奴の翼を撃ち抜け!!

(ニューデイズ:「凶飛獣討伐」より)


 ガーディアンズコロニー内にあるガーディアンズ本部のカウンターで青い髪を無造作に束ねたヒューマンの男がミーナと話をしていた。そして、その傍らにはビーストの娘がそのやりとりを眺めている。
「つまり、オンマゴウグがまた温泉への道に現れた・・・って訳か」
「まぁ、そんなところです。メンバーはおまかせしますので早急に対処をお願いします」
そういって、ミッション概要のデータをラドルスの端末に送信するミーナ、それを受け取って内容を再度チェックする男と、それを覗き込むビーストの娘
「ふむん・・・りぃは確定として、後2人位は欲しいな」
「当然です。まぁ、暇そうな所から声をかけていきますか?」
「だな・・・、ほんじゃミーナ殿、ちっと行って来るよ」
そう呟きながら本部を出て行く青髪のヒューマン、ラドルスと、ビーストの娘、りりなの背にミーナがいつもの言葉を投げかける
「星霊の導きがありますように!」

「さてっと・・・あいつは空を飛ぶからな・・・遠距離攻撃もできる人を連れて行くか」
と、ラドルスはガーディアンズ本部の一角にあるエリアに向かう。黒コート愛好会本部と呼ばれているそこの入り口には、その組織名の通り、黒いコートを着た男が守衛に立っているが、ラドルスの要請に応じ、道を譲る。
「局長は奥かな?」
「はい、在室されております」
「ありがとさん」
片手を挙げて通路を進むラドルスの後ろをテテテっとついて行くりりな。勝手知ったるなんとやらで、迷わず局長室の前に辿り着いたラドルスとりりなの視界には、立て札のついた大きな犬小屋が入った。
「ん〜っと、『この者、副長の目前でアギト・エッジを取得した罰として、この小屋で3日間滞在とする レニオス』・・・ですか」
立て札を読んでふと小屋の中を見ると、二人の見知ったビーストの男が膝を抱えて座っていた。
「・・・お前さん、またやらかしたのか」
りりなと共に小屋を覗き込んだラドルスが中の男に呟く、その声に男は顔をあげ、
「またって・・・ナノトランサーの分配機能の妙って奴なんですよ?」
ガーディアンの持つナノトランサーの機能に、分配機能と呼ばれる物がある。これはミッション中に取得した合成用基板データや素材等をある設定条件の下で参加者の誰かに自動分配する機能で、俗に言う「レア物」を巡ってのパーティ内での諍いを回避を目的としたものである。が、黒コート愛好会副長ゼロはランダムであるはずのその分配でなぜか、レア物を超高確率でゲットする為に『総取王』の二つ名を持っていた。因みに、それを広めたのはミッションの度に根こそぎレア物を持っていかれたラドルスとの噂がある・・・。
「まぁ、運がなかったんだな・・・」
「まぁ、なんだか慣れてきたので、我慢しますよ」
と、男が呟いた時に光が顔を照らし、マジックペンらしきもので両の頬にヒゲが3本書かれているのがりりなには見えた。
「・・・犬・・・ですね・・・似合ってますよ〜」
「・・・ワン・・・嬉しくない・・・」
と再度膝を抱えて顔を沈める男にラドルスは肩をすくめてから、局長室のドアをノックする。その音の後「開いてるぞ〜」との声が聞こえ、二人は中に入る。
「なんだ、ラドか・・・番犬が吼えないから身内の誰かかと思ったぞ」
部屋の主は飲んでいた紅茶のカップを置いて、片手を挙げて挨拶する。
「で、なんの用だ?」
「いや、オンマ退治にいくんでね・・・レニしゃとゼロにゃに協力を・・・」
「だが、断る」
レニオスのスマイル100%での回答に、一瞬流れる沈黙・・・
「まぁ、ゼロの奴は好きに使っていいぞ・・・今はコロニーの別宅にいる」
黙ったまま睨むラドルスの視線を頬に受けながら、レニオスはそういって紅茶を一口・・・
「了解・・・じゃ、ゼロにゃをちっとかりるぞ・・・」
と、振り返り部屋を出て行くラドルス達にレニオスが呟く、
「まぁ、今はちっと忙しそうだけどな・・・」
が、その言葉はラドルス達の耳には入らなかった。

ガーディアンズ・コロニー内の居住区画内にあるガーディアン宿舎の一角、ゼロの別宅のチャイムを鳴らそうとドアの前に立ったラドルスだったが、宿舎のドアが半開きになっているのに気付いた。
「ん?無用心だな・・・」
「ですね〜、ちょっと様子を見てきます」
ラドルスは一瞬制止しようと思ったが、りりながそのまま入ってしまったので、仕方なく「ゼロ〜、入るぞ~」と小声で言ってからその後についていく。玄関の先がすぐ居間になっており、その入口でりりなが立ちすくんでいた。
「何やってるんだ?りぃ」
と、廊下から居間を覗き込んだラドルス。そこには、二人の女性が向かい合って立っており、その間にゼロが正座で座っていた。
『・・・』
なんとなく状況が分かったが、対応に困りそのまま立ちすくむ二人に女性の一人が気付く・・・
「また新しい女!?」
「あ・・・いや・・・そのビーストの娘は、後ろにいるヒューマンの相方で・・・」
正座したまま、ゼロがラドルスを顎で示して説明すると・・・
「ビーストの娘を連れた、青髪の・・・ああ、ゼロがいつも言ってたロリコン剣士・・・」
もう一人の女性がそう呟いた時、りりなの横を風が通り過ぎる。そして、りりなの視界の先でラドルスがゼロの襟元と掴んで持ち上げてた。
「さぁ〜って、このお嬢さん方に普段どういった話をしているのか、聞かせて貰おうか?」
「・・・す、少し脚色はあったかもしれないけど、真実を・・・」
「ほぉ〜」
ゼロの回答に目を細め、ゆっくりとゼロを床に降ろすラドルス。そのまま無言で自分の端末を操作し始める。
「何をしているんですか、ラド様?」
りりなが暫くその作業を見つめていると、ゼロの部屋にあるプリンタから、何かを印刷した紙が2枚、吐き出される。ラドルスはそれを取り、女性二人に手渡す。
「ほい、俺が知っている範囲内ですが、この男の女性交際記録です。後はお好きにどうぞ・・・。それでは、いくぞ、りぃ」
「はいです〜」
そのデータを見て硬直している女性とゼロを置いてラドルス達は部屋を出た。
この後、紅茶を飲みながら午後の一時を過ごしていたレニオスが、両の頬に赤い手形をつけ、ヨロヨロと部屋に入ってきたゼロを見ることになるが、それは又別の話である。

「ん〜、ベイさんはお出かけ中ですね・・・」
パートナーカードを確認して、りりなが呟く。
「困ったね・・・こりゃ・・・、それなりに実力のあるメンバーが欲しいんだけどなぁ」
と、その横で一人のヒューマンの男が親指を立てた拳で自分を指して、笑顔で立っているが、二人は一瞬それを見て、何事もなかったかの様に通り過ぎる。
「・・・おい」
男が二人の背に向かって声をかけるが、二人は聞こえなかったかのようにそのまま歩いていく。
「お〜い」
男はそのままダッシュし、二人の前に立って片手を上げる。
「・・・オヤ、アルトクンジャナイカ、ドウシタンダ?」
「メンバー探してるようだな?俺が助っ人に入るぜ」
また親指を立てた拳で自分を指し示した男、ガーディアン機動警護部のアルトが笑顔を見せると、その唇の端から歯が「キランッ」と音を立てて光った・・・ようにりりなは一瞬勘違いした。
「いや〜、おニュ〜な専用試作武器をゲットしたもんで、使いたくてねぇ〜」
ガーディアンズの仕事は原生生物相手等で武器のデモンストレーションにはもってこいの為、各メーカが時折試供品と称した実験データ採取目的な試作武器の提供をしてくる事がある。半分ははなっから使えない代物で、残りの内の殆どが製作者の趣味が入った代物、実際商品として使えるのは更にその残りなのだが・・・時折、その趣味が入った物の中に、一部の人間にとっては使えるという代物があったりするのである。
「・・・ま、アルトが居れば力押しも効くか・・・」
呟き、アルトをパーティに入れるラドルス。
「そうと決まれば、さくっとニューデイズへ・・・見つからない内に・・・」
そそくさとPPTのゲートへ向かうアルトを見て、ラドルスは肩をすくめた
「まぁ、やっぱりそういうオチか・・・」
そして、ある人物に簡易メールを送るのであった。

惑星ニューデイズの首都、オウトク・シテイに降り立ったラドルス達。
「ラドよ、3人で行くのか?」
「ん〜、支部でも手が借りられないようだったら、それしかないかな・・・と思ってる。その場合は、りぃが弓で攻撃して俺達はその防御って事になるな」
「ガンナーが居ればなおよろしいってことか・・・」
と、アルトを先頭にガーディアンズ支部に入ると・・・
「・・・ラド様、ガンナー見っけました」
「・・・そういや、ガンナーだったな・・・この人」
「俺は見覚えないけど、誰だっけ?」
ガーディアンズ支部の入口横の椅子にヒューマンの女性が一人座って寝ていた。以前、アルトも絡んだあるミッションでラドルスと同行した女性であるが・・・
「問題は、現場まで起きてるか・・・ってことだな」
「そうですね・・・」
腕を組んで考え込むラドルスとりりなにコップを片手に支部の人間がやってくる。
「おや、彼女を連れて行ってくれるんですかね?」
「できればそうしたいとこだけど・・・」
「ならば・・・」
応えたラドルスの目の前で、支部の人は持っていたコップの中身を女性にぶちまける。
「Oh!!」
さすがに目を覚まして飛び跳ねる女性。そして、それを見る三人に気付く
「・・・って、確かラドルスさんとりりなさんと・・・かわいそうな人?」
「なんだよそりゃ!!」
突っ込みを入れるアルトを制止して、ラドルスは一歩前に出て、女性・・・セイランに事情を説明し、同行を求める。
「まぁ、今は用事もないので構いませんよ」
セイランの回答にラドルスは頷くと、彼女をパーティへと入れた。

一行は、ケゴ広場からクゴ温泉への道を原生生物を浄化しながら進んでいった。
途中、倒したゴーモンの上でポーズを取るアルトを引きずったり、眠りこけたセイランに水をかけて起こしたり。と、通常の原生生物浄化ミッションに比べて気疲れする仕事をラドルスはこなしつつ、なんとかオンマゴウグの出没すると言われている広場に辿り着いた。
「さて、俺とアルトが前で引っ掻き回すから、セイラン殿とりぃで翼への攻撃を頼む」
「OK」
「了解です〜」
「わかりました」
ラドルスの言葉に頷く3人。ラドルスがそれを確認した時、ガーディアン達の準備を待ってたかのように、オンマゴウグが飛来し、4人の目の前に着地する。
「そんじゃ、いきますか」
ソードを構えなおし、ラドルスは大地を蹴ってオンマゴウグに向かって行く。その横をアルトが見たこともないナックルをつけて並走する。その頭上をフォトンの矢が翼に向かって飛び・・・グレネードの弾がオンマの足元に着弾する
「・・・グレネード?セイラン殿、ライフルなんか・・・」
「勿論、もってないですよ〜」
立ち止まり、振り返ってのラドルスの問にグレネードを構えたまま、空いた片手を振って応えるセイラン。
「・・・ちっと、計算が狂った・・・かな・・・」
頭を一振りして、オンマゴウグの放つ火弾をかわしつつ、再度突撃するラドルス。その眼前でアルトがオンマの体にナックルを叩き込んでる。そのフォトンの色は・・・
「アルト・・・それ、火属性フォトンのナックルか?」
「おう!!俺のハート同様熱い拳って奴だ!!」
剣を叩き込んでからのラドルスの問に再度片手のナックルを叩き込んでもう片方の手を挙げて応えるアルト。
原生生物にはそれぞれ体内に強い属性フォトンがあり、それに反する属性フォトンの攻撃は強化され、同属性フォトンの攻撃は和らげられる。そして、オンマゴウグとアルトのナックルは同じ火属性であった。
「更に計算が狂った・・・かな?」
苦笑しつつも剣を叩き込むラドルス。足元付近にいる人間の攻撃に耐え切れなかったのか、オンマゴウグはその翼を広げ、大空に舞う。それを見上げ、舌打ちするラドルスの横で、アルトが不敵な笑みを浮かべ、直後その姿が消える。
「ラド様、オンマの上です!!」
りりなの声に導かれて視線を更に上空に向けると、オンマの翼を貫き、夕日をバックにボッガ・ズッバの体勢で宙を舞うアルトの姿があった。
「真上とはいえ、直線あ〜んど、射程内なら・・・俺のズッバが貫けない道理はないぜ!!」
空中で叫んだ直後、アルトの体はニューデイズの重力に引かれ始める。
「・・・しまったな・・・着地の事まで考えてなかったぜ!!」
落ちてくるアルトを見て、慌てて着地点に向かおうとしたラドルスであったが、先に翼を打ち抜かれたオンマゴウグの巨体が目の前に落ちてくる。衝撃に備え立ち止まるラドルス。
「アルトぉ〜!!」
着地点にいるオンマに遮られ、思わず叫ぶラドルス。
「はいよぉ〜」
空中からその叫びに応えつつ・・・
「できるかな・・・っと」
真下にいるオンマゴウグにぶつかる瞬間、再度ボッガ・ズッバを放つ。衝撃が反動となり、オンマの横に飛ばされるアルトだったが、最初の落下の衝撃の大半は打ち消され、腰を打った程度ですむ。
「よぉ〜し!!」
それを見届けたラドルスは翼の修復に入っているオンマゴウグに向かって剣を振り上げる。りりなが弓を放ち、セイランがグレネードを撃ち・・・それが突然止む。ラドルスがふと見るとなぜか倒れているセイラン・・・。寝たようには見えないが、他に倒れている理由が思いつかず、とりあえず再度飛ばれる前に決着をつけようと剣を叩き込むラドルス。
そんな中、オンマゴウグは翼の修復を終え、再び飛ぼうとしたが・・・
「させるかぁ!!」
ラドルスの一撃が止めとなり、オンマゴウグはその両手を幾度が大きく振り回した後、巨体を地面に倒れこませたまま動かなくなった。

「はい、ご主人・・・きりきり歩く〜」
「ラドぉ〜この裏切り者ぉ〜」
オウトクシティのガーディアンズ支部内、ラドルスの連絡でやってきたレインに縛り上げられ、引っ張られていくアルトが恨めしそうにラドルスを見るが・・・
「内緒にしてくれ、なんて言われてないものぉ〜」
と、ラドルスはそっぽをむいて、セイランを介抱しているりりなを横目に見ている。
「・・・ダメージ反射のあるボンマ・ドゥランガを連射なんて聞いたことないぜ・・・」
自爆&どこでも爆睡とは、倒れているのが好きな人だなぁ〜と、段々小さくなっていくアルトの叫びを聞き流しながらラドルスは思うのであった。
 なお、ラドルスとりりなが宿舎に帰えった際に、隣の宿舎の玄関前の木に筒状に丸められ、縛られた布団がぶら下げられていたが、二人は特に気にせず自分達の宿舎に入ったという。
 因みに、隣に住んでいるのはアルトとレインである・・・


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