アルト捜索依頼

(モトゥブ:「修羅の谷」より)


「ご主人から連絡がないんですよね〜」
ある日の午後、ガーディアンズ・コロニー内にあるカフェで偶然会ったレインがそう呟いたのは、かなり時間が経ってからのことであった。
「・・・おい」
コーヒーカップを持ち上げる手を止めて、思わず突っ込むラドルス。レインの周囲には洋服やら雑貨やらの袋が持てるのか?という位大量に置いてある。
「何時間位経ってるんですか?」
りりながホットミルクのカップを両手で包むように持ちつつ尋ねる。
「ん〜・・・最後の連絡があってから、もうすぐ72時間?」
『お〜い』
レインの声に二人の声が唱和する。
「大丈夫大丈夫。だって、あの人だよ?」
そう言って笑いながら手をヒラヒラとさせるレイン・・・
「・・・そうだよなぁ・・・アルトだもんなぁ〜」
と、納得しかけのラドルス。
「え〜っと、どこに行ってるのかは分かってるんですか?」
「確か、ガレニガレ渓谷で修行とか言ってたのが最後に聞いた言葉かな?」
りりなの問にひとさし指を顎に当てて答えるレイン。
「ガレニガレ渓谷かぁ・・・最近ヴァンダが暴れてるって話だったな・・・」
コーヒーを飲みながらそう呟くラドルス、既に心配している素振りは全く感じられない。
「ヴァンダの大群に追いかけられて、必死に逃げるご主人・・・いやん、なんか容易に想像できちゃう」
「哀れ、ヴァンダの炎で丸焼きにされる・・・か」
「ご主人の丸焼き・・・なんか、お腹壊しそうね」
「だな」
完全に別世界の話のように会話するレインとラドルス。
「何呑気に話してるんですか!!ラド様、探しに行きましょう!!」
そのりりなの言葉にあちゃぁ〜という顔をするラドルス。その表情の変化を問いただす前に、レインから声があがる。
「ありがとう、りりなちゃん。探してきてくれるのね〜。あ、運搬方法は好きにしていいからね〜。それじゃ、私は買い物の続きを・・・じゃぁ〜ね〜」
そう言って去っていくレインの後姿を見つめつつ、ラドルスの表情の意味を理解したりりなであった。

「ま、そのうちガーディアンズからまわってくるとは思ってた仕事ではあるんだけどね」
ガニガレイ渓谷をりりなと並んで歩きながらのラドルスの言葉である。
「なんか、ヴァンダさんが組織的に暴れている・・・って話ですよね?」
「ああ、多分リーダーがいると思うんだが、そいつを倒せばいいんだろうが、中々出てこないらしくてね。」
「なんか、どっかの黒コートさんみたいですね」
りりなの言葉に、知り合いのガーディアンの姿が一瞬脳裏を横切るラドルス。
「ま、あれは別の意味で出てこないだけなんだが・・・」
「えへへっ・・・って、誰かいますよ〜」
りりながそう言って指差した先には、岩に向かってじっと、突っ立ってるヒューマンの女性が見えた。
「・・・ガーディアンのようだが・・・なぜ動かない???」
剣を構え、ゆっくりと近づくラドルス。その女性はグレネードを持ったまま、岩越しに何かを見ているように見える。更に近づくと・・・何かがラドルスの耳に聞こえた。
「・・・ラド様、あの人寝てませんか?」
「・・・ああ、寝てるようだ」
起用にもグレネードを構え、立ったまま寝ているのである。りりなが前に回り、その女性の様子を伺っていると・・・
「Oh!!いきなりビースト娘が目の前に!!」
女性は目を覚ましたらしく、りりなに驚いて尻餅をついた・・・

岩場の中にある広場にて・・・
女性はセイランと名乗り、今までの経緯を説明した。
曰く、ヴァンダ討伐のミッションを受けたが、数が多すぎて逃げてきたこと。
曰く、アルトは見ていないこと。
曰く、いつの間にか寝ていたこと。
「私って、時折記憶が飛ぶのよね・・・」
『ふ〜ん』
ラドルスとりりなの声がハモる。実は、この説明を聞いている間にも彼女は何度か眠りの園に落ちているのだ。その度にりりなが起こしているのだが・・・最初は揺り起こしていたりりなも、最後には杖で頭を叩いている辺り、めんどくさくなってきているのだろう。
「アルトさんの前にヴァンダ退治した方が早そうですね」
「だな・・・で、ヴァンダなんだが・・・数が多いってどのくらいなんだ?」
「ん〜っと・・・グ〜」
   ポカッ
「Oh!!30以上・・・でも50はいってないってとこかな?」
「ふむん、俺とりぃが10っつ引き受けて・・・これで、いけるかな?」
「Oh!!なんか私の数が多くありませんか!?」
『気のせい〜』
再び声が揃う二人・・・と、そこへディーガが振ってきた。
「やべっ、見つかった!?」
剣を持ち立ち上がるラドルス。そこへ再び雨のようにディーガが降ってくる。そこには50以上は軽く越えているヴァンダの集団がいた。
「なにが50はいってないだ!!」
剣を中腰に構え突撃するラドルス。その頭上を越えてディーガがセイランへ降りかかる。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴を上げるセイラン・・・その直後、岩場に笑い声が響き・・・
「助けを求める女性の声あらば・・・俺はどこにでもやってくる」
一番高い岩の上に人影があるが、逆光になって3人からは顔が見えない。
「そして、ヴァンダ共よ!!」
とりあえず、ラドルスはスルーして、目前の敵に集中することにした
「戦いとはは破壊の為にではなく、愛する者を助けるためだけに許される。」
りりなはラドルスのフォローに集中することにした。
「その勝利のために我身を捨てる勇気を持つ者・・・」
岩の上の男は一言毎にポーズを変えつつ、最後にヴァンダ達を指差し何かを言おうとした時・・・ヴァンダが一斉にディーガを男に向かって放つ
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
慌てて岩陰に隠れる男、それを無視するラドルスとりりな、それと、状況が分からないまま呆然とするセイラン。
と、別の方向から笑い声が響き・・・
「助けを求める女性の声あらば・・・俺はどこにでもやってくる」
一番高い岩の上に人影が又立っているが、やはり逆光になって3人からは顔が見えない。
「そして、ヴァンダ共よ!!」
やはりラドルスはスルーして、目前の敵に集中することにした
「戦いとはは破壊の為にではなく、愛する者を助けるためだけに許される。」
りりなは溜息をついた後、ラドルスのフォローに集中することにした。
「その勝利のために我身を捨てる勇気を持つ者・・・」
岩の上の男は一言毎にポーズを変えつつ、最後にヴァンダ達を指差し
「人それを『英雄』という!!」
暫し流れる間・・・男はヴァンダを指差したままのポーズで、
「ラド!!ノリが悪いぞ!!」
「知るかぁぁぁぁぁ!!」
剣を振りつつもそちらは見ないようにして怒鳴るラドルス。
「まぁ、いいさ・・・こんな時の対策は考えてあるぜ!!」
岩の上の男、アルトは傍らの鞄をガサゴソと漁り・・・何かの機械を取り出しておいたが、ラドルス達からはよく見えない。
「おっし、準備完了!!いくぜ、テイク2。修行の成果を見せてやる!!」
チームポーズレフトをとりつつ、叫ぶアルト、その下の広場ではラドルス達が戦闘を続行している。
そして、腰に手をあててアルトは高笑いを始めた。
「助けを求める女性の声あらば・・・俺はどこにでもやってくる」
「また、そこからか!!」
たまらず突っ込みをいれるラドルス。
「そして、ヴァンダ共よ!!」
「なんなんです、あれ?」
「気にしないでください・・・」
セイランの問にそっちを見ないように動いてヴァンダを倒していくりりな。
「戦いとはは破壊の為にではなく、愛する者を助けるためだけに許される。」
そんなやりとりには気づかず、アルトは口上を続ける。
「その勝利のために我身を捨てる勇気を持つ者・・・」
岩の上の男は一言毎にポーズを変えつつ、最後にヴァンダ達を指差し
「人それを『英雄』という!!」
そして、左足のつま先で地面をポンと叩くと・・・
『何者!?名を名乗りなさい』
アルトの側に置いてあるスピーカーから声が出る。
「あ、レインさんの声・・・」
「しっ、とりあえず、進めさせろ・・・」
一瞬反射的に振り返りそうになったりりなだが、ラドルスの声にそれを抑えて戦闘に集中する。
「ふっ、貴様らに名乗る名はない!!」
アルトはチームポーズセンターをとりつつ、右足のつま先で地面をポンと叩くが・・・
「あれ????」
そのままのポーズで硬直する。
「ああ、仕掛けは最初の岩の上だっけか・・・失敗失敗・・・」
そういってスピーカーとラジカセを持って移動を始めるアルト。暫くして・・・三度高笑いが岩場に響く・・・
「助けを求める女性の声あらば・・・俺はどこにでもやってくる」
「もう、勝手にやってろ・・・」
完全にスルーを決め込んだラドルス
「そして、ヴァンダ共よ!!」
「Oh!!可愛そうな子・・・」
なんとなく、察してスルーすることにしたセイラン。
「戦いとはは破壊の為にではなく、愛する者を助けるためだけに許される。」
「それ、正解です。」
そんなセイランの様子に苦笑しつつも、戦闘に集中するりりな
「その勝利のために我身を捨てる勇気を持つ者・・・」
岩の上の男は一言毎にポーズを変えつつ、最後にヴァンダ達を指差し
「人それを『英雄』という!!」
そして、左足のつま先で地面をポンと叩くと・・・
『何者!?名を名乗りなさい』
アルトの側に置いてあるスピーカーからレインの声が出る。
「ふっ、貴様らに名乗る名はない!!」
スピーカーの声に応え、アルトはチームポーズセンターをとりつつ、右足のつま先で地面をポンと叩くと・・・アルトの両脇と背後でディラガンの吐息が炎をあげ、最後に打ち上げ花火があがる。
「今、俺様アルトが天誅を下す。トウッ!!」
岩場を蹴って宙に飛ぶアルト、その両手にナノトランサーの光が集まり、ツインクローを形成する。
「・・・名乗ってるじゃん・・・って、あれがリーダーか!!」
ラドルスは呟きつつも、群れの一番後方にいる一際でかいヴァンダを見つけ、周囲のヴァンダを斬り払いつつそこへ向かって走り出す。
その後ろでなぜか無事着地したアルトが・・・ヴァンダに袋にされていた・・・
「うおう、卑怯だぞ!!さっきの問の時の冥界の底から響いたような声といい、このアルト様がせいば・・・」
妙なセリフを録音させておいて、誰の声が冥界の底から響くですってぇぇぇぇぇ!!
どこからもなく飛んで来た、子供の頭程の岩がアルトの後頭部に炸裂した。
広場の空気が硬直し、ヴァンダリーダと斬り結んでいたラドルス、それにテクニックで援護をしようとしていたりりな、逃走ルートを探していたセイラン、そしてヴァンダ達、全ての存在が動きを止める。声の方を向くと、一人の女性が広場の入り口に長ネギとフランスパンをのぞかせたエコバックを片手に提げて立っている。
「まったく、何をやってるんだか、このご主人は・・・」
呟きながら広場に入ってきたレインをの歩みに合わせ、何かを察したのか、ヴァンダがおののきながらも道を開き、気絶したアルトとレインを結ぶ通路ができる。その通路をレインは進み、倒れているアルトの頭を片手で掴んでそのままズルズルと引きずっていく・・・
「それじゃ、ラドさ〜ん、失礼しました〜。どうぞ、お続けになってね〜」
妙に明るい声で肘にエコバックを提げた手を振りながらレインとアルトは退場していった。
「・・・なんなんだ、いったい・・・」
取り残された形となったラドルス達は呆然と立ち尽くすだけであった。


なお、暫しの後、我に返った一同は戦闘を再開し、ラドルスがヴァンダリーダーを討ち取ってる。



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