アイスを買いに行こう

(パルム:「草原の支配者」より)


 惑星パルムの衛星軌道上に浮かぶガーディアンズコロニーにいつものように朝がやってきた。(朝と言っても時間的なものである)
そんなガーディアンズコロニーにある宿舎の中でビーストの娘が騒いでいた
「ラド様!!大変です!!事件です!!」
その言葉に奥から青髪の男が出てくる。まだ眠そうである
「ん〜、事件?またテロでもおきたか?」
その様子に人型パートナーマシナリーであるシルフィーネが呟く・・・
「優秀なガーディアンなら、『事件』って単語で目が覚めると思いますが・・・」
「緊急招集のコール音でも鳴れば起きるさ」
と、青髪の男、ラドルスは肩をすくめる
「でも、事件なんですよ〜」
その目の前でビーストの娘、りりながピョンピョンと跳ねながら言う
「はいはいっと、そんで事件ってなんなんだ?」
コーヒーメーカーからカップにコーヒーを注ぎながらのラドルスの問にりりなが応える
「アイスがなくなったんです!!」
カップからコーヒーが溢れた・・・



惑星パルム、ホルテスシティの東に広がるラフォン平原にラドルスは1人立っていた。
「え〜と、ここから少し歩くのか・・・車も通ってないなんて、不便と言えば不便だな」
情報端末で地図を見ながら一人呟くラドルス。
「まぁ、天気もいいし、散歩には丁度いいか・・・っと」
「まったく・・・『アイスの注文忘れちゃったんです。でも、今日はガーディアンでテクターの講義があって、それに出たいんです』ときたもんだ」
平原を歩きながら独り言をぶつブツというラドルス、傍から見ると危ない人である。
「ま、こっちもりぃに合わせて休暇取ったはいいけど暇だったからいいんだけどな・・・、第一、アイスが切れたらりぃは・・・ハァ〜」
腕を組みながら立ち止まり、前にラドルスがりぃのアイスを食べてしまった際の大暴れっぷりを思い出して溜息をつく。
「あのぉ〜、考え中の所すいません。ガーディアンの方ですよね?」
「うわぁぁぁぁ」
いきなり横から声をかけられたラドルス。そこには赤毛のキャストの娘が立っていた。
「いつからそこに」
「ついさっきからです」
全く気づかなかった。陽気が陽気とはいえ、こんなことシルフィにばれたら何言われるか・・・、肩を落とすラドルス。
「え〜っと、ガーディアンの方ですよね?」
恐る恐るといった感じで、キャストの娘は再度尋ねる。
「そう・・・だけど?」
「よかった、私ノルフェっていいます」
「ノルフェ・・・ああ、グリングリンファームの・・・」
グリングリンファーム、コルトバを中心に飼育しているパルムでも有名な牧場である。
同時に、今回のラドルスの目的地でもある。
「です。それで、お願いがあるのですが・・・」
と、ノルフェが情報端末で地図を表示し、しばらく操作をすると、平原の一点に赤い点が表示された。それを覗き込むラドルス。
「え〜っと、ガーディアンに頼みってことは厄介事かな?」
「です。実はこの赤い点のポイント、牧場の手前なんですが、ここに原生生物が陣取ってしまって」
「原生生物が?ここはガーディアンが定期的に討伐に来てると思ったけど・・・」
ラフォン平原の原生生物は比較的戦い易いため、新人ガーディアンの修練の場所として多くのガーディアンが定期的に訪れている。グリングリンファームはここ最近、観光に訪れる人も多くなってきた為、特に安全確保に力が入っていたはずである。
「いえ、普通の原生生物ならいいんですが、陣取っているのは・・・」



ラフォン平原を更に進んだ場所、林の脇にグリングリンファームへの方向を示す真新しい看板がある。そして、その周囲は焼け焦げた跡がある。
「やだやだ、悪い予感が的中ってとこだな」
焼け焦げの周囲にある窪みを見ながらラドルスは今日何度目かの溜息をつく。人間の視点では窪みにしか見えないが、もしも空を飛ぶことができれば、それが足跡というのが分かるはずである。
「まさか、ディ・ラガンがこんなとこまで降りて来てるとはね・・・」
その言葉に合わせるように、林の向こうから咆哮が聞こえた。
「・・・確定だな・・・」
ノルフェがホルテスシティとグリングリンファームの道中にある看板の整備に出かけている間に、巨大な原生生物が陣取ってしまった。
それを排除して欲しいというのが依頼であったが、巨大な原生生物とやらが、まさか草原の支配者との異名を持つディ・ラガンとは思わなかったのである。
「ラフォン平原ってことで完全に油断したなぁ」
完全に休暇のちょっとした買い物気分であった為、最低限の装備しか持ってきていないのである。
「ん〜、かといって俺がグリングリンファームにフル装備で出かけたなんて知れたら、笑いものだよなぁ」
呟きながらもナノトランサー内の装備を確認するラドルス。
「護身用のラインと念の為の一本って持ってきたこの剣でなんとかするしかないな・・・」
ナノトランサーから剣を出し、林を抜けるラドルス。その目の前に赤い巨体が現れる。向こうもラドルスに気づき、威嚇の咆哮を上げる。
「出て行けって言ってるんだろうな・・・でも、俺はディ・ラガン語は分からないて〜の!!」
ラドルスが間合いを詰める為に駆け出したその場所を、ディ・ラガンの発した炎のブレスが焼け焦がした。
懐に入り込んできた小さな生物を弾き飛ばそうと、ディ・ラガンは長い尾を大きく振るう。
それをスライディングの要領でかわしたラドルスの目には、大きく前足を上げたディ・ラガンの姿が見えた。
「うおっ!!」
体を横に転がし、ギリギリで振り下ろされた前足は回避したが、その衝撃で飛ばされるラドルス。
それでもなんとか体勢を立て直し、目の前にあるディ・ラガンの前足に剣を振り下ろす。
「一応、シルフィの自信作7本の内の一本、しかもフォトンの強化圧縮処理済みだ。効くだろう!!」
振り上げたラドルスの持つ剣が青いフォトン光を放つ。氷フォトンの刀身を持つその剣は、体に炎のフォトンを多く纏っているディ・ラガンには通常の剣よりも深い傷を負わせることができるはずである。
斬り付けられたディ・ラガンが痛みの咆哮を上げながら炎のブレスをラドルスに吹きかけるが、ラドルスはそれをサイドステップでかわしつつ、更に剣でダメージを与えていく。
「これで、止めだ!!」
動きの鈍くなったディ・ラガンへ向けて、ラドルスは剣を大上段から振り下ろした。
「まだまだ!!」
そのまま、大きく振り上げ、その剣の勢いに乗って、ラドルスは大きくジャンプし、剣を叩きつける。
その一撃でディ・ラガンのその巨体は地響きを立てて倒れ、動かなくなる。
「やれやれ・・・終わったなっと」
剣をしまい、ラドルスはノルフェの所へと向かった。



「ありがとうございました」
グリングリンファームに到着したラドルスに同行していたノルフェが礼をいう
「いやいや、ガーディアンとして、当然の事ですよ。ところで・・・」
はい?といった顔で頭を上げたノルフェにラドルスはナノトランサーから空箱を出し言った。
「これと同じアイスを買いに来たんですが、ありますか?」
「は、はぁ・・・」



「ありがとうございます。でも、こんなに沢山食べられないですよ」
講義から帰ってきたりりなは、冷蔵庫にあるアイスを見てはしゃいでいた。
「いや、いっぺんに食べろとは言わないから・・・ゆっくり食べな」
「はいです〜」
「で、ラド様一つ疑問があるんですが・・・」
りりなにはホットミルク、ラドルスにコーヒーを出しながらシルフィーネが尋ねる。
「ん?なんだ?」
「なんで、グリングリンファームへアイスを買いに行っただけなのに、あんなに泥だらけで帰って来たんです?」
「買いにいった・・・だけ・・・のはずだったんだけどねぇ〜」
「?」
呟いてテーブルに突っ伏したラドルスを不思議そうにみるシルフィーネであった。



一週間後・・・
「ラド様!!大変です!!事件です!!」
「どした、りぃ・・・」
「アイスが後一箱で終わりなんです!!」
ファミリー用のアイスの箱を抱えてりりながラドルスの部屋に入ってきた。その中身は2/3程なくなっている
「・・・俺、あの日にそれを3箱買って帰ってきて、翌日に10箱届けてもらった・・・よね・・・」
「です、です〜。でもこれがなくなったら後一箱なんですよ」
「俺的には一月分位のつもりだったんだけどなぁ・・・」
「これでも、ラド様が買ってきてくれたアイスだから大事に食べたんですよ〜」
と言ってアイスを特大スプーンですくって食べるりりな、そのスプーンは食堂等で大皿からの取り分けように使えそうなサイズである。それを唖然とした顔で見るラドルスとシルフィーネ
「・・・ラド様、提案があります」
「なんだ、シルフィ・・・」
「アイスの定期購入をした方がいいのでは?」
「俺も、それを考えてたとこだ・・・」
そんな1人と一体の前で、りりなは嬉しそうにアイスを食べていた。


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