廃寺院不法占拠事件

(ニューデイズ:「狂信者の杜」より)


惑星パルムの衛星軌道上に浮かぶ、ガーディアンズコロニー。その中にあるガーディアンズの宿舎に、ある ガーディアンが住んでいた。
「ラド様〜、朝ですよ〜。起きて下さ〜い」
紫の髪をツインテールにした小柄なビーストの娘が、布団を被って寝ている住人をその上から杖でバフバフ叩 きながら言っているが・・・起きる気配は全くない
「りりなさん、手ぬるいです」
部屋に、GH414型と呼ばれるタイプの人型パートナーマシン(PM)が入ってくる
「シルフィーネさん、ラド様が起きないですぅ〜」
りりなと呼ばれた娘が杖で布団を叩きつつふりかえる。
「シルフィで結構と言ってますのに・・・」
「でもでも、私は押しかけですから〜」
     ボカッ
『あ・・・』
杖が布団ではなく、その中を直撃したようで、中からうめき声が聞こえる
「りぃ〜、叩くことな・・・」
起き上がり、文句を言おうとした青髪の男の喉元にダブルセイバーが突きつけられる
「朝です、ラドルス様」
ダブルセイバーを突きつけたままのシルフィーネの呟きに、ラドルスと呼ばれたガーディアンは何も言えなか ったが・・・
「あ、そうかぁ。布団でなく、頭を叩けばいいんですね。明日からそうします」
「勘弁してくれ・・・」
嬉しそうなビースト娘の言葉に今度は苦笑するしかなかった。



「今朝はハムづくしか・・・」
頭のコブを確認しつつ食卓につく、ラドルス
「ええ、昨日お隣さんが『貰いものなんだが、共食いはできないぜ!!』ってくれたんです」
「ははは・・・」
ハムサンドをパクつきながら、壁面のTV番組で「グラールチャンネル5」を見る。
相変わらず、イルミナスのテロ関連のニュースから番組は始まっていた。
「怖いですねぇ」
ハムサラダにサクッとフォークを刺して、レタスとハムを一緒に食べながらりりなが呟く
「ま、今回もガーディアンが直前で防いだようだけどな・・・」
「担当は黒コートさん達でしたっけ?」
「うむ、相変わらず美味しいところを全部持っていったらしい。で、今日は呼び出しが来てたな・・・この後 始末か?」
「なんか違うようですよ、ニューデイズに降りろって言われています」
「ふむん、コーヒー飲んでから行くか」
「はいですぅ」



「ふむん・・・テロはテロでも、今更ドウギ派が事を起こすとはね」
ナノトランサーに入っている武器類の確認をしつつ、ラドルスは呟いた。
「なんでも、アダーナ・デガーナを旗機にしているそうです」
同じく、杖のフォトン残量を確認しながら、りりなが応える。
ニューデイズのシコン諸島にあるタンゼ巡礼路、グラール教団の聖地へ続く道の途中にある廃寺院を、武装し たグラール教団のタカ派の一部が不法占拠したのは二日前の事、前日に潜入したチームは
「失敗しちゃいました。エッヘン」
と言って帰ってきたという。先方が警戒を強化しているのは明白である
「せめて、偵察だけで帰ってきてくれていればなぁ・・・とはいえ、行くしかないんだけどな」
「ですね。援護は任せてください」
「ああ、あてにしてる」
ソードを軽く一振りした後、ラドルスはりりなを連れて、廃寺院の扉をくぐった。



「なんなんだぁ〜、このマシンナリーの大群はぁぁぁぁぁぁぁ」
寺院内の広場を走りながらラドルスは叫んだ。寺院は迷路状になっている上に、2層構造になっており、その 複雑さを増していた。
その上層の通路からりりなが愛用の弓からフォトンの矢を放ちつつラドルスの背後に迫るマシンナリーを射抜 いていく。
「ラド様、ガンバです!!」
「こいつらは打撃が効き難いから嫌いなんだ!!ここは、りぃにおっまかせ〜・・・だ」
安全圏で声援を送る相方が攻撃しやすいように、ラドルスは上段斬りではなく、横薙ぎで敵との間合いを取る 事に専念する。ぶっちゃけ、一緒に射抜かれてはたまらない。
「こんなことなら、シルフィも連れてくるんだったぜ・・・っと」
振り向きざまに剣を振るうラドルス、その足元にフォトンの矢が刺さり、弾ける
「惜しい・・・」
「ちっと待てい!!」
「・・・こんな呟きが聞こえるなんて、ラド様耳がいいんですね〜」
「敵は、あっちだ!!」
そんなやり取りをしつつも、確実にマシンナリーを排除していく二人。そして、マシンナリーの一団が途切れ ると、目の前に教団員と思しき一団がバリケードを築き、待ち構えていた。
「・・・あんなことしてるけど?手加減しろよ」
と、ラドルスが後ろにいるりりなに言うと・・・
「ん〜、これで十分かなぁ〜?」
と、りりなは杖を一振りした。地面を3本の土煙がバリケードに向かって走って行き・・・、
教団員とバリケードを吹き飛ばした。
「くそっ、あのチビ、テクターか!!」
吹き飛ばされ、なんとか起き上がった教団員の前にソードの切っ先が突きつけられる。
「優秀な俺の相方さ、ってな訳で首謀者の所に案内してもらいましょうかね」
「くっ」
その背後で伸びた教団員を丁寧にも氷漬けにしているりりなであった。



「ここだ・・・。しかし、アダーナ・デガーナには勝てないぞ。ブヘッ」
「ぐるぐる巻きになってる状態で強がっても説得力ないって〜の」
フォトンを出さない状態のソードで後頭部を殴ったラドルス達の目の前に、転送装置がある。どうやら、お待 ちかねの様子である。
「さてっと、行きますか」
「んみゅぅ〜」
転送装置に入る二人・・・光が晴れ、視界が広がると、目の前にアガータ・デガーナが降りてくる。
「クハハハハ、よくぞここま・・・ドワァ」
スピーカで口上を述べようとした首謀者だったが、メインモニターに巨大な岩石が向かってきた為、思わず悲 鳴を上げてしまっていた。
「ディーガか・・・って、ガーディアンはどこに行った」
岩は装甲に当たって砕け散ったが、その後モニターからガーディアンの姿が消えていた。
しかも、レーダーにも何も映っていない・・・
「どこだぁ〜!!どこにいったぁ〜ガァァァディアン!!」
スピーカから流れ出る首謀者の声を聞きながら、アガータ・デガーナの真後ろで二人は黙々と自己流でアガー タ・デガーナを壊していた。
「ねぇねぇ、ラド様」
「なんだい?」
「『これ』ってガーディアンから同盟に連絡いってないんですかね?」
アガータ・デガーナの真後ろのポイントはコックピットからはレーダーにも映らない、完全な死角になってい ることはガーディアンの間では公然の秘密になっていた。
「連絡して、直されたらこういった時に対処できないだろ?」
「なるほろ・・・」
と言った所でアガータ・デガーナの動きが止まる。
「なに!?動け!!動くんだぁぁぁぁぁぁ!!」
スピーカーが首謀者の狼狽振りを伝えている中、ラドルスは装甲を伝ってコックピットへ登り、そのハッチを 開いた。
「うご・・・なに!!」
狼狽する首謀者の前で、ハンドガンとセイバーを見せながらラドルスは言った。
「一つ聞くけど、動いた際には斬られるのと撃たれるの、どっちが好みかな?」



アガータ・デガーナが無力化された途端に、どこからとなく入ってきたグラール教団に犯人達を引き渡し、ラ ドルスとりりなはニューデイズのガーディアン支部にいた。
「という訳で、アガータ・デガーナの弾幕を掻い潜り、ハッチに取り付いたって訳ですよ」
グラールチャンネル5の取材に嘘八百で応えるラドルス。
「全く、りりなさんもも大変ですね、あんなのが相方さんで」
支部の受付、シヌヌがカウンター越しにりりなに呟く
「そうでもないですよ〜。でも・・・」
「でも?」
「早くおうちに帰って、ホットミルクが飲みたいです」
「あはははは」
しかし、りりなの願いが叶うまでにはもうしばらくの時間が必要であった。


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