上げる。
「ん?見えたか?」
「ん〜、赤い髪をショートカットにした女性が、ずっと向こうで手を・・・一瞬で消えちゃったんですけど」
りりなの言葉にラドルスは暫くその方向を見つめていたが、
「・・・行って見るか、罠だとしてもここにいるよりは進展しそうだ」
「ですね」
ラドルスとりりなは左右の手をバタつかせてその空間を泳いでいった。

「ぶるわぁぁぁぁぁぁぁ」
マガシが肩からオクリオルに突撃していく。その速度に対応しきれずに、かわしたつもりが左腕がマガシの突撃をモロに受ける。
「ぐっ!!」
「ベイさん!!」
弾き飛ばされ、床を転がり、最後に壁に叩きつけられた形でやっと止まったオクリオルのところへ駆け寄るジャバウォック。
「いや、大丈夫です。キャストでよかったですよ、本当」
そう言って壁によりかかっているオクリオルの左腕は肩から先がなくなっていた。
「左足も動きません。正直片腕ではライフルの保持ができないので精密射撃が難しいです。ここからのテクニック支援に切り替えますね」
「了解した」
ジャバウォックは双剣を手にSEEDマガシに向かっていく。その左右の腕が床を叩くのを避けながらも、なんとか傷を負わせていくが、全く動きが鈍らない。
「まったく、なんなんだよこの化物は!!一気に勝負にいかせて貰うぜ!!」
ジャバウォックの体が光に包まれ、ナノブラストが発動したが・・・
「ぶるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
SEEDマガシはその光の中に無造作に手を突っ込み、大きく上に振り上げる。
「ぐわぁぁぁぁ」
「ジャバさん!!」
天井に叩きつけられたジャバウォックはそのまま床に落ちてくる。そこを踏み潰そうとした足の一撃はなんとか避けることができたが、立ち上がった時にはその右腕はありえない方向に曲がっていた。
「くっ、俺も腕をやられたようだ・・・」
よろめきつつも、床に落ちた双剣の片方を拾い上げるジャバウォック。
「しかし、俺はまだ生きている。生きている限り負けない!!それが、一番隊隊長のジャバウォックだぁぁぁぁぁ!!」
そこへSEEDマガシが突撃してくる。それも紙一重でかわしつつ、右肩と首の間に剣を突き立てるジャバウォック、しかし、深く刺す事はできずに剣を手放すことになっしまった。
「ジャバさん!!」
オクリオルが手持ちのセイバーを放り投げる。それを掴み、突撃していくジャバウォックへ補助テクニックをかけるオクリオル。他にできることはないかと考えていたところであるモノがナノトランサーに入っていた事を思い出す。それを取り出し、周囲の壁の破片で銃身を固定していきながら、オクリオルはジャバウォックがそれまで保ってくれる事を祈るのであった。

 フォトンの中を泳いでいたと思っていたラドルスとりりなであったが、何の前触れもなく突然視界が広がる。
「ここは・・・」
「お花畑?」
日の光が降り注ぐ広場には花が咲き乱れ、蝶の姿も見える。周囲は岩に囲まれており、さながら山中の忘れられた空間といった感じである。その中央には巨大な石碑が一本立っており、その前には石版が一枚立てかけられているのが見える。
「いってみましょう」
「ああ」
りりなの言葉に促され、一緒に石版の前に向かうラドルス。やはり何かの文字が書かれているようであったが、
「ん〜、読めないな・・・」
「ですね」
と、その時、周囲の風景が一変する。周囲が闇に包まれ床一面に多くの顔が浮かび上がる。「ま、まさか・・・」
ラドルスが驚愕の声をあげて周囲を見渡す。
「ラド様・・・?」
ラドルスは声が出なかった。全て知っている顔であったのである。同盟締結100周年記念祭の日に護れなかった人達の苦しげな顔で床は埋め尽くされていた。
「ラド様!!」
りりなの声に我に返るラドルス。そこは先ほどと同じ石碑の前である。
「幻覚?」
頭を振って先ほどの風景を振り払おうとしていた所に、上から声がした
「やはり、出来損ないとはいえ、実験体には今のは効かないようだねぇ」
そういって石碑の上から降りてきたのはSEEDフォーム状態のヘルガであった。
「今のはお前の仕業か・・・」
「あれで自責の念に囚われて力を求めてくれたらよかったんだけどねぇ。実験体のせいで失敗したようだ。やはりダーク・ファルスの依り代はあの小娘に決まりだね」
ヘルガの
「ダーク・ファルス?依り代?」
ラドルスがエルディザートを構えて疑問の声をあげる。
「暗黒神ダーク・ファルス、自身以外のすべての生命体を死滅させる本能だけを持ち、無限にSEEDを産み続ける存在、太古の封印戦争の時に合の時によって封印されたが、旧文明人が合の時に使用したAフォトンリアクターに寄生することで、消滅を間逃れたのさ。その復活には負の心に支配された強靭な肉体と精神を持った者が依り代として必要なのさ。そして、ここはそのダーク・ファルスの作り出した、フォトンの渦の中心という訳さ」
ヘルガの言葉にラドルスは間合いをとりながら、
「と、そこまで説明してくれるってことは、ここで俺達を倒すつもりって事かな?」
ラドルスの言葉にヘルガは高笑いをし、
「理解が早くて助かるよ。ついでに早く死んでくれるともっと助かるんだけどねぇ」
その言葉と同時にラドルスの背後からヘルガの髪の毛が襲い掛かるが、既に展開してあったりりなのフォトン結晶に阻まれる。
「実験体がぁ!!」
りりなはその言葉にえへへと笑い、
「ラド様の背中はしっかり護ります。後方は気にしないで戦ってください!!」
「了解だ、りぃ!!」
ラドルスがエルディザートを手に斬りかかる。ヘルガの髪の毛がその行く手をさえぎるが、りりなのフォトン結晶が半分は髪の毛を切り裂き、半分はラドルスの周囲に展開されて、その体を傷つけることはできなかった。
「ここで倒れるのはお前だ、ヘルガ!!」
ラドルスの剣が一閃される。ヘルガの姿がかき消すように消える。
「なに!?」
次の瞬間、ラドルスの背後に現れたヘルガが、数条の髪の毛をラドルスに向かわせる。それらはフォトン結晶に阻まれたが、一本がラドルスの脇腹に突き刺さった。
「ぐっ」
そのまま髪の毛を振り上げ、飛ばされるラドルス。石碑に体をぶつけ、りりなの横に落ちてくる。
「ラド様!!」
りりなが慌てて駆け寄り治療を行う。
「とりあえず、傷を塞いでくれればそれでいい」
「でも、どうして・・・あれも防いだと思ったのに」
りりなの疑問にラドルスが苦しげに応える、
「あの一本だけだが、フォトン結晶の内側に現れやがった」
「!?」
「短距離の空間転移のようだ」
「そんなのどうやって防げば・・・」
ラドルスは立ち上がり呟いたりりなの頭をポンと叩く。
「どうやら、一本だけ転移させるのが精一杯のようだ。りぃはさっきと同じようにしていてくれ、その一本を見極めてなんとかするさ。それと、ちょっと体がしんどくなるかもしれないが、我慢してくれ、すぐにすませる。」
「はいです」
ラドルスの言葉の意味を理解して返事をするりりな。そんな二人の様子を眺めていたヘルガが自分に歩み寄ってきたラドルスにホホホと笑い、
「別れは済んだようだね」
「待っててくれた訳か?」
「私にも慈悲の心はあるんだよ、だから・・・すぐに二人とも殺してあげるよ!!」
「させるか!!」
ラドルスはエルディザートの機能を解放する。周囲のフォトンが急速にラドルスの持つその剣に収束していく。同時にりりなのフォトン結晶が10個、ヘルガに襲い掛かる。それらをかわし、払い落としつつ、ラドルスとの間合いを詰めるヘルガ、右手を突き出すと同時に10本の髪の毛が鋭く尖った状態でラドルスに襲い掛かる。爪はりりなのフォトン結晶が弾き、髪の毛はラドルスがかわせるものはかわし、できないものはその剣で払い落とし、ヘルガとの交差の瞬間に左の肩口に一閃を入れる。
「おのれぇ!!なぜその剣は砕けない!!」
「この剣のフォトンの光は皆の心の光、SEEDの力で砕く事はできやしないさ!!」
左肩を抑えながら振り返るヘルガ、もう一度剣を握り直し、飛び込むタイミングを計っているラドルス。そして、地面を蹴って飛び込もうとしたその時・・・
――その声が聞こえたのはそんな時であった。――

 封印装置基部、殉職者は出てはいなかったが、確実に負傷者は増えており、第三防衛ラインも放棄かというところまできていた。ゼロもトラップも尽き愛用の刀を抜いて、接近戦に入っていた。それを見ながらもレニオスは周囲に激励の言葉を投げる。
「もう少しだ!!もう少しで合の時が発動する!!それまで、決して諦めるな!!」
周囲の黒コートの隊員たちがその声に最後の力を振り絞って、SEEDフォームに向き直した。
「ここが踏ん張りどころなのですよ、フィ〜ちゃん」
「分かっていますわ、お姉さま」
斧を構え直すヘルシンゲートと、そのヘルシンゲーテから借りた予備のセイバーを構えて横に立つフィレア。
――その声が聞こえたのはそんな時であった。――

左腕の手首をSEEDマガシに掴まれて、持ち上げられるジャバウォック。万力のような力で締め付けられ、左手のセイバーを持つ力が弱くなっていく、視界の端にジャバウォックの双剣のもう片方がちらりと映る。とうとう、左手の感覚がなくなりセイバーがその手から落ちる。体が反射的に動き、そのセイバーを口で受け止めるジャバウォック。
――その声が聞こえたのはそんな時であった。――

『フォトンは心の強さによって、どのよう奇跡も生み出します』

数条の髪の毛を斬り裂き進むラドルス、その一本が転移し、ラドルスの右肩のすぐ前に出現するが、金属音がして先端が弾かれた。ラドルスが会心の笑みを浮かべる。

『想ってください、大切なヒトのことを!
感じてください、種族を超えたヒトとヒトとの繋がりを』

驚愕するヘルガの目の前で髪の毛の先端によって破れたラドルスの右肩の服の穴からフォトン結晶が強い光を放っていた。
その隙を見逃さず、りりなが数個のフォトン結晶を槍の形にしてヘルガに向かって解き放った。

『祈ってください、皆さんのグラールに平和が訪れることを!』

口でセイバーを受け止めたまま頭を振るって、自分の左腕を掴んでいるSEEDマガシの腕を斬りつけるジャバウォック。セイバーはその腕に喰い込んだが、衝撃で歯が飛び唇の端から血を流すジャバウォック。床に倒れ込んだと同時に体を回転させて床を転がっていく。同時にSEEDマガシの顔面に爆発が起こる。

『皆さんの心の力を一つに合わせれば、きっとこの"合の時"は成功します!!』

ヘルシンゲーテとフィレア、そしてルミナスのエネルギーを限界まで使った最後のSUV同時攻撃がSEEDフォームの群れの中に放たれ、ひるんだそこに動ける黒コートの隊員がレニオスとゼロ、そして封神の3人を先頭に斬り込んで行く。

リュクロスの封印装置制御室・・・
幻視の巫女―カレン―の声が木霊する。
「さぁ、いくぞ!!」

ガーディアンズ・コロニー、ライアがその時を待っていた。
ネーヴの「時間じゃな…」の言葉に一人呟く・・・
「よしっ、グラールのみんな!
4つの種族の力を今ひとつに・・・
 フォトンの輝き…心の光で――」
りりなのフォトンの槍がヘルガの体を貫いた。
オクリオル・ベイの撃った試作グレネード『ツヴァイ』がSEEDマガシの顔面に直撃した。
ジャバウォックが地面に落ちていた双剣の一本を痺れが残る左手で鷲掴みにしてSEEDマガシの首に向かって投げつけた。

『グラール全てのSEEDをブッ飛ばしてやんな!!』
リュクロスで、ハビラオで、クグで、デネス湖で、それぞれの想いからくる心の光と共にそれぞれの方法で戦っていたガーディアンズ達に、本来聞こえないはずのライア声が確かに聞こえ、それに応えた
『了解!!』
そして、ラドルスも・・・
「そして・・・いま、全てに決着を!!」
りりなのフォトン結晶の槍で怯んだ隙をついてラドルスの剣がヘルガの首を払ったのはその時であった。

 ジャバウォックは投げつけた剣がどうなったかも確認せずにそのまま体を宙に浮かせ半回転しつつ、首筋に蹴りをいれる。踵を右の首筋に刺さっていた双剣に叩きつけ、その刺さっていた刃が深く根元まで沈みこむ。
「ぶるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
雄叫びをあげつつ後ろに倒れ込んでそのまま動かなくなったSEEDマガシを見つめた後ジャバウォックは血の混じった唾を床に吐き捨てて呟いた。
「これが、黒コートの戦いって・・・奴・・・だ・・・」
その背後、壁にもたれかかったまま、ツヴァイの反動で肘から先が吹き飛んだ右腕を見てオクリオルはため息をついた。
「やれやれ、これじゃ駆けつけるなんてできませんよね」

 最初に異変に気付いたのはリーファだった。地面が揺れ、天井から小石がパラパラと降って来ている。
「みんな〜!!天井が崩れるよ!!基部内に退避〜!!」
リーファの声に気付いた黒コートがその言葉を前に伝える。
「始まったか!!総員後退!!基部内に逃げ込め!!」
そういいつつもレニオスはその場に留まり、愛用のサンゲヤシャを構えて付近のSEEDフォームを斬り捨てていく。
「殿が一人ってのは心もとないね」
「だね。かっこいいとこは私が貰わないと」
封神とゼロがその左右に立ちレニオスと並んでSEEDフォームを斬っていく。そこへ、後方から何かが飛んできてアンガ・ジャブロッガの一撃を叩きつけた。
「私もお仲間に入れてほしいのですよ〜」
後ろからフィレアとルミナス、リーファの援護攻撃が来ているのを感じながら、レニオスは「物好き連中が・・・」と呟きつつ、残った皆と並んで敵を防ぎつつ後退していった。

 合の時は発動した。3惑星とリュクロスの封印装置がグラール太陽系全域を覆う湾曲空間へのゲートが開かれ、グラール中のSEEDが湾曲空間に飲み込まれ消滅していく。
「終わったのか・・・」
目の前で次々と消えていくSEEDフォームを見てレニオスが呟く。
「みたい・・・だね」
同時に、同盟軍艦隊本部から、太陽系全てのHIVEの消滅を確認したとの通信が入る。それで一気に疲れが出たのか、その場に座り込んでしまうゼロと封神。レニオスも壁にもたれかかり一度目を閉じるが、直に立ち上がって指示を出し始めた。
「よしっ、動ける者は負傷者の治療にあたれ。それと、同盟軍に回収要請だ」

「どうやら成功したようですね。なんだかずっとここに座りっぱなしで申し訳なかったですよ。」
光に包まれて消えたSEEDマガシを見て、壁にもたれかかったまま動けないオクリオル・ベイが横の人物に話しかける。そこには同じように座っているジャバウォックがいたが、その言葉に苦笑する。
「いやいや、あんなデカブツを撃てるとは思わなかったよ。」
「そういってもらえると助かります」
「しっかし・・・」
ジャバウォックは天井を見上げ、
「どうやって戻ろうか、とてもじゃないけど、ベイさんを担いで下にはいけないぜ?」
「いや、その心配はいらないようですよ」
「?」
ジャバウォックにはまだ聞こえていなかったが、オクリオルの耳には通路を歩いてくる足音と、自分らを呼ぶ声が聞こえていたのであった。

 ヘルガはラドルスの前で光となって消滅した。エルディザートのスイッチを切り、その場に座り込んでしまうラドルス。りりながそれにかけより、治癒テクニックを施していく。
「さて・・・次の問題は・・・」
ラドルスは青い空を眺めながら呟いた。
「どうやって、帰るか・・・だ」
「ですね」
と、広場に何か風が吹きぬけた様な感覚を二人は抱いた。
「なにが起こった?」
「何か巨大な意思が弾け飛んだ感じに思えましたけど」
話に聞いていたダーク・ファルスという奴か?とラドルスは内心思ったが、同時に何か懐かしい気配を感じていた。
「・・・ラド様も感じました?」
「ああ・・・なんだろう、この感覚は」
なぜか、ラドルスはエルディザートの機能を解放して構える。
「ラド様?」
「なんだろう、誰かが耳元で囁いたというか・・・こうするのが」
りりなはその突然の行動に驚きの声をあげるが、当のラドルスも自分の行動に違和感を感じていた。が、エルディザートとラドルスの顔を交互に見ていたりりな再び驚きの声を上げる
「これって・・・このフォトンは・・・みんなの祈りの光!?」
「なに?」
「エルディザートが手繰り寄せているんです。グラールのみんなの祈りの心からくるフォトンを、これをたどっていけば・・・」
「・・・そうか!!」
りりなの言わんとする事を理解してラドルスはエルディザートを正眼に構える。りりながその両腕の間に入り、ラドルスの手の上に自分の手を重ねる。そのまま歩いていくと、岩を突き抜け、周囲の空間が歪み、再びあの何もない景色が広がったが、りりなはもちろん、ラドルスにも感じる事ができた。グラールで自分達の帰還を信じる仲間達の祈りの声が、
「よし、戻ろう・・・グラールへ、みんなの所へ」
「はいです!!」
二人はエルディザートが引き寄せたフォトンを辿りながら前へと進んでいくのであった。

 合の時発動の翌日。
 首脳会議が開かれ、新同盟条約が締結される。

 合の時発動から3日後、ガーディアンズ・コロニー
コロニーの中では高級に分類されるホテル・ヘッジホッグの『緑の丘』では3日間宴会が続いていた。入口には「黒コート愛好会+α様」と書かれた看板がたっている。ステージでは黒いラッピーに混じって紫のラッピーがダンスをしている。黒コートの面々も皆自分なりの楽しみ方でSEED完全撃滅を祝っている。
「しっかし、人に散々心配させておいて、ニューデイズに居たってのはなんなんだよな」
封神が完全に酔っ払って会場をフラフラしているのを見ながら、レニオスが隣のゼロに呟く。
「気付いたらクゴ温泉にいたそうですね、当人達の話によると」
レニオスの空いたグラスに酒を注ぎながら、ゼロが応える。
「なんでも、二人の出会いの地らしいからね。グラール中で想いが一番強い場所なんじゃないの?」
ルミナスが酔いつぶれて寝入っているリーファを引き摺りながらやってきてレニオスの前に座る。
「兎にも角にも、黒コートも私達も全員生還できたんだから、よしとしましょう」
「だな・・・全員生還とグラールのフォトンに、乾杯だ」
そういいながら微笑んでグラスを掲げるレニオスの視線の先には、右手を吊り、包帯だらけの体なのに左手を震わせながらフォークで料理を食べているジャバウォックの姿があった。

 合の時発動から4日後
 この日、幻視の巫女の辞任が発表された。この時に同時に発表された今の幻視の巫女の「正体」に関する発表が辞任以上にグラール中に衝撃をもたらしたのである。
 同日、ガーディアンズ機動警護部隊長のアルティノアがその職を辞任、その後任にはオルソン・ウェーバー氏が就任することとなる。

 合の時発動から一週間後、モトゥブのガーディアンズ支部
「お姉さま、少しは手伝ってください」
モトゥブの凶暴化原生生物の目撃情報を端末に入力しながら、フィレアは後ろでのほほんと、お茶を飲んでいるヘルシンゲーテに文句を言う
「そういう仕事は私には無理なのですよ〜」
「無理でもやってもらわなくてはなりません」
ヘルシンゲーテの言葉にいつの間にかやってきていたルウが突っ込みを入れる。
「ひゃぁ!!」
驚きで座っていた椅子から滑り落ちるヘルシンゲーテ。
「それが終わったら、次はディマゴラスの討伐任務が待っています。二人で協力して早く済ませる事を提案します」
言うだけ行って去っていったルウの背中を暫く睨んでから、
「やれやれ、しょうがないなのです。時間ができたら、あのへっぽこで遊んで憂さ晴らしをするのですよ〜」
「まぁ、暫くは無理ですね」
冷静に突っ込んだ妹にを横目に見てから端末へのデータ入力を始めるヘルシンゲーテであった。

そして・・・

 合の時発動から数ヵ月後、ラフォン平原。
「まったく、なんでこんなに買い込むんだよ・・・」
前を歩いていくりりなを見失わないように、アイスの詰まったクーラーボックスをいくつも抱えながらもラドルスは精一杯歩いていた。
「というか、明日コロニーに届くように手配したんだろう!!」
ラドルスの言葉にりりなは振り返り、
「だって、それは今夜、ラド様と一緒に食べる分ですから」
「これ、全部か!?」
どうみても二人分とは思えない量を見回しながらラドルスは肩を落とす。
「しゃーない、皆も呼んでアイスパーティーとするか・・・」
「それだと、ちっと足りないんじゃ・・・」
と、呟きながら考えたりりなであったが、
「でも、量よりもみんな揃って食べるのも楽しいですものね♪」
「そういうこと」
応えて、ラドルスは周囲を見回して、そして空を見上げた。雲の向こうにうっすらとガーディアンズ・コロニーが見える。
一部凶暴化したモノはまだ存在するが、侵食された原生生物もいない平和なラフォン平原が広がっている。ここだけではない、グラール中が同じような状態になっている。
記念式典から始まった「SEED事変」による被害と混乱からの復興には年単位の時間がかかるかもしれない、しかし、絆が深くなった今のグラールの4種族の力が合わさればどんな困難でも乗り越えられるであろう。そして、その為にガーディアンズの力が必要な場所もまだまだあるのである。
「この平和が続くようにがんばらないとな」
「なんか言いましたか、ラド様〜」
ラドルスの呟きにりりなが振り返るが、
「いや、なんでもないさ」と返してラドルスはりりなの横に並んで平原を歩いていくのであった。

                                                   The Guardians 完


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