黒コート愛好会騒動記

(オリジナル)


 黒コート愛好会、ガーディアンズ起動警護部のレニオスを長とした集団で、男性ガーディアンズのみで構成されているがその正確な構成人数は不明、ただ、その殲滅能力の為に侵食された原生生物やSEEDフォームの大規模浄化等、大規模かつ広範囲な作戦展開が必要な場合に動員されることが多い。
そんな黒コート愛好会の突撃隊長兼一番隊隊長、ビーストの戦士ジャバウォックが黒コート愛好会本部内(ガーディアンズ本部の一角に存在)にある局長レニオスの部屋に呼ばれたのはある夏の日の午後であった。
「ジュバウォック、入ります!!」
ドアを開け、一礼するジャバウォックが見たのはなぜか下げきられたブラインドを人差し指一本で隙間をつくり、そこから半身で外を眺めているレニオスであった。
「ああ、ジャバか・・・まぁ、座れ・・・」
再度一礼して勧められたソファに座るジャバウォック。レニオスもその正面に座り、ティーポットから紅茶を自分の分だけカップに入れる。
「ジャバよ・・・」
カップから一口紅茶を飲み、眼鏡越しにジャバを見る・・・。
「なんでしょうか?局長」
「黒コート愛好会、黒の掟を言ってみろ・・・」
「は、はぁ・・・」
黒コート愛好会、黒の掟・・・それは、レニオスが定めた黒コート愛好会の決まりである。

  一.黒コート脱ぐべからず
  一.副長のレア奪うべからず
  一.オフィスラブするべからず

の三カ条を基本とした決まりで、これを破った場合のお仕置きは、あるキャスト娘より恐ろしいとの評判である。
三か条を言い終えたジャバウォックをレニオスは再度一瞥し・・・
「なんで、お前は浴衣なんだ?」
そう、今のジャバウォックは浴衣を着ていた。レニオスは両手を組んでその上に顎をのせる。
「この夏の日、しかも後数日でお祭りだ・・・浴衣を着て過ごすのはまぁ、大目に見よう・・・。しかしだ!!なぜ黒い浴衣にせん!!」
黒い浴衣なんぞあるのだろうか・・・とジャバウォックはふと思ったが、レニオスの冷たい眼差しがその思考を中断させた。
「で、ジャバよ・・・俺も鬼でも悪魔でもない・・・選ばせてやろう」
魔人ですものね・・・という言葉を飲み込み、ジャバウォックは別の言葉を発した。
「何をでしょうか?」
「ミズラキ保護区のてっぺん、オウトク山の支天閣、パルムのフォランの滝、ガーディアンズ・コロニー宇宙船ドック・・・」
一箇所毎に指を立てて、それが4本になった所でレニオスは最後にこういった・・・
「ワイヤー無しバンジーをするとしたら・・・お前、どこがいい?」
その、数分後・・・
「ジャバウォックが逃げたぞぉ〜!!」
黒コート愛好会本部に警報が鳴り響いた。

ガーディアンズ・コロニー、クライズ・シティの第四層をジャバウォックが走っていると、目の前を見知ったキャスト、オクリオル・ベイが歩いていた。
「おや、ジャバさんじゃないですか?トレーニングですか?」
「ベ、ベイさん・・・どっか、身を隠せる所知りませんか?」
肩で息をしながら、なんとかそれだけを言うジャバウォック・・・
「つまり、隠密行動をとりたい・・・と?」
「そんなところですが・・・」
「まかせなさい!!」
そう言ってオクリオル・ベイがくるっと回転すると、そこには紫の巨大ラッピーがいた。
(オクリオル・ベイはコンマ03秒でラッピー・ベイになれるのである!!)
「・・・」
呆然とするジャバウォクの肩にラッピー・ベイはポンッと手を置くと、コマの様にジャバの体を回した。すると、そこには黄色のラッピー着ぐるみを装着したジャバウォックがいた・・・
「このように、ラッピー姿になれば、誰もジャバさんとは思いませんぴよ」
と、ラッピー・ベイが親指を立ててウィンクした時・・・
「そこの怪しいラッピー!!やっぱり、ジャバウォックだ!!」
黒コートを着た数人の男がジャバウォックを見つけて走ってくる。
「これを一目で見破るとは・・・彼らは只者じゃないぴよ」
「う〜そ〜つ〜き〜!!」
一人感心するラッピー・ベイを他所に、ジャバウォックは着ぐるみを脱いで走り出した。

クライズ・シティ3層を走っていると、通気ダクトの一つの蓋がずれていることに気付いた。
「よしっ、ここなら・・・」
左右を見ながら安全を確認して、蓋を開けると・・・先客がいた・・・
「よう、ジャバじゃないか・・・」
先客・・・アルトが片手をあげて挨拶する。
「何やってるんです?」
「あはは、家庭の事情ってやつだ・・・」
と、苦笑するアルトの顔がジャバの肩辺りを見たまま青くなる。ジャバがそれに気付きふり返ると・・・
「ごしゅじん、みぃ〜つけたぁ〜」
レインがロープを手に薄ら笑いを浮かべて立っていた。呆然とするジャバウォックの前でレインはアルトをぐるぐる巻きにすると、そのまま引きずっていく・・・が、ふと立ち止まって振り返る。
「あ、そうだ・・・ジャバさんにも用事があったんだ・・・」
「用事?」
怪訝な顔をするジャバウォックの前で、レインは大きく息を吸い込み・・・
「ジャバウォックさんは、こぉ〜こぉ〜でぇ〜すっよぉぉぉぉぉぉ!!」
大声で上に向かって叫ぶレイン・・・
「どわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
迫り来る気配を感じ、ジャバウォックは再び走り出した。

再び、第四層・・・
「ぜぇぜぇ・・・、やはりPPTは封鎖されているか・・・」
物陰から、3惑星行きのステーションを伺うジャバウォックだが、どこのポートも黒コートの男が数人立っている。
「ん?待てよ・・・」
ふと思い立って、ジャバウォックはパルム便の荷物集積場へ向かう。と、そこに見知ったビーストの娘、りりなの姿があった。
「ん?りりなさんじゃないですか・・・」
「ふぁ・・・げてもの、じゃなかった、けだものさんだぁ〜こんにちは〜」
ジャバウォックは無邪気にとんでもない物言いをして、ペコリをお辞儀するビースト娘の頭を一発こづきたい衝動にかられたが、脳裏を青い髪をなびかせた男の後ろ姿が横切り、思いとどまる。この娘を叩いたところなんかを見付けられた日には、運が良くても3枚におろされ、下手すれば17分割にされてしまう・・・
「で、りりなさんはここで何を?」
「パルムから届いたアイスを受け取りにきたんです〜」
にっこりを笑うりりなの横に、クール便用のダン・ボウルが次々と出されていく。それが10箱を越えた辺りで、ジャバウォックは背後に気配を感じ、あわてて、そのダン・ボウルの山の影に隠れた。
「ほえ?」
「黒コートの連中に俺のことを聞かれても、知らない振りをしてくれないか・・・」
「わかったです〜」
怪訝な顔をするりりなに、小声で嘆願するジャバウォク。そこへ・・・
「おや、りりなさん・・・荷物でも受け取りにきたのかな?」
「おおぉ、総取りゼロにゃだ、こんにちは〜」
そんなやりとりにアイスの箱の冷気以外の理由で青ざめるジャバウォック・・・
「ところで、りりなさん。うちのジャバウォックを見かけなかったかな?」
「けだものさんですか?ん〜っと・・・」
箱の陰で両手を合わせ、「神様、仏様、りりな様〜」と祈るジャバウォック、しかし・・・
「正直に答えてくれたら、カフェでバニラアイス驕ってあげるよ」
「そこの箱の陰で今さっき見ましたです!!」
ゼロの言葉に、即答で後ろを指差すりりな・・・
「こんだけ買っておいても、カフェのアイスにつられるのか、お前はぁ!!」
思わず立ち上がって、突っ込みを入れるジャバウォック。が、一瞬ゼロと目が合った後、一目散に逃げ出したのであった。

クライズ・シティ第一層・・・
ガーディアンズ宿舎の自分の部屋でコーヒーを飲んでいたラドルスはチャイムの音で玄関に向かった。カメラは見知ったビーストの男を写している。
「おう、ジャバが尋ねてくるなんて珍しいな・・・」
「いやぁ、ちょっと通りかかったんでね・・・いいですかな?」
噴水広場で買ったたいやきの袋を見せて、少々ひきつった笑みを浮かべるジャバウォック。正直、誰かに見られる前に入りたいのである。
「ああ、ちょっとりぃは出かけているが、どうぞ」
知っているよ・・・と口の中で呟いて、ジャバウォックはラドルスの招きで宿舎に入る。そのまま中に入ると、銀色の巨大な箱が置いてある。
「剣士殿、これは?」
「ああ、りぃのアイス専用冷凍庫だ。思い切って業務用の奴を買ってみた。なにせ、あいつがアイスを買ってくるたびに、冷凍庫に何も入れられなくなるんだからね・・・」
苦笑しつつ、ジャバウォックの前にコーヒーを出し、自分も座ってコーヒーを飲む。
「それは大変ですなぁ〜」
と、ジャバウォックがカップに口をつけた時、チャイムが鳴る。ラドルスがカメラの映像を映し出すと、ゼロの姿がそこに映し出された。
「げ、ばれた・・・」
思わず呟いたジャバウォックの言葉に「ほぅ」と呟き目を細めるラドルス。
「黒コートでトラブルって所か・・・」
「まぁ、そんなとこですが・・・、できれば、匿ってほしいなぁ〜なんて思うわけで・・・」
「ああ、かまわへんよ」
「へ?」
あっさりと承諾を得られて、逆に戸惑うジャバウォック。が、ラドルスは悪戯を思いついた子供の様な顔になっている。
「それで、レニしゃとゼロにゃが困るんだ・・・面白いじゃないか、まぁ、まかせておけって。隣の部屋にそいつの部品入れてた箱がある。その中にでも隠れてろ」
そこまで言って、玄関に向かうラドルス。言われた箱の中に入るジャバウォック。暫く玄関でやりとりがあった後、ラドルスはゼロを連れて、部屋に戻ってきた。
「・・・ほう、黒の掟ねぇ・・・」
「まぁ、それでジャバを探している訳で・・・」
「それ、破るとどうなるの?」
「とりあえず、ジャバの場合は、紐なしバンジージャンプだそうで・・・」
「・・・それは面白そうだ・・・」
箱の中でも分かったラドルスの興味の変化にジャバウォックは硬直する。
「で、剣士殿は彼の居場所を知りませんか?」
と、何食わぬ顔で言っているゼロであったが、実はジャバウォックがラドルスの宿舎に入っていくのを見た、との証言を既に得ての行動なのである。
「まぁ、知らないけど・・・例えばの話し、あれを俺が匿っているとしたらだ・・・」
ラドルスは椅子に座り、コーヒーを二口飲んで、言葉を続ける。
「俺は人を、仲間を売るような真似はしないよ、ゼロにゃ」
ラドルスの言葉にカップを置く音が続いたが、その後は静寂が部屋を支配する。が、それを破ったのはゼロであった。
「そうそう、剣士殿にお土産があったんですよ・・・これなんですけどね」
と、ナノトランサーからコーヒーミルを一つ取り出す。
「ニュー・ウォルナで出来たコーヒーミルで・・・」
「ああ、獣ならその箱の中だ・・・」
椅子に座ったまま、後ろを親指で指し示すラドルス。
「りりなさんと同じ行動するんじゃなぁぁぁぁい!!」
箱を突き破ってラドルスを指差しながら叫ぶジャバウォック。そして、隙をついて玄関から外へ出ようとして・・・
「あ〜あ、玄関にゼロにゃがトラップ仕掛けてたのになぁ・・・」
玄関で眠っているジャバウォックを見ながら、カップを片手に呟くラドルス。
「おや、こっそり仕掛けたつもりだったんですけど・・・」
「燃焼系や凍結系だったら怒ったけどね・・・まぁ、後は好きにしてくれ」
そういってコーヒーを飲みながら。コーヒーミルを手の中で回しながら微笑んでいるラドルスを後ろに、ゼロはジャバウォックを縛り上げて連行していった。

数日後・・・
「支天閣に無断で登ろうとして、グラール教団に身柄を確保されたガーディアンズ機動警護部のジャバウォックさんが昨日釈放されました。彼は・・・」
TVのニュースを見ながらラドルスとりりなが・・・
「彼も大変だねぇ〜」
「ですねぇ〜」
そういって二人はそれぞれのカップに口をつけるのであった。


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