楽園を求める漢達

(オリジナル)


 惑星ニューデイズにあるクゴ温泉。まとまった休暇が取れたラドルス達はアルトの誘いでそこにある温泉宿「温泉屋」に来ていた。
「ほう、アルトとジャバの見立てにしてはいい感じの宿じゃないか」
「鳥さんがいっぱい鳴いているです」
山林に囲まれた静かな雰囲気の古風な宿を見上げてラドルスとりりな。
「以前、この裏の山で黒コートの訓練をやったなぁ」
レニオスの言葉に黙って頷くゼロ。
「で、思ったんだけど・・・キャストって温泉に入るんだな」
大量の荷物を背負ったまま、肩で息をしつつアルトが呟く、横には既に言葉もでないジャバウォック、因みに荷物はジャンケンで負けた結果である。
「もちろん。まぁ、そんなに長時間は入ってられませんけどね」
オクリオル・ベイの言葉にリーファが続く
「ここの温泉って美肌効果抜群なんですってね」
「わぁ、楽しみ」
リーファの言葉にはしゃぐルミナス。
だから、キャストに効果あるのか?と聞きたいのは流石にこらえて、アルトは荷物の肩紐をかけなおして、宿に入る。そしてそれに続く一行。と、最後を歩いていたレインが玄関脇の歓迎の看板を見て立ち止まっていた。

「教官、早くいくッスよ」
「温泉は逃げやせんわい」
玄関に入ったラドルス達の目の前をピンクの髪の少女とスキンヘッドの巨漢が横切っていく。遅れてニューマンの少年とやはりピンク髪の少女が歩いて行き・・・。
「ようこそ、おこしです〜」
宿の女将がやってくる。
「おう、連絡した『アルト様と愉快な下僕達』だ」
『ほぉ〜』
アルトの言葉に8人の言葉が唱和する。
「それはそれはようこそ、お部屋はえ〜っと、姫様方が「ゴウシンの間」殿方が「アギータの間」になります。ささ、こちら・・・」
と、廊下を進んでいく女将
「ゴウシン・・・」
「アギータ・・・」
『ネーミングセンスが微妙〜』といった顔で女将についていく一行。と、途中T字になっている場所に「工事中」の看板が置かれている。
「女将、これは?」
看板を指差すラドルスに
「ええ、申し訳ないですが、この先は先の騒ぎで侵食された原生生物に襲撃されましてねぇ、今修理中なんですよ。ご迷惑をおかけします」
「ほむん、ならいいんだけど」
理由は特にないのだが、妙にその廊下が気になるラドルスであった

「で、夕飯までは時間あるし、先に入っちゃう?」
ゴウシンの間でレインが荷物を開けつつリーファとルミナス、りりなを見回しながら尋ねる。
「いいですねぇ〜」
「しかし、レインさん。一つ気になるんだけど・・・」
「なに?テンテ〜」
「テンテ〜じゃないから!!というのは置いといて・・・『ここ』を手配したってのがハムとけだものってのがねぇ・・・」
「ああ、それなら平気、このメンツで覗きだなんて、あのご主人だってそこまでお馬鹿じゃないわよ」
レインの言葉にそうよねぇ〜と笑う女性陣、
「しかし、俺達は馬鹿なのさ」
ゴウシンの間のドア前で呟くアルト。脇に立つジャバウォックに向かって親指立てた拳をあげる。そのまま頷き、足音を立てないようにサササと廊下を歩いていく二人の背中をオクリオル・ベイは暫く眺め、通信機のスイッチを入れる。
「ガンナーからへ、目標が予測通りの行動を開始しました。私は予定通り位置につきます」

「皆の予想通りだな」
「まったく、分かりやすいっていうかなんというか」
レニオスの言葉に、人差し指を額にあてて応えるラドルス。アギータの間の中央、テーブルの上には周辺地図の写ったディスプレイが置かれ、そこにはオクリオル・ベイを始めとした人員の位置とターゲットの予測位置が表示されている。
「まぁ、まずは敷居を越えるって単純かつ手っ取り早い手段でくるだろうな」
テーブルの前にあぐらを書いて組んだ両手のに顎を乗せるレニオスであった。

「で、アルトよ、まずはどうする?」
男湯で仁王立ちになるアルトとジャバウォック。周囲に客は他にいない
「簡単だ、そこの壁の向こうがそのまま楽園だ」
壁の向こうからお湯の流れる音に混じって覚えのあるはしゃぎ声が聞こえる。壁はざっと3メートルといった所であるが、竹製のようで節に足をかければいけそうである。
「おっしゃ!!待ってろレイン、今行ってやるぜ!!」
壁に向かって助走をつけるアルト。しかし、その直前で何かに弾かれ、湯に落ちる。
「なに!?」
一瞬暗転しかけたアルトの視界に何か格子状の線が見えた。
「おいおい、なんでこんな所に教団の最新式防御装置が設置されているんだよ・・・」

 同時間の女湯・・・
「ねぇ、ねぇリファ」
「どしたの、ルミルミ?」
「あそこにいる方って、巫女様じゃない?前に写真で見た顔にそっくりなんだけど」
「あはは、まさかぁ〜」

 同時間のある場所・・・
「ふふふふふ、お忍びとはいえ巫女様の肌を下衆共に晒す訳にはいかん、全力で守るのだ!!」
白い星霊主服を着た男が機械の前で祈りの姿勢のまま動かないグラール教団員8人に激励を飛ばしていた。

「どうするアルト?」
「ふっ、ラティスシールドも所詮は人の作ったもの、力の一点集中で突破する!!」
と、アルトの腕にドリルナックルが装備される。と、その時アルトの頬を何かがかすめ、お湯に何かが飛び込む音がする。
「狙撃!?」
慌ててその場を離れるアルトとジャバウォック。と、元々いた場所のお湯に再び着弾が・・・
「ちっ、わざと外してやがる・・・警告ってことか!?」
「一旦ここは退いて作戦を立て直そう」
ジャバウォックの言葉に頷くアルトであった。
「ふ〜、どうやら諦めたようですね」
男湯脇の大木の枝の上でオクリオル・ベイは愛用のライフルを降ろすのであった。

 アギータの間。
「次は崖をよじ登ってってとこかな」
先ほどと同じ姿勢のまま地図を見つめるレニオス。
「そっちはゼロにゃが大張り切りしたから大丈夫でしょう」
「ふふふ」
と、お茶を飲みながら不敵な笑みをこぼすゼロであった。

 再びアルトとジャバウォック・・・
「で、なんだここは?」
「ふっ、この崖の上がそのままあの露天風呂なんだよ、アルト君」
10m程の崖を見上げてるアルトの脇で、ジャバウォックは腕を組んでフフフフフと笑うが・・・
「先約がいるぞ?」
「何!」
見ると、男が一人崖を上っているのが見える。
「どうやら、志が同じ漢がいたとみえる」
と、見ているアルトとジャバウォックの前でその男が突然凍りつき、落ちてくる。
「げっ!?ゼロにゃのトラップだ!!」
「おのれ、お見通しって訳か!!」
眼鏡をかけ、腰にタオルを巻いただけの男の氷漬けと崖を交互に見つつ、アルトとジャバウォックは次の作戦を考えていた。

「俺はアルト、こっちはジャバウォックってんだ、同志」
凍結が解除されたケタと名乗る男と宿の中を歩きつつ自己紹介をするアルト。
「しかし、次はどうする?壁はラティスシールドとスナイパー、崖にはイケメンプロトの罠・・・諦めるか?」
ジャバウォックの言葉に二人の目に殺気がこもる。
『何を言い出す!!それでも漢か!?』
「うわ!!」
「温泉!!しかも露天風呂!!どんな妨害があろうとも、女湯を見ずして帰れるか!!」
「その通りだ同志よ!!彼女達にはそれだけの魅力が十分あると教えてあげる為にも、俺はこの意思を貫き通す!!」
「しかし、後は脱衣場を抜けての正面正攻法しか・・・」
『それだ!!』
ジャバウォックの言葉に駆け出す二人、仕方なくそれを追うジャバウォック・・・女湯と書かれたのれんをくぐり、引き戸を開けようとするアルト。そこへ・・・
「PM流剣術、双剣8連撃!!一応峰撃ち・・・」
不意打ちをまともにくらってのれんを突き破り、廊下に叩き出されるアルト、ケタとジャバウォックが見ると。のれんの前にGH414型のPMがツインセイバーを構えて立っている。
「げ、シルフィーネ・・・あのへっぽこ剣士の差し金か・・・」
「知り合いか?」
「知り合いのPMだが・・・下手なガーディアンより強いぞ・・・」
ジャバウォックの言葉にただならぬ気配を感じたのか、ガーディアンの顔になるケタ。と、
「うぉぉぉぉ、負けてられるか!!」
アルトがナックルを装備し、シルフィーネに殴りかかる。
「いけ、同志よ!!後で記録映像を見せてくれ!!」
「お、おう・・・」
一瞬ためらったケタであったが、アルトの顔を見て「すまん!!」と一言、のれんをくぐる。それについていこうとジャバウォックがのれんをくぐると・・・ケタが引き戸の前で立っている。見ると、グフフと笑いナタを持ったGH414型のPMが立っている。
「く、最悪の敵だ・・・」

 同時刻、オルアカの間。
「教官、もっと丁寧にやってほしいッスよ〜」
バスタオルで髪をわしゃわしゃとされて抗議の声をあげている少女の側で、茶をすすりながら、ニューマンの少年が一人呟いた。
「アーシェラがいれば覗き対策は大丈夫かなぁ〜」

 再び、女湯入口前・・・から少し離れた廊下
「撤退だ!!相手が悪い!!」
腫れた顔で廊下を駆けていくケタを先頭にボロボロになりながら廊下を歩いていく三人。
途中でゼロとレニオスにすれ違う。
「どうした?そんなボロボロになって・・・」
「ちっと、熊と友情の確認をしていたってとこかな」
「そうか・・・」
どうみても苦しい言い訳にあっさり納得するレニオスに若干の拍子抜けをしながら、廊下を走っていくアルトであった。

 数時間後、露天風呂から一山越えた地点・・・薄暗い山道を登っていく三人。それぞれ、超望遠レンズ+暗視装置付のカメラを持っている。
「ここまでしなきゃいけないのか、俺達」
ジャバウォックの言葉に、アルトとケタが振り向く
『当然だ!!女性とは見られる事によって美しくなるもんだ!!そして、露天風呂を覗くのは漢の義務だ!!』
「そうなのか・・・?」
納得できるようなできないような二人の論理に腕を組むジャバウォック、そこへ・・・
「断じて違うと思うぞ」
ジャバウォックの聞きなれた声がし、ふと顔を上げると青髪の男が一人、剣を持って立っている。
『あ、やべぇ・・・』
「知り合いか?」
動揺するアルトとジャバウォックに怪訝な顔で尋ねるケタ。
「ああ、かなりやっかいな相手だ」
アルトの言葉にしばし考え・・・ナノトランサーからスピアを取り出すケタ。
「ここは、俺が」
「誰だか知らないけど、りぃは俺が守る」
ラドルスはそう呟き、剣を構え・・・そのままケタに上段から斬りかかる。
「クッ」
その一撃を横にしたスピアで防ぐケタ。ケタはスピアから片手を離し、なぎ払う形で間合いを取る。次の瞬間にはハンドガンを構え、そのまま数発撃ち放つ。
「くっ」
命中コースに入った2発だけを剣で防ぎ、再度斬り込むラドルス。それをスピアの穂先で受け流すケタ。
『うぉぉぉぉぉぉ!!』
雄叫びをあげつつ、更に数度打ち合う二人を背に、ジャバウォックとアルトはその場を離れる。
「今のうちに!!」
林道を抜け、途中ゼロが仕掛けたと思われるトラップゾーンを抜け、なんとか目的の場所に到着する二人。そそくさとカメラを組み立て構える。
「いざ!!神秘の園を!!」
同時にカメラを除く二人、そこには・・・
―――巨漢のスキンヘッド男が一人ポージングを決めている姿が映っていた―――
その映像に二人が悶絶している頃、
「ふっ、ラドとゼロのトラップによる誤誘導成功だな・・・」
アギータの間で一人、レニオスが呟いていた。

「いい御風呂でしたねぇ〜」
「ご飯の後、もう一回いきましょう」
大広間での食事、楽しそうに話す女性陣、黙々と食事を進めるレニオスとゼロとオクリオル・ベイ。離れた所では巨漢の男とニューマンの少年、ピンク髪の少女二人が談笑しながら食事をしている
「ところで、ハムさんとけだものはなんか気分が悪いって部屋で寝込んでるようですど・・・ラド様は?」
りりなの言葉にオクリオル・ベイが一瞬ビクッとする。
「あいつは・・・ちっと運動してくるそうだ」
レニオスの言葉にりりなはん〜と人差し指を顎に当てて暫し考え、
「その方がご飯も美味しくなるし、御風呂も気持ちいいですものね」
と、魚料理に手を出すりりなであった。

ラドルスとケタがヘトヘトになって宿に帰ってきたのは深夜の事であった。


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