魔法ビス子誕生!!

(オリジナル)


 ガーディアンズ・コロニーにあるガーディアンの宿舎の一室にて、TVを見ながら勤務明けのお茶を楽しむビーストの男がいた。
「では、本日のグラールチャンネル5はここまで、ばいば〜い」
と、人気キャスターの声の後次の番組が始まる。彼が好きな剣劇ドラマで今夜が最終回なのである。
「やっぱり、宗次朗さんはサイコ〜だなぁ〜」
と、コンソメポテトを食べつつ見ていると、やがてスタッフロールが流れ番組は終了した。
「いや〜、実に面白かった」
全話録画してあるので、後でゆっくり最初から見直そうと思いつつ腰を浮かしかけた男の目にとんでもないCMが流れた
「フカフカモコモコプリンプリ〜ン♪ソニチ規制ギリギリタッチで変身だぁ〜」
色黒のビースト男が妙に可愛い声でシャボン玉の浮ぶ背景の中クルクル周っている。アニメである
「・・・」
普段見ない時間帯が「新番組」という文字と共にテロップで表示される中、画面にはピンクのフリフリ服(470系のPMが同じ様な服を着ている)に変わったビースト男がマジカルウォンドを振り回してフォイエを放っている絵に変わる。
「新番組!!魔法ビス子・まじかるジャバ☆るん、見てくれないと齧っちゃうぞぉ〜」
そんな声がTVから流れている中、ビーストの男―機動警護部付黒コート愛好会一番隊組長ジャバウォック―は腰を少し浮かしたまま硬直していた。

 翌日、ガーディアンズコロニー内にある黒コート愛好会の本部。その中にある局長室の扉が朝一番から大きな音を立てて開いた。
「局長ぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「朝っぱらから騒々しいなジャバァ〜」
黒コート愛好会の局長レニオスは自分の席に窓の方に体を向けて座っており、そういいながら紅茶を一口飲む。
「俺様の朝の静かな一時を台無しにしたんだ。これでつまらん用件だったら、ルミルミより怖いおしおきだぞ」
そういって顔だけを動かし、扉の前のジャバウォックを横目で見る。それにたじろぎながらも勇気を振り絞って用件を述べる。
「来週より『あるアニメ』が放送されるそうですが、それに局長が関与されていると聞きました!!」
「『魔法ビス子・まじかるジャバ☆るん』のことなら、その通りだ、以上」
「以上って、局長ぉぉぉぉぉ〜」
ずっこけそうになるのをこらえて、ジャバウォックは局長の机の前まで進み、バンッとそれに両手をつく。
「一番隊組長が情けない声を出すな。そういえば、お前には見せてなかったか?」
レニオスは机の引き出しから書類の束を一束取り出し机の上に放る。それを手にとるジャバウォック。
「『魔法ビス子・まじかるジャバ☆るん』企画書?」
表紙に書いてある文字を思わず読むジャバウォック。
「最近、愛好会の資金繰りが苦しくてな、こうやって資金を稼ぐ事にしたんだ」
と、椅子を回転させて、ジャバウォックに再び背を向けつつレニオス。
「企画/製作:黒コート愛好会…、スポンサーにガーディアンズとグラール教団って…」
「ああ、主人公は普段ガーディアンズに所属ってのと、星霊の力で世の為人の為って内容でそれぞれ賛同してもらった。製作には5と6番総出でかかってもらっている」
5番組と6番組はそれぞれガーディアンズの中と外の広報活動がメインの部隊である。そういや最近見かけないな、と思いつつもジャバウォックは言葉を続ける。
「いや、そういうことでなくてですね…って、協力:ラドルス…」
ジャバウォックの脳裏に見知った剣士が舌をペロッと出して通り過ぎる。
「言いだしっぺはこいつですね!!」
「なんか、いいネタないか?と聞いたら即答してくれたぞ」
再び顔だけジャバウォックに向けるレニオス。その顔はあからさまに楽しんでいる顔であった。
「…で、これに関して、モデルになったっぽい俺に拒否権はありますかね」
無駄だと思いつつ一応尋ねてみたジャバウォックに、
「いや、拒否権はあるぞ」
思いもしなかったレニオスの言葉に顔を輝かせるジャバウォック。
「しかし、だ。つまらん用件だったペナルティとして、その権利を剥奪する。この程度で許してあげる俺様に感謝しろよ、ジャバ」
一気に谷底に落ちて沈んでいるジャバウォックを見ながら、そういってニヤリと笑うレニオスであった。

「放映自体はもう諦めたんですけど。その前に…あんなん当たりますかね?」
黒コート愛好会の食堂、副長のゼロの前でカレーにスプーンをつきたてながら呟くジャバウォック。
「いや、結構人気あるんだぞ、あれ」
「…は?『あるんだぞ』?あれって新番組じゃ・・・」
ジャバウォックの言葉に、ゼロは一度席を立ち、何か小冊子を持ってくる。見ると、それはガーディアンズの広報誌であった。
「そこに、3号前から連載してるんだ。5番隊の仕事だけどね」
「…レ、レンサイデスカ?」
ジャバウォック自身、この広報誌の存在は知っていたし、配られてもいたが、小難しい偉い方々の話しか載ってないと思っていつもそのままゴミ箱行きとなっていた。ゼロに渡されたそれをパラパラとめくると、途中に漫画が載っており、その漫画の主人公は昨夜TVで見たフリフリ服のビースト男だった。
「なんか、その外見のミスマッチさが逆に受けているらしいね」
呆然としながらもページを捲るジャバウォックにゼロがクスクスと笑いながら追い討ちをかける。
「もう、色々とどうでもよくなってきましたけど、『魔法ビス子』ってのも無理がありませんか?」
「いいんじゃないか?世の中には二十歳直前の魔法少女もいるらしいし」
「なんの事です?」
「いや、なんでもない」
と、ゼロも自分のカレーを口に運ぶ。ジャバウォックは事が自分の知らない間に進行していたことに愕然とするのであった。

「ジャバ、仕事だ」
翌日、そういってレニオスに呼び出されたジャバウォックに一枚の予定表が渡される。
「なになに?GRMデパートの屋上で握手会。オウトク山支天閣でイベント…なんですこれ?」
「そっくりさんのコスプレによる新番組プロモーションだ、そこに衣装がある」
「そっくりさんって…」
震える手で示された鞄を開けると、ピンク色の布が入っているのが見えた。
「これを、着て…人前に…デスカ?」
「給料に特別手当だすぞ?」
「いや、なんかこれやってしまうと、人としてですね…なんというか、戻れないところに堕ちそうで」
「ああ、もう堕ちてるから問題ないだろう」
しれっと答えるレニオス。そして、ジャバウォックはある意味覚悟を決めた瞬間でもあった。

 GRMデパート屋上。これまたジャバウォックの知らない間に宣伝が行われていたらしくそこには大勢の子供が待っていた。
「わ〜、本当にそっくりだ〜」
「キモ可愛いよね〜」
等と言う言葉が聞こえてきつつも、それを表情に出さずに黙々と握手をしていくジャバウォックの前に、聞き覚えのある声がする。
「んみゅぅ〜♪」
案の定、よ〜〜〜〜く見知ったビーストの娘が立っていた。周囲を見るとその保護者―今回の件の元凶の一人―が笑いをこらえながらこちらを見ている。
「・・・」
ひきつった笑顔でとりあえずビースト娘との握手をするジャバウォック。ビーストの娘はお辞儀をすると、トテテテテと、保護者の方へを走って行き、二言三言話すとこちらを見る。その顔も保護者と同様に明らかに笑いをこらえている。
「我慢我慢我慢、全てが終わったら斬りに行けばいい、全てが終わったら・・・」
自分に言い聞かせるようにブツブツ呟くジャバウォックを握手中の子供が不気味そうに見ていた。

 数日後…
「一回目の視聴率、中々だったそうだね」
黒コート愛好会の局長室、ラドルスとゼロとレニオスがお茶をしていた。
「プロモーションでは騒動があったが、それも逆に宣伝になったようだな」
「騒動ねぇ…」
GRMデパートの後に行われた支天閣に到着したジャバウォックが見たものは、話を聞きつけた大勢のガーディアンズの仲間の笑いをこらえた顔であった。とうとう耐え切れなくなったジャバウォックが大暴れした為にイベントは中止、後日代役でプロモーションは続ける事となったのである。
「で、ジャバウォックはどした?」
「イベントは無理なので、写真系に切り替えた」
しれっと答えるレニオス。後日、ピンクフリフリでひきつった笑顔のジャバウォックの写真がグラール中に配信されることになる…

 更に暫く後…
「これで、今日で悪夢も終わる…」
TVの前で呟くジャバウォック、『魔法ビス子・まじかるジャバ☆るん』は今日で最終回と聞き、まぁ最後位は見届けようとTVの前に正座で視ているジャバウォックである。番組自体も好評、劇中で使われている変身ステッキの売り上げも好評な中の最終回である。
「というか、これ…終わるのか?」
Aパートの終了時に呟くジャバウォック。あるトラブルで主人公のジャバ☆るんが魔法の力を失ったのだが、後10分前後で話が終わるとは思えないなと思っている前で…
「さぁ、この新しい力で戦うんだ」
「うん!!」
GHX005に似たマスコットキャラ(名前はピーなんとかとしかジャバウォックは覚えていない)が持ってきた新しいステッキで、まじかるジャバ☆るんが『二段階目の変身』をし、その回の敵を圧倒的な星霊の力で倒す。そして、
「来週から『魔法ビス子 まじかるジャバ☆るん・ぷりてー』が始まるよ!!」
とのテロップが画面下に流れた
「・・・」
正座のまま、上半身は顔面から床に突っ伏してジャバウォックはそのまま暫く動けなくなったのであった。



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