あるガーディアンの普通の一日 Side-R

(ニューデイズ:「緑林突破」より)


「さてっと、講習完了っと」
ニューデイズのガーディアンズ支部の前で青髪の男が両手を挙げて伸びをする。テクニックでの戦闘が中心となりがちなグラール教団員のニューマン達へ剣による近接戦闘の指南、それが今回の彼、ラドルスの任務であった。
因みに、最初これはあるビーストの女性に周ってきた任務だったのだが、
「そんなんあの暇そうな剣士にやらせろ、私は新人の面倒で忙しいんだ。もしあれが拒否したら私がぶっとばす!!」
との言葉でラドルスへ周ってきたらしい。
「正直、人に教えるのは苦手なんだけどなぁ・・・上手く教えられたかどうか・・・」
「その心配はないですね。教科書通りじゃなかった分実践的な内容だった思いますよ」
ラドルスの独り言に背後から声がかかる。振り返ると黒いキャストが立っていた。
「おっと、失礼・・・私はジェノローク、ガーディアンの生物研究部に所属している者です。ジェノと呼んでくださって結構です」
と、右手を差し出す。暫しの間の後、その手を握って挨拶に応えるラドルス。
「失礼、私は・・・って、先ほどの講習を見ていたようですから紹介は不要ですね」
そういって苦笑するラドルス。
「まぁ、そうですね。所で・・・」
「ん?」
「もしお暇でしたら、シコン諸島への同行をお願いできませんか?タンゼへ行きたいのですが・・・」
シコン諸島、多くの寺院が存在し、聖地げの巡礼者が訪れている場所である。
「と、なると・・・緑林地帯を抜ける道ですね。何かあったんですか?」
「いえ、私もそれなりに腕に覚えはあるのですが・・・タンゼへの道に原生生物が大量発生していると聞きまして・・・あなたが護衛なら心強いと思いましてね」
「なるほど」
納得し、腕を組み暫し考えるラドルス。タンゼへ行って帰ってきても、夜にはコロニーには戻れる。何かお土産でも買っていけば同居人も怒らないだろう・・・。そこまで考えて、通信機のスイッチを入れる。
「あ、シルフィか・・・ちっとタンゼまで行ってくる。シャトルで待機していてくれ」
「了解しました〜。りりなさんのご機嫌取りアイテムは選定&購入しておきますね」
「・・・それは助かる」
考えをPMに読まれて少々複雑な気分で通信機を切るラドルスであった。

原生生物の数はそれなりに多かったが、ジェノロークの戦闘力が思ったより高く、ラドルスはそれ程苦労することなく歩を進めることができていた。
「それなり・・・ね、とんだ謙遜だ・・・」
苦笑しつつ緑林地帯を抜けていくラドルスと、その後ろを歩くジェノロークの前にそれはなんの前触れもなく降りてきた。
「・・・あれ、どう思う?ジェノ殿」
「・・・テンゴウグがこんな所に?私はパルムが専門なので詳しくはないのですが、あれはこの辺にいるようなモノじゃないと記憶していますが・・・」
「あいつ、剣が効きにくくて嫌いなんだけどなぁ」
ラドルスはそう呟いてソードをしまい、小回りの効くセイバーと牽制用のハンドガンを出す。それを見てジェノロークが「ほぅ」と驚きの声を上げる。
「ラドルスさんは銃も使われるんですね」
「意外・・・ですか?」
今までも何度か聞いたことがある感想なので、少々おどけて尋ね返すラドルス。
「ええ。なんか、噂を聞いた感じではソードしか使っていないという印象がありますので」
「よく言われますよ・・・」
そのままハンドガンをテンゴウグに向けると、背中に何か乗っているのが見えた。
「・・・ポルティ?」
思わず構えたハンドガンを降ろしてしまうラドルス。よくよく見ると、何か蔦のようなものを手綱にしているようにも見えるが・・・
「・・・ポルティですね・・・しかも、あれは・・・」
「知っているんですか?」
ジェノロークがテンゴウグよりもその背に乗ったポルティを暫し凝視し・・・
「ええ、間違いありません・・・あれは『片目』と呼ばれているポルティです。」
「有名なんですか?」
言われて見れば、確かにあのポルティの左目には十字の傷が見えるが・・・
「ラフォン平原のポルティのリーダーになり損ねたポルティです。『隊長』と呼ばれるポルティとの抗争に破れ、それ以来姿を見なかったのですが・・・なぜ、ニューデイズに・・・」
独白とも問への回答とも取れる呟きの後にそのまま考え込むジェノローク。
しかし、ラフォン平原で業者が荷造り中放置していたコルトバ・フォワの箱に、匂いに釣られて入り込み、そのままニューデイズに送られた・・・なんて回答が考え込んだ程度で得られるとは思えないが・・・
「にしても、何をしているんでしょうね。あの片目とかいうポルティ」
テンゴウグの背の上でピキーと鳴いているポルティを見つめてラドルス。
「ん〜・・・『いいから、早く平原に向かって飛ぶんだ!!』と言ってます」
「・・・は?」
だらしなく口を開けたまま、ジェノロークの方を見てしまうラドルス。
「ああ、私、若干ならばラフォン平原の原生生物の言葉が分かるんですよ・・・言ってませんでしたっけ?」
言ってないと、言う代わりにブンブンと首を振るラドルス。
「平原って・・・やはりラフォン平原のことなのでしょうかねぇ・・・」
「他の星って認識なんて、やっぱり無いんでしょうね・・・」
「まぁ、ポルティですから・・・」
なんとはなしに、生暖かい眼差しでテンゴウグの上でピキ〜ピキ〜と鳴くポルティを眺めてしまう二人。
「知り合いのポルティはちゃんとシャトルに乗って移動しますけどね」
「・・・はいぃぃぃ!?」
「あ、ポルティってのはあだ名ですよ・・・って・・・」
ジェノロークの叫び声にテンゴウグは二人の存在に気付き、振り落とされまいとしがみ付く『片目』をくっつけたまま、若干飛び上がりながら襲い掛かってきた。
「くっ、こうなるのか・・・」
ハンドガンを連射するラドルス。それはテンゴグの片羽を撃ちぬき、テンゴウグはバランスを崩し、地面に落ち、『片目』はその背から振り落とされる。起き上がり、炎を吐きながら爪を振り上げるテンゴウグにラドルスのセイバーが一閃、テンゴウグは倒れたまま動かなくなった。
「ふ〜・・・」
セイバーを一振りし、一息ついたラドルスの目に、『片目』がピキ〜と泣きながらジェノロークに殴りかかっていくのが見えた。
「あぶない!!」
慌てて駆け寄るラドルスだが間に合わず、『片目』の拳がジェノロークに炸裂し・・・
「どうしました?ラドルスさん・・・おっ?」
自分の右足にチョップを叩き込んだままの姿勢で硬直した『片目』がジェノロークの視界に入る。その手は赤く腫れ上がってきており、目にはうっすらと涙のようなものが見える。
「・・・さすがにキャストは固いか・・・」
駆け寄ったまま苦笑するラドルスの前で『片目』は突然ピキ〜と鳴きながら逃げていく。
「『俺の奥義"平原の赤い雨"が効かないとはな!!覚えてろ〜』だそうですが・・・」
「あ、さいですか・・・」
「まぁ、私が処置しますよ・・・」
ジェノロークはツカツカと歩いていき、一生懸命走っている『片目』の前に回りこむと、
パンチを一撃『片目』の腹に打ち込む。気絶し倒れた『片目』を猫のようにつまむと・・・
「これは私がパルムまで連れて行きますので安心を・・・」
と、ナノトランサーから出した箱に放り込み、そのまましまう。
「では、行きましょうか・・・」
「ああ」
再びタンゼへの道を進んで行った二人は、その後何事もなくタンゼに到着したのであった。

なお、『片目』はジェノロークの手で無事ラフォン平原に放たれたという。

その夜
「・・・なぁ、りぃよ・・・」
冷凍庫を開けたままの姿勢でラドルスは硬直していた。
「なんですか?」
「冷凍庫がアイスで一杯なんだが・・・」
「ああ、入りきらなかった分はお隣さんとかに御裾分けしましたので安心してください」
「・・・」
「そういえば、今日はどうでした?」
りりなの問に我に返ったラドルスはテーブルについて、コーヒーを一口飲んでから応えた。
「ああ、なぜかポルティを見かけてね・・それがなかなか珍妙な、というか面白い行動をとっていたんだ・・・」
「へ〜、私も面白いポルティを見ました。」
「ほう、まずはそっちから聞こうか?」
「はいです、え〜っとですね・・・」

ガーディアンズ・コロニーは今日も平和であった。


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