黒ラッピー狂詩曲

(ニューデイズ:「密林の侵入作戦」より)


 ガーディアンズ・コロニーにあるガーディアンズ本部の会議室にて、ネーヴは一人のガーディアンに対してミッションの説明を行っていた。
「と、いう訳で以前立て篭もりがあった廃寺院に再度残党が立て篭もってな、今度は入口をしっかり固めておっての、これを破るのはちと骨が折れそうなんじゃ」
ネーヴの操作で中央のディスプレイに廃寺院入口の様子が映し出される。「LIVE」との表示があるその映像をみる限り、入口からの突破にはそれなりの人員と時間が必要なのが彼にはわかった。
「これを、我らに突破せよ・・・と?」
映像を見て彼はネーヴに尋ねる。それが肯定された場合は断るつもりであったが・・・
「いや、正門方面は別に鎮圧部隊を編成しておっての、お主等にやってほしいのは・・・」
そういって、ネーヴは画面にある場所の地図を表示させた。

「・・・強行偵察任務・・・ですか」
椅子に逆向きに座り背もたれを抱きかかえ、顎を乗せながらジャバウォックが自分達のリーダーのミッション説明を繰り返した。
「ああ、正面入口はとても入れたもんじゃないが、実は裏口があってだな。そっちが入れるか偵察、状況次第ではそこから突入して、中の元教団員を拘束、または殲滅しろとのことだ。」
黒コート愛好会本部の会議室、そこでホワイトボードに略図を描きながらレニオスがミッションの説明を続ける。と、
「正面は入れたもんじゃないって・・・全員でもだめってことか?」
「肯定、そうだなぁ・・・ルミルミとテンテ〜、剣士とその飼い猫、あとリック・・・その辺が一斉に本気モードで突撃して、逃げ帰ってくる位と俺は見たが?」
「ああ、そりゃ駄目だ。突破は出来るけど、被害が洒落にならないな」
副長ゼロの問へのレニオスの回答に、ジャバウォックが両手を挙げて呟く。
「そういうことだ。最近はなんかキナ臭い雰囲気なんでな、人的被害は抑えたいのが本音だ。設営班は30分後に先行出発して、タンゼ巡礼路に本陣作成。本隊は2時間後に出発する。それで、偵察任務の詳細だが・・・」
「うふふふふ、聞いたぴよ聞いたぴよよぉ・・・」
レニオスが話を続けようとしたとき、背後にツツツッっと紫色のラッピーが横からスライドしてくる。
「偵察任務にお勧めの装備を持ってきたぴよ・・・」
紫のラッピーはそう言ってナノトランサーからその「お勧めの装備」を出す。それを見つめてレニオスは紫のラッピーを細めで睨む。
「・・・な、何かご不満な点でもあるぴよ?」
紫ラッピーはその視線にたじろぎつつもレニオスに問いかけると・・・レニオスはそれをビシッっと指差して呟く。
「これ、・・・黒くないじゃないか・・・」
「びよっ!?」
1時間後、偶然ニューデイズ行きのPPTステーション近くのカフェで、のんびりとコーヒーを飲んでいた青髪の青年ヒューマンは、怪しげな黒いラッピーの集団を目撃し、飲んでいたコーヒーを吹き出して、相方のビーストの少女に怒られるのであった。

 聖地エガムからタンゼ巡礼路を戻る途中のわき道前に設置された本陣と呼ばれるテント、その中でレニオスは会員達を振り分けてそれぞれの配置を済ませる。
「さて、俺はここで紅茶を・・・」
と、ティーカップを取り出した所で、アラームが鳴る。ゼロが立ち上がり通信機のスイッチを入れると・・・
「罠が罠がぁぁぁぁぁ!!」
「マシンナリーが大挙してせまってきます〜!!」
「メンバーが全員凍結しました〜!!おっと、こっちにもバー・・・」
「なんで、こんなところにカ・・・・」
「カマが、カマトウズが追って・・・(プチッ)」
等々、立て続けに悲鳴が聞こえ、そのまま通信が切れる。ティーカップを持ったままレニオスの動きがしばし止まり。その後、指折り悲鳴の数を数え・・・
「・・・全滅・・・か?」
レニオスの呟きに頷くゼロ。
「・・・で、どします?」
ジャバウォックがティーポットを持ったまま尋ねる。
「う〜む、3つ程案があるが・・・」
「3つ?」
「ああ。その1.このまま帰る。その2.ジャバが単独強行偵察に行く。その3.俺達3人で偵察に出る」
レニオスの言葉に暫しの沈黙・・・そして、
『2だな』
「3!!」
レニオスとゼロの呟きがジャバウォックの魂の叫びにかき消される。
『ちっ』
「『ちっ』・・・じゃなぁぁぁぁぁぁい!!」
「しゃーない、行くか・・・」
ゼロがセイバーを取り出して、椅子を立った。因みに、3人ともラッピーのままである。

「マシンナリーがいるってことは、ここもばれてるってことかな?」
セイバーで敵をなぎ払いながらゼロ。
「かもしれませんな・・・」
ソードをぶんまわしてジャバウォック。
「ま、元々強行突破前提だったんだ」
後方で紅茶の缶を傾けつつレニオス。
・・・
「おっさん、働け」
「ハハハハハ、ご冗談を・・・」
ジャバの突っ込みを微笑みで返すレニオス。その脇でゼロがトラップを仕掛け、マシンナリーを氷漬けにする。
「ナイスだゼロにゃん!!」
そのままその氷像の脇を通り抜けると、木のトンネルがあり、それを抜けると。灯篭が立ち並ぶ広場に出た。
「ここがラストのようですけど」
広場の入り口、トンネルの壁の影に隠れながらジャバウォック。
「なんだが・・・一つ気になる点があるな」
「というと?」
罠の残数を確認しながら、ゼロがレニオスの呟きにあいの手を入れる。
「先行部隊が誰もいない・・・とっつかまったか?」
「強制転送装置でエガムって訳でもなさそうだし、そういうことになるかな?」
ガーディアンズの基本装備には着用者の生命反応が著しく低下すると、短距離ではあるが至近の中継地点までの転送を行う機能がある。が、これが発動していた場合は、レニオスにはそれが分かるようになっている以上、理屈的には先行部隊はこの周囲に倒れているにしてもいなくてはならないのである。
「ふむん、ジャバ・・・」
「はいな?」
レニオスが片手を顎に手を置きながら、もう片手で広場の中心を指差し
「俺達が援護するから、あの中央までダッシュしてみてくれないか?」
「・・・拒否権はあるんでしょうか?」
『ない』
レニオスとゼロの言葉に、諦めの溜息をつきソードを構えなおすジャバウォック。そして・・・
「しゃーない!!突撃ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
雄叫びと共に広場へ駆け出す。と、地中から十体程のマシンナリーが姿を現す。
「そんなこったろうと、思ったぜ!!」
最初はソードで手前の敵から叩き斬り、間合いを詰められた所から両手にセイバーを持ち、左右同時に敵を斬っていくジャバウォック。その後方では・・・
「がんばれ〜」
「まけるな〜」
レニオスとゼロが半分棒読みで声援を送っている。ジャバウォクはそれに突っ込みを入れたかったが正直な所周囲のマシンナリーがそんな余裕をくれなかった為、ただ、無言で敵を倒していった。そして、最後のマシンナリーを切り倒し、やっと突っ込みを・・・と思い振り返ると・・・そこにはこちらへダッシュをかける二人の姿があった。
「ほへ?」
なんだ?と思ったジャバウォックの背後から、何か巨大な物体が落ちた音がする。振り返ると、そこには巨大な人型の原生生物―カガシバリ―が立っており。ジャバウォックに向かってその太い腕を振り上げていた。それをバックステップでかわすジャバウォック。そして、腕が振り下ろされた直後にその背中をレニオスがダブルセイバーで斬り付け、ゼロのものであろフォトンの矢が顔に当たる。が・・・
「って、局長のその剣、副長の矢・・・闇フォトンじゃね?」
『・・・オットシッパイシタゼ』
カガジバリは攻撃を受けるとそのフォトン属性の攻撃をそのまま返す習性を持っている。この場合は闇属性の攻撃をしてくるのだが、その攻撃は一撃で生命力の大半を奪う効果のあるメギドと呼ばれるテクニック攻撃なのである。
「大丈夫だ、全部避ければ問題はない!!」
メギドの届かない距離から弓を構えつつゼロが無責任な声援を飛ばす。そして、その脇へ走っていくレニオスの姿が・・・
「あんたら、その内天誅がおちるぞぉぉぉぉぉ」
悲鳴をあげながらも、しっかりカガジバリのメギド攻撃をかわし、確実にセイバーでダメージを与えていくジャバウォックに後方で二人は垂直にあげた掌を左右に振りながら、
『ナイナイ』
と、答えていた。

 カガジバリを倒した後、本来ならこのミッションの〆であるはずのアダーナ・デガーナはジャバウォックの「もうどうにでもなれな突撃攻撃(ゼロ命名)」の前になす術もなく破壊され、レニオス達の後方霍乱に乗じて、正面から突撃を行ったガーディアンズの鎮圧部隊によって立て篭もっていた元教団員は全員、殲滅あるいは拘束された。
そんな中、レニオス達は地下の大部屋に拘束されていた黒いラッピーの集団を発見、全員の無事を確認し、本陣へと戻るのであった。

 数日後・・・ガーディアンズ・コロニー
「ふ〜、やれやれ・・・終わった終わった」
今回の一同の醜態に呆れ果てたと言うレニオスによって、暫くニューデイズに駐留していたジャバウォックは、やっと戻す事ができた着慣れた黒コート姿でコロニー内を歩いていると、見知ったキャスト娘とニューマン娘のコンビがオープンカフェのテーブルに新聞を広げて何か相談をしていた。
「おや、ルミナスさんとテンテ〜ではないですか」
「テンテ〜じゃないから・・・」
半ば、定番挨拶のやり取りの後、ジャバウォックはテーブルの新聞に気付いた。
「で・・・何を見ているんです?」
「いやね。なんでエガムとタンゼの間で新種のラッピーが目撃されたっていうから、ちょっと探しにいこうかな〜って」
と、ルミナスが示したそこには、通常のラッピーよりも大きく、『黒い』ラッピーが何度か目撃されているということで、それはSEEDの影響なのか?といった内容の記事であった。
「・・・黒いラッピーねぇ〜」
ジャバウォックは真実を伝えるべきか暫し考える。現在も行われている、レニオスの「おしおき」と称した特別訓練がどうやら勘違いされているらしい・・・。
「ほぉ〜、黒いラッピーか・・・」
と、横にいつの間にかレニオスが立っている。そして・・・
「俺もこないだ、それらしいのを見たなぁ・・・たしか、ポイント・・・」
何も言えないジャバウォックの横でレニオスが「訓練地」のかなり正確な座標をルミナス達に伝える。
「へぇ〜、行ってみるね。ありがとうレニオス」
「いや、なになに・・・」
そういって、片手を上げて去っていくレニオスをジャバウォックはただ黙って見送るしかなかった。

 後日、ラッピー姿で強化訓練を行っていた黒コート愛好会の訓練地にガーディアンに大挙して押し寄せ、「実戦さながらの模擬戦(レニオス談)」が行われたという・・・


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