いけいけ、僕らのジャバウォック!!

(モトゥブ:「砂塵の機械戦士」より)


 ガーディアンズコロニーの中にある、黒コート愛好会本部の一室に一番隊隊長のジャバウォックが入ってきたのは、昼過ぎの事であった。
「うぃ〜っす」
「隊長、今日は遅いですね・・・あれからなんかありました?」
副隊長がジャバウォックの机の上に書類の束をドンッと置き、その束の向こうに見えなくなった隊長の顔を見るのを諦めつつ、尋ねる。昨夜、ジャバウォックは副隊長を始めとした数人と飲みに出かけ、途中でジャバウォックは抜け出しているのである。副隊長が最後に見たのは、カウンターで金髪の女性に声をかけている姿であったが・・・
「いや、特に、なにも・・・しかし、なんだこの書類は」
「ああ、局長から返された隊長の始末書です。明後日までに書き直しだそですよ」
書類の山の向こうで何かが机にぶつかる音がするのが副隊長には聞こえる。恐らく額だろうと想像しつつも、自分の席に戻る副隊長。
そして、暫し時は流れ・・・
「なぁ・・・」
再び紙の山の向こうから声が聞こえる。
「なんでしょう?」
ジャバウォックの前、正確にはジャバウォックの机に詰れた書類の山に前に副隊長は立ち、返事をする。
「ふと思ったんだけど・・・」
「なんでしょう?」
「俺って、局長の玩具にされてないか?」
さりげない言葉は部屋中に響き、空気が凍りつく。
「いや、冗談だハハハハハ・・・」
と、笑って誤魔化そうとしたジャバウォックだったが・・・
「気付くの遅いっす・・・」
部屋にいた誰かがそう呟いた・・・。その途端、
「やっぱりかぁぁぁぁぁぁ!!」
ちゃぶ台返しのポーズのまま立ち上がったジャバウォック。そして、そのまま部屋を走り去っていく。呆然と立ち尽くす副隊長に、先ほどの声の主が、
「夕べ、酒場でナンパしてた女性と、いい感じになったんですけどねぇ」
「あの金髪の?」
「男だったんだなぁ。これが」
「・・・」
無言で自分達の隊長の不運さに天を仰ぐ一番隊の面々であった。

「で、俺に斬りかかってきた訳か」
呟き、レニオスは音楽情報誌のページをめくる。
「いや、ちょっと頭に血がのぼってしまって・・・ハハハハハ」
ジャバウォックは乾いた笑いを続ける。彼の周囲には数本のセイバーが壁に刺さっている。しかも、それらは全てジャバウォックの服を間に挟んでの事なので、文字通り貼り付け状態な訳であるが・・・
「まぁ、俺は優しく、かつ寛大な男だ」
雑誌のページを捲りつつ呟くレニオスを見て、「この大嘘つき」と思うジャバウォック、レニオスの口元がうっすらと笑っているのは、何かよからぬ事を思いついた証拠に違いない。
等と思っても口には出さない方がいいな、と思える程度には学習しているジャバウォックである。
「一つ、今黒コートに来てる依頼をこなしてくれたら、今の件は忘れてあげようじゃないか」
「はぁ・・・」
「本当はゼロとへっぽこに声掛けて行こうと思ったんだが・・・肝心の俺が忙しくてなぁ」
と、欠伸をしながらまた雑誌のページを捲るレニオス。
「と、とてもそのようには見えませんが・・・」
「そうか?夕べどっかの獣が出した始末書の添削をしていて寝不足なんだが・・・あの獣は誰だったか・・・さっきまで思い出せなかったんだが、なんだか思い出せそうだ」
「やらせていただきます!!」
「そうかそうか」
「で、その前に・・・」
「なんだ?」
「これ、取ってもらえます?」
肩をすくめて席を立つレニオスであった。

「何が『一人じゃ危険だろうから、本部を出た時から会った知り合いに声をかけていけ』だ・・・」
腕を組みながらブツブツ呟いている一見怪しそうに見えるジャバウォックであったが、指示を無視する勇気もなく、本部の出口に立っていた。
「『5人揃う前に断られたら、その時点で編成終了〜』とかも言ってたな・・・出来れば、『あの』剣士とその飼い猫、副長を避けてルミナスさんに会えれば無敵なんだが・・・ええ〜い、ままよ!!」
意を決してドアを開けるジャバウォック。と、その目の前には・・・
「そんな警戒しないでくれよ、ちょっとそこでお茶したいだけなんだ」
ナンパをしているアルトの姿があった。
「・・・いきなりかい」
とりあえず、声をかけるジャバウォックに
「まったく・・・男に声かけられるのは趣味じゃないんだけどなぁ〜」
頭をポリポリかきながらも、了承してくれたアルトを連れ、とりあえずルミナスのいるホルテスシティ3Fへ行こうと、ガーディアン本部のドアを開けたジャバウォック、すると。
『オヤ、グウゼンダネ、ナニヤッテルノ?』
ゼロとラドルスとりりなが声を揃えてジャバウォックに声をかけたのであった。
「・・・」
一瞬呆然としつつも、一緒にミッション受けてくれないかと、声をかけるジャバウォック。
『モチロンイイヨ〜』
またも声を揃えて答える三人であった。

「で、ジャバ・・・基本的な質問いいか?」
アルトが手を挙げて、それを指差すジャバウォック。
「・・・どこ行くか聞いてないんだが・・・」
アルトの問に視界が暗くなるジャバウォック。編成の指示とモトゥブということだけで、肝心のミッション内容を聞いた覚えがないのである。
「西クグ砂漠の炭鉱でコードE」
黙り込むジャバウォックび横でゼロがボソッっと呟く。
「へ?」
コードEとはエンドラム機関関係、今では主に残党の掃討作戦の事を指す。
「レニしゃに聞いたミッションでモトゥブはそれしか今は受けていなかった」
「ふむん、そんじゃいきますかね〜」
ゼロの言葉に続いて、ラドルスが片手を上げてモトゥブ行きのステーションへ向かう一行であった。

「一つ質問いいかなぁ」
肩で息をしつつジャバウォックが振り向いて呟く。
「なにかなぁ〜?」
後ろの岩陰から声がする。
「なんで、前に出てるの俺だけ?」
「俺は双銃でスタイリッシュに援護」
と、アルト。
「私はテクニックでにゃにゃんと援護」
と、りりな。
「わたしは弓で堅実に援護」
と、ゼロ。
「おいらはジャバが抜かれた用心に援護チームの護衛」
とラドルス。
『という訳でがんばれジャバ』
と、一同。
「なんでじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
叫ぶジャバウォック。しかし・・・
『ほらほら、騒ぐから敵がきちゃったよ〜』
後ろを指差す一同。
「お前等、後で斬るぅぅぅぅ〜!!」
半ばやけっぱちになりつつも出てきたエンドラム機関残党兵に斬りかかるジャバウォックであった。

「またまた質問いいかなぁ」
あからさまになんかありそうな広場の中央に立ち、ジャバウォックが振り向いて呟く。
「なにかなぁ〜?」
遥か後方の洞窟から声がする。
「なんで、前に出てるの俺だけ?」
「俺は双銃でスタイリッシュに援護」
と、アルト。
「私はテクニックでにゃにゃんと援護」
と、りりな。
「わたしは弓で堅実に援護」
と、ゼロ。
「おいらはジャバが抜かれた用心に援護チームの護衛」
とラドルス。
『という訳でがんばれジャバ』
と、一同。
「あのさぁ、みんな遊んでない?」
『そんなこと、ナイナイ』
と、ジャバウォックの周囲が暗くなる。見上げると、マガス・マッガーナが降下体勢に入っているのが見えた。
「・・・ん〜、ちっとやばいかな・・・ハム、いってこ〜い」
「ん?」
ラドルスの言葉に振り向いたアルトの背中をりりなとゼロが蹴飛ばす。
「うひゃぁ〜」
ゴロゴロゴロと転がり、ジャバウォックの足元に転がるアルト。
「いらっしゃ〜い」
「よ、よぉ」
ジャバウォックの微笑みにアルトは仕方なく、グッダ・ナマハムと取り出し装備する。
『こうなったら、いくぜぇぇぇぇぇ!!』
半ばやけっぱちになった二人はマガス・マッガーナに向かっていくのであった。

『そこだ、いけ〜!!』
脚部ユニットを壊したものの、そこに発生したブレードに思いっきり弾き飛ばされている二人に声援を送る三人。なお、一応一人を除いて援護行動はしている。
「好き勝手言ってくれてるぜ」
「後で斬る!!」
よろめきながらも立ち上がる二人。
「しゃーない、ここらでスタイリッシュに決めるか・・・」
「おう、紳士的に行くぜ!!」
視線だけのカットインが入りそうな短いやりとりの後、左右に分かれる二人。
「まずは俺から!!」
一気に間合いに入り、ボッガ・ロバットを叩き込むアルト。最後のナックル乱舞まで入れ、即間合いを外す。そこへ、
「次は俺だぁ〜!!」
アルトの頭上を飛び越えてジャバウォックがスピニング・ブレイクを全段叩き込む。たまらずよろめくマガス・マッガーナ。
『そして、これで・・・終わりだぁぁぁぁぁ!!』
左右にからジャバウォックがグラビティ・ブレイク、アルトがボッガ・ズッバを叩き込・・・・もうとした途端。
・・・目前でマガス・マッガーナがワープする。そのまますれ違う形で攻撃が空振りとなる二人。
「あれで、決まればかなりかっこいいんだけどねぇ・・・」
洞窟の入り口であぐらをかいて、頬杖をつきつつラドルス。
「あれで決まらないのが、あの二人ってことでしょ」
弓を射ちつつ、ゼロ。
「ですねぇ〜」
ノス・ゾンデを放ちつつりりな。
「しゃーない、暇だし俺も援護に入るか・・・」
やれやれといった形でラドルスは立ち上がり、ソードを構えるのであった。

 翌日、ガーディアンズコロニー内の黒コート愛好会本部。
「うぃ〜っす」
「隊長、今日も遅いですね・・・昨日はどうでした?」
副隊長がジャバウォックの机の上にあった書類の山の隣にもう一山書類の束をドンッと置き、その束の向こうに見えなくなった隊長の顔を見るのを完全に諦めつつも、尋ねる。
「いや、特に、なにも・・・しかし、なんだこの書類は」
「追加です」
「・・・」
書類の向こうで傷だらけの顔がしかめっ面になっているのを想像しつつ副隊長は一礼して、自分の席につく。そんな副隊長の耳に周囲のヒソヒソ話が聞こえてくる。
「昨日のミッション、あのへっぽこ剣士に美味しいとこ持ってかれたらしいぜ」
「ああ、局長の手配で待ち伏せされてたんだろ」
「完全に局長に遊ばれてたってとこかな」
その声が聞こえているのか、書類の山の向こうから立ち上る不気味なオーラを感じつつ、副隊長は天井を見て呟いた。
「隊長、おいたわしや・・・」


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