あの禿殺っちゃっていいですか?

(モトゥブ:「禿・ダンジョン」より)


 ある日の午後、ガーディアンズコロニー内のカフェでコーヒーを飲んでいたラドルスのところへりりながやってくる。
「おう、どうしたりりな」
「今度はルミ姉さまがやっちゃたそうです」
と、りりなはラドルスに一枚の紙を渡す。それには朝方に起きたガーディアンの乱闘事件の事が書いてあった。
「・・・って、リーファ殿と二人がかりでボコった!?これ、相手生きてるのか?」
「ルミ姉さまがSUVまで撃ちこんだらしいですけど、なぜか生きてるそうです」
「・・・それ、ほんとに人間か?まぁ、いいけど・・・」
と、ラドルスはここ数日起きている乱闘事件を思い出していた。それは全てあるミッションを受けたガーディアンが起こしたという共通点があった。
「ん〜っと、最初がリッ君だろ?次がアルトで、ジャバウォックと続いて、今度はルミルミか・・・なんなんだ、このミッション?」
ラドルスは端末を取り出して明日受ける事となった問題のミッション情報を表示する、それには依頼人と受付場所のみが書かれており、ミッションの詳細は「機密事項」としか書かれていなかった。
「まぁ、受ければ分かるさ・・・」
そういって、ラドルスはコーヒーを一気に飲み込んだ。

 惑星モトゥブにあるガーディアンズのダグオラ支部、受付に確認を取った所、その奥にあるシュミレーションルームに通された。メンバーはラドルス、りりな、オクリオル・ベイ、ミツ、TYPEμの5人・・・ラドルス曰く「何があっても暴れなさそうなメンツ」とのことであるが、りりなに言わせると「最初に『ラド様以外は』とつけるべきですね」とのことだが・・・。
「よう、俺が依頼人のブルース・ボイドだ」
シュミレーションルームには一人の中年男が立っていた。時折そのスキンヘッドを輝かせながらの説明によると、ガーディアンズ訓練学校でのより実戦的なカリキュラムの実施に伴い、開発中の訓練用施設の試験運用とデータ収集に協力してくれる人材を探しており、
通常ミッション同様結果に応じた報酬を用意しているとのこと。ただし、実戦形式の訓練用ミッションのため、現役ガーディアン複数名でいどんで欲しいとの事である。
「一つ聞いてもいいか?」
説明が一段落ついた所で、ラドルスが手を挙げる。その先を促されて、ラドルスは質問をする。
「このミッション、なぜか乱闘事件が起こっているようなんだが、何があったんだ?」
「乱闘???ああ、『なぜか』このシュミレーションの後、何人かのガーディアンが怒り出した事があったんだが、理由はさっぱりわからないな」
「ふむん」
どうやらシラをきってる訳ではなさそうだな、と思いつつ。「始めていいか?」の言葉に黙って頷くラドルスであった。

「ほう、これはなかなか良く出来たVRフィールドですね」
モトゥブの鉱山を模したVRフィールドを見渡してオクリオル・ベイが感嘆の声を上げる。
「だろ?苦労したんだぜ」
『は?』
後ろからかかった声に一同が振り返ると、そこにはブルースの姿があった。
「あれ?おじさんも一緒なんですか?」
りりなの言葉にブルースは苦笑し、
「いや、これは俺の行動パターンを模したマシンナリーだ。今回はこのマシンナリーを無事に目的地に連れて行くことだ。」
「護衛任務ですか・・・」
「俺の行動パターンのコピーである以上、多少は戦闘は出来るからそれ程神経質にならなくてもいいぜ」
ミツの言葉に応えてソードを出して空いた手で親指を立てるブルース。
「まぁ、いくか・・・」
ラドルスの言葉に一行は大きく頷いた。

「おいおい、まじめにやってくれよ・・・実際のミッションだったら大変なことになってたぜ」
シュミレーションルームに戻った一行の前でブルースは肩をすくめた。一行の冷たい視線はそのスキンヘッドの中年を見ているが見られている本人はそれに気付いていない。
「なにが、『なぜか』・・・だ、一回で察しがついちまった」
小声でのラドルスの呟きにTypeμが頷き、言葉を続ける。
「下手に腕に覚えがあると思っている分、やっかいですね」
「すごいやんちゃ坊主ですね・・・中年ですけど」
「りりなさん、それ座布団一枚ですよ」
「で、ラドさん・・・どうします?」
ミツの言葉にラドルスは頷き、ブルースにリトライの意思を告げる。ブルースは念押しをした後、再度VRシステムを起動した

「さてっと、今度はまじめにやりますかね」
ラドルスが軽く上半身を半回転させ呟く。
「さっきはまじめに・・・」
「りりなさん、し〜」
りりなの突っ込みをTypeμが制止する。
「二度目ですから、もう少し上を狙ってみますか?」
オクリオル・ベイの言葉に頷き、極力ブルースのマシンナリーを見ないように一行はルートを決定していく。
「それじゃ、皆さん行きますか・・・」
ルートの決定後、ミツの言葉でシュミレータをスタートさせる一行、先のミッションを教訓に一行は分岐ルートを分担していき、道を進めていくが・・・
「だぁぁぁぁぁぁ、あのおっさんなんとかしてくれ!!」
敵の集団に向かって横を駆け抜けていくスキンヘッドに、ヴァンダの爪をソードで受けつつラドルスは無駄だと思いつつも後方に声をかける。
「ふむ〜、なんとかね・・・まぁ、手が滑りました〜ってことで」
Typeμがグレネードをブルースの直前に着弾させる。そこへ立て続けにりりながディーガを打ち込み、ブルースの足を止める。その隙をついて、オクリオル・ベイがブルースの周囲の的をライフルで狙撃して倒し、目前のヴァンダを倒したラドルスが残敵を掃討する。
「やれやれですな、さっきはこれをゴリにやられて終わっちゃいましたからね・・・」
「ほんと、これはきついよベイさん・・・リッ君やアルト辺りが切れるのも無理ないよ」
苦笑するラドルスとオクリオル・ベイのところへりりなが通路の先を指差しながら、
「ラド様〜、禿のおじさんがまた先にいっちゃいましたけど?」
「・・・後ろから斬っちゃうか、あれ」
「いやいやいや・・・」
とりあえず、後を追う一行であった。

「やっぱり片手剣は一番扱いやすいよな」
追いついた一行の目の前でブルースが『ソード』をヒル・デ・ビア相手に振るっていた。
「言ってる事とやっていることが違わないですかね?」
「いや、ミツさん、そこはスルーするのが・・・」
「うわぁ、あれは回るぞ!!」
ミツとオクリオル・ベイのやりとりを耳の端に捉えながら、ブルースの剣の動きを見ていたラドルスが叫んで突撃する。丁度ブルースの攻撃で足元をふらつかせたヒル・デ・ビアがその足場を踏みしめ直している。
「んみゅぅ〜」
りりながブルースの足元に向かってテクを放つ、吹き上がった炎でブルースとヒル・デ・ビアの間に空間ができ、その空間にラドルスが剣を構えつつ入り込む。が、ヒル・デ・ビアはそのまま腕を大きく回し・・・凍りつく
「!?」
振り返ると、オクリオル・ベイ、ミツ、Typeμの3人がライフルを構えているのが見えた。誰の弾かはわからないが、凍結したその隙をそのまま呆けてすごすラドルスではなかった。
「これで、もらい!!」
大きく振りかぶった剣が、ヒル・デ・ビアを両断し・・・その背後にいたヒル・デ・ビアの姿をラドルスの視界に現した。
「あ、あら〜、追加一名様ご案内・・・だったのね・・・」
振り下ろした剣の戻しが間に合わず、防御の姿勢をとったラドルスの頭上を、再び後方からの援護と、縦回転で飛ぶ禿が通り過ぎた。
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜!!前に出るなといっておろ〜がぁぁぁぁぁぁぁ!!」
一応、斬れない様剣の腹でブルースを横薙ぎで叩き落とすラドルスであった。

「なんか、原生生物相手にするより疲れたんだけど・・・」
ダグオラ支部の休憩所でコーヒーの入ったカップを手にぐったりした様子のラドルスを見てりりなが横で頭をよしよしとばかりに撫でている。
「まぁ、あれは・・・ねぇ・・・わざわざ雷フォトンのライン着ている辺り嫌がらせじゃないかとも思いますよね」
と、ミツ。こちらはソーダ水のカップを持ちラドルスの前に座っているが、それほど疲れた様子はない。
「・・・まさかさ・・・」
Typeμが天井を見ながらふと思いついたように切り出し、一行の視線を感じつつ言葉を続けた。
「・・・あれもガーディアン養成の為にわざとやって・・・た・・・り・・・しないかなぁ〜なんて思ったんだけど・・・」
一瞬顔を見合わせ、沈黙する一行・・・その直後
『それはナイナイ』
異口同音の言葉の後、休憩所は笑いに包まれるのであった。

 後日、ガーディアンズ・コロニーにて・・・
「そいやさ、りぃ・・・」
「なんです?」
「あのミッションの報酬がやけによかったんだが・・・これって慰謝料込みだったりしてな」
「さぁ〜分かりませんけど、アイスがいつもより多く買えるのは嬉しいです〜」
「あれでも十分多いと思うだけどなぁ・・・俺は」
嬉しそうにアイス屋へ向かっていくりりなを苦笑しつつも追うラドルスであった。


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