罠師になりたい!?
(オリジナル)
「ジャバがプロトランザーに?」
ある日の午前中、黒コート愛好会の局長室、副長ゼロが出した報告書の最後の項目にレニオスはそういって、「ほぉ」と声を上げた
「で、私がその指導に・・・」
「ほうほう、それは面白い。言うまでもないが・・・」
レニオスの言葉にゼロは苦笑しつつ肩をすくめ
「遠慮はしませんよ、フフフフフ」
局長室に不気味な笑いが響く頃、食堂では、
「ぐっ」
「隊長、どうしました?」
急に身震いしたジャバウォックに隊員がその前にコーヒーを置いて尋ねる
「いや、なんか急に寒気が・・・風邪かなぁ〜」
「隊長が風邪?どうやって?・・・いや、なんでもないです」
思わず本音が出てしまった哀れな隊員は午後ジャバウォックに訓練と称してしごかれることとなった。
数週間後のクライズシティ。とある裏路地の中の小さな広場にあるガーディアンが立っていた。時間はもうすぐ真夜中といった所で、コロニーはパルムの影に入り、周囲は人工的な明かりで微かに照らされているといったとこである。
「こんな時間に、こ〜んな裏路地に呼び出す物好きは誰だ〜?」
ガーディアン―ラドルス―は周囲を見渡しながら呟く。そのま立つ事暫し・・・、その足元に何かが転がってきて、ラドルスの足元でパタンと、音をたてる。
「ん?」
フリーズトラップ?とラドルスが思った途端、それが発動する。周囲が強烈な冷気の霧に包まれ、視界が閉ざされる。
「ふはははは!!へっぽこ剣士!!その首もらったぁぁぁぁぁぁ」
その冷気の中へ、一人の男が高笑いと共にナックルを構えて突撃していく。
ガッ
「なっ!?」
ナックルが何かに阻まれ、男は驚愕の声を上げる。冷気の霧が晴れるとラドルスがソードを構えて立っているのが見えた。そのエッジがナックルを受け止めている。
「・・・何者だお前?」
ラドルスにはマスクを被った黒ずくめの男が立っているのが見える。男は暫しナックルを打ち込んだ姿勢のまま硬直していたが、
「日頃の恨み!!ここでキル!!」
雄叫びを上げて再びその足元にフリーズトラップを配置し、それを発動させつつ、後退する。今度こそ!!と思った男であるが、冷気の霧の中からラドルスが飛び出し、男との間合いを詰める。
「!?。しまった「フリーズ/レジスト」か!!」
驚愕しつつも男はラドルスの一撃をなんとかナックルで受け流しつつ、その勢いで更に間合いを開ける事に成功する。そして、三度トラップをラドルス付近にばら撒く。しかし、今度はスタンである。
「勝った!!」
今度は確かに効果があったらしく、ラドルスは動けないようである。それを確認してから男はナックルを振り上げる。が・・・ラドルスの周囲に光フォトンの円が広がり。直後、ラドルスの剣が振り上げられる。
「はへ!?」
ソードの腹で思いっきり横殴りにされ、男は真横に吹っ飛ぶ。そして、そこへ。
「んみゅぅ〜」
ノス・ディーガが倒れた男の全弾直撃し、男は再び吹き飛ばされる。その着地点へラドルスが駆け寄り、止めを刺そうとしたが、男は今度はバーントラップをばら撒き、ラドルスの視界を遮る。
「くっ、逃がしたか・・・」
トラップによる炎が消えた頃には男の姿は消えていた。
「何者ですかね〜」
物陰に隠れていたりりながラドルスに寄り添う。
「ん〜、俺に恨み持つ輩の心当たりなんて山ほどあるからなぁ〜」
と、肩をすくめるラドルスであった。
翌日の夕刻。オウトクシティ。
「すっかり遅くなっちゃったねぇ〜」
「早く帰って夕飯にしよね」
ルミナスとリーファが買い物袋を両手に提げつつ歩いていると、路地から出てきた男が一人、目の前に立つ。
『?』
逆光で顔が良く見えないなぁ〜と二人が目を凝らしていると、男は懐から何かを取り出して足元にばら撒く。
『トラップ!?』
反射的に荷物をその場に置いて互いに左右に散る二人、しかし、男の仕掛けたフリーズトラップでルミナスが凍結してしまう。男はリーファを無視してそのままルミナスにスキップ混じりに駆け寄る。
「このまま、お持ち帰りだぜ!!ひゃっほい!!」
と、氷像に抱きつこうとした男の目の前でリーファにより凍結が解かれ・・・ルミナスは即、後方に下がり。
「やっちゃえ、バスチャン!!ジョド〜!!」
ルミナスの掛け声と共に両肩から光の塊が飛び出し、浅黒い肌の巨人の姿になる。
『ぶうぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
「ぎょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
二体の巨人に男はフルボッコにされ、最後はその一体に大きく蹴り上げられる。はるか彼方へ放物線を描いて飛んでいく物体を、ルミナスは銃の様に構えた右手の人差し指で差し、
「ばぁ〜ん」
と呟く。すると、その物体の周囲にいくつものナノトランスの穴が開き、そこから青いフォトンビームが物体を次々に貫く。物体は凍結し、そのまま水の中に沈んでいく。
「え〜っと、生きてるかなぁ〜・・・あれ」
唖然とするリーファに、ルミナスは自分に傅いている巨人の頭を撫でながら、
「さぁ〜」
とニッコリ微笑んだ。
その数週間後。黒コート愛好会の詰所。隊員たちが昨日のニュースの話をしている
「なんか、昨日はヒューガ・ライトが襲われたらしいぜ?」
「ああ、『俺が一番のモテ男になるんだぁ』って飛び掛って返り討ちにあったんだって」
「その前には局長も被害にあったらしいぜ」
「ああ、瞬殺しだったらしいぜ」
と、その後ろをジャバウォックがトボトボと通りかかる。それを見つけた副隊長が横に並んで歩きながら声をかける。
「どうしました隊長、ここんとこ傷だらけですけど」
「んわぁ〜?」
「ゼロさんのしごきは噂通りすごそうですね〜」
「ああ・・・地獄の様だ・・・」
「でも、それにめげずにがんばっている隊長はやっぱりすごいと思いますよ」
「ありがとな・・・、じゃ、ここで・・・」
「はっ、がんばってください」
トボトボヨロヨロと歩いていくジャバウォックを副隊長は敬礼で見送ったのであった。
黒コート愛好会局長室。
「で、どうだあいつは・・・。自分で設定したターゲットに惨敗中らしいじゃないか」
ゼロの提出した報告書に目を通しながら、前に座っているゼロに尋ねるレニオス。
「ははははは、自分がターゲットになった時は瞬殺しておいて」
「実戦形式の訓練をしているとは聞いていたが・・・まぁ、揉み消しておくさ」
「一勝でもしたら研修終了としたんだけどねぇ〜。というか、相手をもう少し選べばいいのに」
とゼロは呟きつつ、突然ナノトランサーから弓を出して天井に向かって4発程連射で撃ち放つ。
「ぎゃ!!」
外れかけた天井板の向こうからくぐもった声がし、なにかがドタバタと暴れる音がする。
「確かに相手を選ぶべきだろうなぁ〜」
「だよね〜」
と談笑する間も天井ではドタバタドタバタと何かが暴れている。とうとうレニオスが天井を一瞥し、
「うるさい」
一言呟きつつ、レニオスが天井にハンドガンを一発撃つと、音が静まる。
「お見事」
「そうでもないさ」
ゼロの賛辞にレニオスは肩をすくめて報告書の続きを読みはじめた。
通路で再び自分の隊長にあった副隊長はその姿に驚く
「おや、どうしたんですか隊長・・・その格好」
副隊長の声に気付かずに、埃だらけになり、袖とズボンに計4箇所の穴を開け、右頬に縦に傷をつくってトボトボと歩いていくジャバウォックであった。