奪われた『私の』秘密兵器

(モトゥブ:「奪われた破壊兵器」より)


 ガーディアンズコロニーにある宿舎の一つ、へっぽこ剣士の異名を持つラドルスの部屋、いつものようにコーヒーを飲みながら朝のニュースを見ていたラドルス
『昨日突如報告のあがった、このローグスグループの壊滅は既に6つに及びますが、4大グループを始めとした他のローグスからも何の声明も出されておらず、小グループ同士の抗争と思われています』
「なんだかんだ言って、モトゥブも物騒だねぇ〜」
といいつつも、のんびりとコーヒーを飲むラドルスであった。
そんな平穏を破る電話がけたたましく鳴ったのはある日の午後の事であった。
「うみゃ〜」
その音にソファの上で丸くなっていたりりなが目を覚まし、奥の部屋からはラドルスが出てくる。
「誰だ・・・人がのほほんとコーヒーの調合してる時・・・に・・・」
頭をかきかき電話のディスプレイの表示を見たラドルスの手が止まり、素早く通話スイッチを入れる。
「おっそ〜い!!」
ディスプレイには見知った白銀の躯体を持つ女性キャストの顔が映り、第一声が部屋中に響く。
「すまんすまん、で、何のようかな?ルミナス」
そういって頭を軽く下げるラドルスの視界の端で、目をこすりながらりりなが自分の部屋へ入っていくのが見えた。
「あ、そうそう。今すぐモトゥブに来てくれないかなぁ」
「今すぐ?」
「ん〜出来れば3分で!!」
「無理」
そんなやりとりの間にりりなは自分とラドルスの装備入りナノトランサーを持って部屋から戻り、ラドルスの後ろでソファの上にちょこんと座る。
「まぁ、まじめな話、本当に急ぎなのよね〜。ガイールの酒場で待ってるから」
そう言いながら手を振ったルミナスの映像で電話が切れる。
「・・・まぁ、暇だし。ルミルミの呼び出しだし、行くっきゃないかね、りぃ」
「はいです〜」

 惑星モトゥブのラグオラシティの端にあるガイールの酒場、ここはローグスを始めとした様々な人が立ち寄り、その喧騒で大声で内緒話ができる場所でもある。その酒場の入口に立ったラドルスとりりなに向かって、テーブル席に座っているルミナスが手を振っている。そして、その横にはルミナスのパートナーであるニューマンの女性が座っていた。
「おっそ〜い!!」
席に座ったラドルス達にルミナスが開口一番先ほどと同じセリフを言う。
「これでも、急いできたんだよ」
「急ぎって言ったら、30分で来てくれなきゃ!!」
「ピザの配達じゃないんだからさ」
苦笑するラドルスの横で、いつの間にかちゃっかり注文したホットミルクをジョッキで飲んでいたりりながジョッキをテーブルに置き、
「で、御用事はなんですか?」
「そうそう、それなんだけどね」
と、ルミナスはテーブルの上に乗り出す。
「ちょっと『ある所』に頼んで手配した荷物がローグスに取られちゃったのよ・・・」
乗り出した以外は普通の声で話すルミナス。しかし、周囲の喧騒でラドルスとりりなにはかえって聞き取り難い位である。
「ある所?」
「同盟軍内にある。エンドラム機関廃止の残務処理をしている部門です」
ルミナスの横で白ワインを傾けつつ、ニューマンの女性―リーファ―が代わりに答える。
「・・・同盟軍とエンドラム機関!?」
思わず叫んで立ち上がるラドルス、それを慌てて止めるりりなであったが、その程度では周囲の喧騒には勝てず、誰もラドルスの声には気付かなかった。そのまま一人バツが悪そうに座りなおすラドルス。
「でね、それの奪回の手伝いをお願いしたいのよ」
「ということは、奪ったローグスと、その所在は分かっているんですか?」
またまた、いつの間に注文したのか、運ばれてきたバニラアイスにスプーンを差し込みながら尋ねるりりな。
「ええ、昨日ずっと歩き回って、6つ目でやっとビンゴ!!」
ルミナスがポンッと嬉しそうに手を叩く。
「・・・6つ?」
その数字に朝のニュースが脳裏を横切るラドルス。
「そんで、アジス・クグにレッツゴ〜ってな訳なのよ」
「まぁ、だいたい分かった・・・」
ラドルスは脳裏のどこかで誰かが「これ以上かかわるな〜」と警告を発している気がしたが、このまま退散した方が怖いな・・・と諦め、立ち上がった。
「しゃ〜ない、いきますか」
「はいです〜」
と返事をしたりりなの前にはいつの間にかアイスの皿が3つ重なっていた。

「さて、目的地に近づいたとたん攻撃されたのはいいが・・・」
足元に倒れて呻いているローグスの背中に片足を乗せ軽くグリグリと動かしながらラドルス。
「どう見ても三流ですね。息を潜めていればいいものなのに」
と、りりな。その周囲には凍結したり焼け焦げた十数名のローグスが倒れている。
「ま、この方が楽でいいですね、探す手間省けるし」
戦闘中には姿が見えなかったリーファがいつの間にかラドルスの傍らに立って、続く。
「一流だろうと、三流だろうと・・・うふふふふ・・・」
周囲に何か禍々しい気配を漂わせて微笑むルミナス。と、その足元に銃弾が着弾する。と、次の瞬間には、
「そこね!!」
片手に持っていたライフルをくるりと回して構え、撃つ。遠くで悲鳴が聞こえ、崖からローグスらしき人影が落下するのが見えた。
「ひゅう〜」
口笛を一吹きして、それを見ていたラドルスであったが、直後にセイバーを地面に突き立てる。それは足元で短剣を投げつけようとしていたローグスの顔をフォトン光で照らす。
「あ、案内役さんが起きましたね」
トテテテテと、りりながラドルスに駆け寄り、セイバーに怯えるローグスに歩けるだけに加減したレスタをかける。
「・・・と、いう訳だ。アジトに案内してくれたら命は取らないよ」
背中から足をどけて、地面に突き立てていたセイバーを今度は首筋に当てて呟くラドルス。
「ラド様、手馴れてますね〜」
「まぁ、普段からやってるようだし・・・」
「わぁ、怖いぃ〜」
りりな、リーファ、ルミナスの順で言われた言葉に、「演技だ!!」と突っ込みたいのをかろうじて押さえ、ラドルスはなるべく凶悪っぽい笑みを浮かべる。
「さぁ、どうする?断ってもいいんだぜ?代わりはまだ何人もいるんだからなぁ〜」
「・・・ラド様、ほんとに手馴れてません?」
そんなりりなの呟きは聞こえなかったらしく、ローグスの男は怯えながら頷くのであった。

 案内に従う、最初の襲撃の場所から30分程歩いた所で、洞窟を抜けるとちょっとした広場に出た。
「ふ〜ん、ここでケリをつけようって訳ね」
振り返り、罠に見事ひっかけたと快心の笑いを浮かべようとしていた案内役のローグスだったが、その直前に周囲を見渡しながらのラドルスの言葉にたじろぐ。
「わ、分かっていたのか」
「いんや、半々だと思ってたけど、こんなあからさまな場所に連れて来られたらねぇ〜」
と、ローグスの背中を思いっきり蹴飛ばすラドルス。たまらず倒れこんだローグスの後頭部をライフルの銃底でルミナスが強打し、更にりりながバータで凍結させる。
「ま、約束だ、命は取らない・・・って、てんて〜はどこいった?」
「てんて〜じゃないから〜」
ラドルスの小声の呟きがどうやって聞こえたのか分からない程離れた、広場の入り口でリーファが突っ込みを入れる。その声が合図になったかは分からないが、広場の中央にナノトランスのゲートが開き、そこから1機のマシンナリーが姿を見せる。
「ほう、クリナビートのS型とは、珍しいもの持ってるなぁ・・・」
ソードを構えるラドルスの横でルミナスが呟く
「あちゃ〜、箱開けちゃったのかぁ・・・」
「・・・え?」
その声に横を見たラドルスにりりなが警告の声を上げる。
「ラド様!!脇見戦闘敗北の元!!」
その声に、改めて前を見る事なく、その場を飛び退るラドルス。直後、さっきまでラドルスの立っていた場所にグリナビートの撃ったマシンガンが着弾し、足場の砂を巻き上げた。
「さんきゅう、りぃ!!」
と、グリナビートへ向かったラドルスだが、既にりりなはその前を走り、グリナビートに接敵している。
「りぃ!!」
「んみゅぅ〜」
ラドルスの叫びもなんのその、りりなは振り下ろされたグリナビートの右腕をトテテテテと走ってかわし、杖を振り下ろす。すると、グリナビートの足元が小爆発を起こし、たまらずグリナビートはよろける。その隙を見逃さずルミナスがライフルで足の間接部を狙撃し、さすがに耐え切れなくなったのか、クリナビートはその赤い巨体を倒れこませる。更に起き上がろうとしていた所へ、ラドルスの頭上を越えて巨大な岩が後方からグリナビートの頭部に直撃する。見ると、リーファが杖を振り下ろしているのが見えた。
「ま、安全圏に逃げてもやることはやってくれるからいいか・・・」
と、改めて前を見ると、りりなが倒れたままでもなお腕を振り回すグリナビートを相手にその腕を巧みにかわしつつ、テクニックを叩き込んでいるのが見えた。それを見て、出番無しと思い、その場で立ち止まるラドルス。そのまま、りりなはグリナビートをスクラップ状態にしてしまう。
「えへへ、ブイッ!!っと、アルトさんの真似ぇ〜」
動かなくなったグリナビートの上でVサインをするりりな。それを見るラドルスの横にリーファとルミナスがやってくる。
「・・・で、今のが荷物?」
前を向いたまま横目でチラっとルミナスを見て尋ねるラドルスに、ルミナスは腕を組み、
「ん〜っと、あれは『おまけ』で貰ったもので・・・」
「多分、本命もローグスの手に落ちたと思った方がいいのかな?」
ルミナスの回答にリーファが続くが、
「おまけって・・・クリナビートのS型がおまけなら本命はなんだよ!!」
「多分、あれだと思いま〜す」
ラドルスの叫びにりりなが空を指差して答えた。見ると、赤いマシンナリーがこちらにむかって着陸体勢に入っている。
「・・・マガス・マッガーナですか・・・ははは、あんなもんどうするつもりだったのさ・・・」
エンドラム機関が所有し、かつてそれを駆っていたあるキャストの名前がその名の由来となった巨大戦闘用マシンである。
「私の秘密兵器をかえせぇぇぇぇ!!」
呆然とするラドルスの横でルミナスが叫びつつ銃を撃つ。それはマガス・マッガーナの弱点と言えるむき出しになった肩の関節機構に全段命中する。
「俺は地道に斬っていくしかないか」
と、駆け出したラドルスにりりなの補助テクニックがかかり、その脇をリーファの放ったノス・ディーガが走っていく。その直撃を受けつつもそのまま左腕のマシンガンが火を噴くが、ラドルスはそれをかわしつつ、更に間合いを詰めてその脚部を斬りつける。と、マガス・マッガーナはその巨大な腕を頭上で組み、ラドルスに向かって振り下ろす。
「うひゃぁ〜」
振り上げた時点でその意図を察したラドルスはそれを難なく回避し、振り下ろされた腕の関節にソードを叩きつける。と、今度は右腕を高々と振り上げると、その腕が巨大な剣に変わる。
「剣士なら受け止めてみて!!」
リーファの無責任な言葉に突っ込む暇もなく、ラドルスは横へと跳ぶ。その場所へ剣が叩きつけられ、砂と岩が吹き飛ぶ。そこへルミナスが射撃で、りりながノス・ゾンデを叩き込むが、今度は背中からのミサイルをその二人へ向かって撃ち出す。
「きゃぁ〜」
「ひゃぁ〜」
左右に分かれてそのミサイルの着弾点から逃げ出す二人。それを横目にみつつ、今度はラドルスとリーファがそれぞれ攻撃を行う。そこへ、安全圏に逃げたりりなが、ノス・ゾンデを頭部に叩きつける。と、マガス・マッガーナの動きが止まり・・・
「おや・・・?」
更にソードをたたきつけたラドルスに耳に何か羽虫の羽音に似た音が聞こえる。
「・・・やばいかな?」
動きを止めたままのマガス・マッガーナからすたこらさっさと逃げ出すラドルスの背後でマガス・マッガーナの各所から火があがり、その巨体はそのまま崩れ落ちたのあった。

「全く、失礼しちゃうわ!!」
ガイールの酒場に帰ったルミナスは一人憤慨している。
「まぁ、マガスから降りたローグスのボスがルミの名前聞いた途端逃げ出したんだものね」
「よっ、有名人」
リーファの言葉に続いてラドルスの茶化しが入る。
「『白銀の悪魔』ってルミ様のことだったんですね」
「りりちゃ・・・」
ラドルスに突っ込みを入れる前にりりなの無邪気発言に拳の振り上げどころを見失うルミナス。
「ところで・・・だ」
急にラドルスはまじめな顔をして、ルミナスに尋ねる。
「どうやって、あんなもんを。そして、その目的はなんだったんだ?」
「あはは、ラドさんこわ〜い」
「まじめに答えようね」
冗談で誤魔化そうとしたルミナスにラドルスの視線が刺さる。
「ん〜っと、エンドラム機関のモノだったんだけど、破棄予定なもののリストにもぐりこませて、そのままもらっちゃおうかなと」
「・・・これって、聞いちゃいけなかったかな?」
と、りりなにおどけてみせるラドルス。が、その実はあっさりと回答が来たので、逆に心配になって周囲の確認を怠っていない。
「で、あれ使ったらもちっとお仕事楽になるかなぁ〜とか思っただけ」
「もちっと・・・って」
今でも十分凶悪レベルに強いじゃないか・・・、とは流石に口には出さず。ただ、ふ〜んと頷くだけであった。正直、これ以上かかわってはいけないような気がしていたのである。
「ま、そんな事だから、本部には内緒してね」
と、手をヒラヒラとするルミナスにラドルスは首を振る。
「・・・いや、無理だな・・・」
「へっ?」
ラドルスの言葉にりりなが続く。
「だって、さっき戦闘報告だしてきちゃいましたから・・・」
「え〜〜〜〜!!」
「って訳で、自分達は巻き込まれたって事になってるから」
呆然とするルミナスを置いてラドルスとりりなは酒場を出る。入れ違いにガーディアンズ・モトゥブ支部の者が入っていったが、二人は気付かない振りをして、そのままコロニーに戻るのであった。

 なお、ルミナスは証拠不十分としてルウの警告だけで済んだとの事。また、ルミナスが支部に連れて行かれた際、同行者は無かったという。


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