コートと獣と封印装置

(モトゥブ:「封印装置防衛」より)


 ○月△日 
 今日、局長と副長がモトゥブへミッションに出かけた。2,3日かかるので留守を頼むとのこと。
 ふふふ、暫くはオレの天下だ!!

 ○月☆日
 局長達が出かけてから4日、今日の午後から定時連絡がない。
 まぁ、あの人達なら殺しても死なないから大丈夫だろう。

 ○月×日
 連絡が途切れてから一週間経った。
 ・・・もしかしたら、やばいかもしれない・・・
 仕方ない、明日辺りから行動を起こす事にするか・・・

 ガーディアンズコロニー内にあるガーディアンの宿舎、そこ住む青髪の剣士ことラドルスの宿舎の呼び鈴が鳴ったのは、ある日の朝、ラドルスと相方のビーストの娘、りりなが朝食後の一時を過ごしていた時の事であった。
「お客さんですかね?」
ホットミルクのカップをテーブルに置いて、玄関のモニターを映すと、そこには黒コートを着たビーストの男性の姿があった。
「なんだ、あいつか・・・りぃ、すまないが出迎えてやってくれ」
「はいです〜」
玄関に向かうりりなの背中をみつつ、ラドルスはテーブル脇の戸棚から封筒を取り出して封を切り、中の手紙を一枚取り出して読む。その内容に苦笑していた所へ、りりなが客人を案内してくる。
「朝からの訪問、申し訳ない、剣士殿」
「いんや、構わないさ・・・」
一礼するビーストの男、ジャバウォックにラドルスはコーヒーカップを片手に空いた手をヒラヒラさせる。
「実は、頼みたいことがあって・・・」
「モトゥブの封印装置の防衛だろ?」
「はっ?なんでそれを?」
ラドルスのあっさりした言葉に思わず下げていた頭を上げるジャバウォック。
「あ・・・いや・・・その・・・なんだ・・・、なんか同盟軍が苦戦してるって聞いてたから、そろそろ誰か誘いに来るかなぁ〜って思ってただけで・・・」
ラドルスの態度にりりなは怪訝な顔をするが、あえて何も言わない。
「まぁ、話が早い・・・実は、うちの局長と副長が行ったきり帰って来なくてですね、既に一週間経っているのです」
「ホウ、ソウナノカ?ソレハシンパイダナァ」
「あの・・・ラド様?」
今度こそと、声をかけようとしたりりなはラドルスの口元のある表情に気付く。
「・・・また、悪戯モード入ってますね。まぁ、ジャバさん相手ならいっか、エヘッ」
既に状況説明と、現地での打ち合わせに入っているジャバウォックに聞こえないようにりりなは呟き、小さく舌を出した。

 ○月□日
 正直、素直に受けてくれるとは思ってなかった剣士殿への協力要請があっさりと済んで拍子抜け・・・
 てっきり、何か無理難題を交換条件に出してくると思っていたのだが、どうやら剣士殿を見誤ってたようで、申し訳なく思う。局長と副長、無事だといいのだが・・・

 惑星モトゥブの西クグ砂漠の中にある封印装置、数ヶ月前の「合の時」の際にはその前哨戦たる封印装置防衛作戦の最大の激戦区であった場所であり、現在も原生生物が襲来している場所である。それに備えて同盟軍が駐留しているのだが、ここ数週間に渡って原生生物が大挙して襲来し、同盟軍からガーディアンズへ救援要請がかかったのである。その封印装置脇に設立された野営基地への道をラドルス達は進んでいた。
「大挙とは聞いてたけど、まじめに多いな・・・」
前に立ちはだかった数対のヴァンダを横薙ぎに斬り払って、ラドルスは呟いた。
「たしかに〜!!」
ラドルスの呟きに、文字通り降り注ぐ様に襲い掛かってくるナヴァルを両手に持ったセイバーで払いながらジャバウォックが悲鳴混じりに答える。
「にゃはは、がんばれ〜ジャバた〜ん」
近寄る原生生物をことごとくテクニックで倒しながらりりながジャバウォックを指して笑っている。
「『たん』言うな、『たん』!!」
突っ込みながら岩壁を背にし、ツインセイバーを構え直したジャバウォック。と、そこへ岩壁の上からも大量のナヴァルが降ってきた。
「うわぁ〜」
『・・・』
呆然と見ているラドルスとりりなの目の前でジャバウォックの姿はナヴァルで埋まって見えなくなる。
「・・・どします、ラド様・・・」
「まぁ、ジャバたんなら平気だろう」
「了解です・・・これで十分かなぁ〜」
ラドルスの言葉の意味を察して、りりなが杖を一振り、するとナヴァルの山の下から爆発が起こり、ナヴァルの山が吹き飛ぶ。それに混じって黒コートが一つ空を舞うが、二人は見て見ぬ振りをする。やがて、ベチャという音と共に、砂漠に顔から大の字で落ちる獣、それも見て見ぬ振りをする。
「あの・・・、なんか、オレの扱いって酷くありません?」
『キノセイ』
セイバーを杖に立ち上がりながらのその言葉に、二人の声は同じ方向を向きながら唱和したのであった。

 高台から野営基地が見えた時、3人は唖然とした。そこにはドルァ・ゴーラとビル・デ・ビアの大群が基地を襲っていたのである。野営基地の城壁上から同盟軍の大型兵器が大型原生生物の群れへ攻撃を加えているが、その数は減っていないようである。
「・・・ざっと50ってとこか?」
高台の岩場からその様子を見て、ラドルスは誰にとも無く呟く。
「どうしますか?」
りりなの問にラドルスは腕を組んで暫し瞑目し・・・突然、原生生物の群れを指差して、叫んだ!!
「ゆけ、ジャバたん!!」
「いくかぁぁぁぁぁぁぁ」
『え〜〜〜〜〜〜』
「『え〜〜〜〜〜〜』じゃない!!」
りりなとラドルスの渋い顔に必死な顔で突っ込みを入れるジャバウォック。
「まぁ、勘違いしてほんとにやってくれたら面白かった冗談はさておき・・・」
「おい」
「ここは『よ〜し、まかせろ』って突っ込むのがノリってもんですよね、ノリ悪いです」
「おい」
突っ込みを意に介せず、好き勝手に話をし始めるラドルスとりりな。
「流石にあれだけの数は相手にするのは無謀だよなぁ・・・」
「ですねぇ・・・」
ジャバウォックの冷たい視線を背中に受けつつもラドルスとりりなはそれを無視して、対策を考える。こうしている間にも続いている攻撃で流石に数が減ってきている
「まぁ、あの様子じゃ、ほっとけば同盟軍とレニしゃ達がなんとかしてくれるかな?もうちょい数減った所で突撃して・・・」
「ですねぇ、それまで待ちますか?」
「そうですな・・・はっ?」
頷いて、その言葉の意味に気付くジャバウォック。
「なんで、局長達が無事かつあそこにいるって・・・」
「なんでって・・・、連絡貰ったしなぁ・・・」
頬を人差し指でポリポリとかきながら答えるラドルス。横で頷くりりな
「・・・え〜っと、こっちへの定時連絡は・・・」
呆然とするジャバウォックを他所に、ラドルスが剣を構える。
「おっし、手頃な数になったし、そろそろ美味しいところ貰いにいきますかね」
「ゼロにゃがいるから無理だと思いますよ」
そういいながら岩壁を滑り降りていく二人を見ながら、ジャバウォックは一人呟いた。
「なんか、嫌な予感が・・・」

 野営基地の城壁の下で戦ってたレニオスとゼロは原生生物の群れが後方から崩されていくのに気づいた。
「来たかな?」
レニオスの言葉にゼロは黙って頷き、弓をセイバーに持ち変える。
「ここで美味しいところをあの剣士に持ってかれてはたまりませんからね」
セイバーを片手に原生生物に向かって行ったゼロを見送ってレニオスは先日ラドルスに送った手紙の内容を思い出して苦笑する。
「8日か・・・まぁ、あの剣士なら笑いながら本人に決めさせるだろうな」
そんなレニオスの前で、城壁上からの攻撃も止んだ中、ビル・デ・ビアのボスを相手に「美味しいところ」争奪戦を繰り広げているゼロとラドルスの姿があった。

 ガーディアンズ・コロニー内、ガーディアンズ本部内になぜか存在している黒コート愛好会の本部、その客室でレニオスとゼロ、ラドルスとりりな、そしてジャバウォックがいた。
「局長、副長、連絡が途切れた時はほんと、どうしたものかと心配しましたよ」
ジャバウォックが笑顔で言っているが、レニオスはラドルスの方を見て笑っている。りりなとゼロもその様子に気付いて笑いをこらえている。
「・・・でね、ジャバたん・・・猫と兎、どっちが好き?」
「兎かなぁ、その前に『たん』はやめい・・・って」
ラドルスの言葉に突っ込みかけて、りりなが部屋を出て行くドアの音で周囲の異様な様子に気付くジャバウォック。そこへ、レニオスが立ち上がり、仰々しく両腕を広げ、
「ジャバよ・・・ヨウカモホッタラカシデ、キツカッタナァ」
某読みで呟き、広げた両腕を胸の前でクロスさせる。
「・・・はい?」
なんとなく、察して顔面が蒼白になるジャバウォック
「翌日も信用されてなくっぽくてやだけど、一週間以内に来て欲しかったなぁ・・・とか思う訳よ、私と局長としては」
「・・・」
ゼロの言葉に、ジャバウォックの中で推測が確信に変わり、もう何も言えなくなる。そこへりりなが箱を持って戻ってくる。
「ジャバたん、ご注文のバニーさんセット持って来ました」
りりなの言葉に一同は爆笑する。

 ○月★日
 今日から3日間バニーさんで受付をすることに、あんのへっぽこ剣士はこの事を知った上で何も言わずに協力要請を受けたらしい・・・
 やっぱり、あのへっぽこで(以下検閲により削除)な剣士は鬼や!!


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