第1章 始まりは気づかぬうちに・・・

(ストーリーモード:「仮面の少女」より)


周辺が炎に包まれている。しかし、それは実際の炎とは異なる物である・・・
「またこの夢か・・・」
突然の出来事に、逃げ惑う人々を誘導している自分がいる。
「そっちに誘導しちゃだめだ・・・」
その炎の様な物が途切れている場所がある・・・そこさえ抜ければ・・・
「駄目だ・・・そこ先には・・・」
その時、炎の壁の向こうから悲鳴が聞こえる・・・
「早く、反対方向へ誘導するんだ・・・そっちには・・・」
何事かと、壁を抜けた自分の目の前には、ヴァーラの一団が・・・
「・・・ド様、ラド様!!」
そして・・・その爪は赤く染まっていた・・・
「・・・ラド様起きて下さい!!」
・・・誰かが自分を呼んでいる

見慣れた天井が目に映る。
「大丈夫ですか、ラド様?すごくうなされていましたけど・・・」
ベットの横には紫の髪をツインテールにしたビーストの娘、りりなが自分を心配げに見ていた。
「ああ、大丈夫だよ、りぃ・・・」
そういって、ガーディアンズの機動警護部に所属しているガーディアン、ラドルスは身を起こす。青髪の剣士と呼ばれる通りの青い後ろ髪が頬を伝って流れ、顔を隠す。
「昔の夢を見ただけだ・・・」
「昔の・・・ですか?」
ラドルスをいぶかしげに見るりりな。その視線の先では強くシーツを掴む手が震えている。
「大丈夫、大丈夫だから・・・」
正直、大丈夫には見えなかったが、今はこれ以上は聞けそうにないと思ったりりなは自分の部屋へと戻るしかなかった。
そして、りりなには部屋に再び一人となったラドルスの呟きは聞こえなかった。
「もう、HIVEは無くなったんだ・・・あんなことはもう、ないんだ・・・」

「イーサン・ウェーバーさんはまだ見つからないんですね」
翌朝、TVでは逃亡中のイーサン・ウェーバーの件からニュースは始まっていた。
「ああ・・・とはいえ正直な所、俺は彼が総裁を暗殺しようとしたなんてのは、未だに信じられないけどね」
トーストを齧りつつ応えるラドルス。その一見普段と変わらない様子にりりなは内心安堵するが、口は別の件を切り出す
「そういえば、ライアさんに新人さんがつくようですよ」
「へぇ〜、あのライア殿にねぇ・・・ぶっ飛ばされなければいいんだけどな」
機動警護部内どころか、ガーディアンズにその名を轟かせている凄腕のビーストの女性ガーディアンを思い出しながら、ラドルスは呟く。りりなと組む前にはラドルスも何度か彼女と一緒に仕事をし、・・・そして数度ぶっ飛ばされている・・・。
「でも、ライアさんがつくなんて、素質ありってことなんじゃないですかね」
「かもな・・・、ところで、今日の予定は?」
「え〜っと、ニューデイズのミズラキ保護区でローグスのシャトルが目撃されたそうで、その調査です」
ラドルスの問にりりなが端末から情報を引き出して応える。
「了解っと・・・では、支度して出かけるか、りぃ」
「は〜いです」

ニューデイズのオウトクシティ、オウトク山を望む水が豊かなこの町はニューデイズの首都とグラール教団の本部を兼ねた都市である。その玄関ともいえるシャトル発着場にラドルスとりりなは降り立った。
「よう、ラドルスとりりなじゃないか」
小柄なビーストの男がラドルスに片手をあげる。
「トニオ殿か、封印装置の防衛以来かな?」
「お久しぶりです〜」
「そうだっけか・・・で、今日はどうしたんだ?」
トニオの問に今日のミッション内容を話せる範囲で話すラドルス。
「ミズラキ保護区かぁ、ついさっきライア達も向かったぜ」
「ライア殿が?」
「ああ、新人連れてたぜ・・・っと、多分あのフライヤーだ」
トニオの視線の先、フライヤーベースから、フライヤーが一機ミズラキ保護区方面に飛んでいった。それを見送る三人、やがてフライヤーが視界から消える。
「ところでトニオ殿は今何を・・・」
「ああ、トムレイン博士の護衛さぁ、まぁ何事も無く暇ったらしょーがねぇ〜けどよ」
「何かあっても困りますけどね。俺らはここらで失礼します」
「おう、がんばってこいや」
ガーディアンズ支部に向かったトニオを見送ってから、ラドルスとりりなはフライヤーベースからフライヤーでミズラキ保護区に向かったのであった。

ミズラキ保護区に到着したラドルスとりりなの前に見えたのは、荒れ果てた林であった。
「ん〜、ライア殿がやっているのは侵食調査のはずなんだが・・・」
「さっきのは原生生物との戦闘跡ですから、不思議じゃないですけどね・・・」
と言っているラドルス達の前にはマシンナリーの残骸があった。
「やっぱり、ローグスがなんかやってるっぽいな」
と、近くの岩場を見ると、焼け焦げがついている。
「トラップっぽいな・・・」
「ライアさん達でしょうか?」
「いや、どっちかというと向こうからの進入を防ぐって感じだな・・・」
と、ラドルスは顎で森の奥を示す。そちらはライア達の訓練区域のはずである。
「ローグスとライアさんが遭遇・・・ローグスはトラップを設置して、逃げようとしているってとこでしょうか?」
「そんな事だろうな・・・ローグスも運が悪い・・・」
「そうなんですか?」
「生きてればいいけどな・・・」
「ほぇ〜」
地面の足跡を見ながら、呟いて肩をすくめるラドルス。と、その時、風向きが変わりラドルスの耳に微かだが何かの音が聞こえた気がした。
「戦闘?それに聞き覚えのある声がしたような・・・」
立ち上がり周囲を見回す。その時、こんどははっきりと声が聞こえた。
「いいんだ、もういいんだイーサン!!」
女性の声である。どこかで聞いた気がする声であったが、声よりもその内容の方が衝撃であった。
「イーサンだと!?」
「あっちです」
りりなが間道を指で示す。と、そこから人影が二つ現れた。一人は、小柄なビーストの娘、もう一人は・・・
「イーサン・ウェーバー!!」
叫んだと同時にラドルスは駆け出し、間合いを詰めていた。
「くっ、ガーディアンズがまだいたのか!!」
イーサンもセイバーを抜き、ラドルスの上段からのソード受け止める。
「リィナ、先にシャトルへ!!」
「わ、わかったよ」
リィナと呼ばれたビーストの娘はそのまま森の奥へと消えていく。そして、その後をニューマン・ビースト・ヒューマンの3人組が追っていった。
「イーサン・ウェーバー、なぜあんな事をした!?」
そう叫んで、一旦間合いを取るために後ろに下がるラドルス。
「その青髪には見覚えがあるな・・・そうだ、一度カレンに紹介された事が・・・」
「合の時の英雄さんに覚えてもらっているとは光栄だが、質問にまだ答えてもらっていないぞ」
飛び込む隙を見出せず、剣を構えるしかないラドルス。りりなもその後ろで杖を構えたものの、手をだせないでいた。
「仕方なかったんだ・・・としか言えないな」
「仕方ないで総裁を暗殺するのか、お前は!!」
ソードを投げ捨て、ナノトランサーからハンドガンを出してそのまま連射する。当たればラッキー、牽制になればOKといった射撃である。が、イーサンにはその意図は見抜かれてたようである。連射が終わった時には、ラドルスの目前までイーサンは飛び込んでいた。
「くっ」
ハンドガンでイーサンのセイバーを受け止めるが、そのままハンドガンは弾かれる。その勢いを逆に利用して後方に飛び、セイバーを抜くラドルス。その空間を詰めようとしたイーサンの前を氷の塊、りりなのバータが通り過ぎる。
立ち上がり、セイバーを片手に再び斬りかかる隙をうかがうラドルス。その後方で今度は弓を構えるも、やはり撃てないでいるりりな。
と、そこへローグスのものと思わしきシャトルが上空に現れ、ラドルス達の方へ何かを撃ちこんだ
「なに!?」
「ひゃぁ〜」
撃ちこまれた弾から発生した煙に、視界を奪われる。
そして、酸素マスクを取り出し、呼吸の安全を確保しつつも煙から脱出した二人が見たのは空の彼方、既に小さな点になっているシャトルであった。
「逃がした・・・か」
「ですね。目撃されたシャトルはあれでしょうね」
「ローグスは兎も角、イーサン・ウェーバーがいるとはね・・・」
と、左腕を押さえるラドルス。ハンドガンを弾かれた時の痺れがまだ収まっていないのである。お陰でソードが持てずに、自分の間合いでの勝負ができなかった。と、そこまで考えて、ある事に思い当たる。
「あの野郎・・・記憶が微かな振りをしてたが、俺の事しっかり覚えてたな。それで、間合いを塞ぎにかかったか」
「しかも、ラド様の間合いを塞ぎつつ、私との間に常にラド様を挟んでいました」
「やれやれ・・・向こうが逃げのつもりでなかったら、やられてたな」
そんなやり取りをしている間に、シャトルであった小さな点は見えなくなっていた。

「分かった。イーサンはローグスと行動を共にしているようじゃの」
ミッションの報告書を提出しに行ったラドルスはなぜか、ネーヴの所へ回された。なにか訳ありだなと思いつつも、表面上は普段通りの報告義務を遂行する。
「正直、あれでライア殿と一戦交えた直後だったとは思いませんでした。自分の腕の未熟さを痛感します」
本人に聞いた訳ではないが、ライアも後半は防戦に回らざるをえなかったとの事である。自分が無事だったのは逆に幸運だと思うしかなかった。
「ほっほっほっ、己の未熟さを自覚するのはよい事じゃて。それを糧に精進するがよい。それとな、ラドルス」
「なんでしょう」
「イーサンの件は口外せんようにな」
「分かっています」
そのままネーヴの部屋を出て、カウンターで報告終了の旨を伝え、本部を出ようとした所でラドルスは知り合いに声を掛けられた。
「久しぶりだな、ラドルス」
「ロブリルか・・・暫くだな」
ロブリル・マナート、知り合いといっても研修時代に何度か手合わせをした程度であるが、正直な話、なぜかりりなを毛嫌いする彼をラドルスは好ましく思っていなかった。
「どうしたんだよ、今日は・・・あの獣は一緒じゃないのか?」
相変わらずだ、と思いつつもまさか本部内で揉め事を起こす訳にもいかない。
「先日の報告をしにきただけだ」
「なるほどね、こっちはアテにしてたメンツが軒並み休暇をとっちまってな、ランク落とした仕事をしているが、苦労しっぱなしさ。本部からメンバーの口利きはあったが、ヒューマン以外と組めるかってんだ」
「いつも思うんだが・・・パルム出身ってのは皆そんな考え方なのか?」
一瞬、剣を抜きたい衝動にかられたが、それを逸らす為に別の事を口にする。
「自称優等種なキャスト様の手前、内に篭っているが、同じだとおもうぜ?」
「そうか・・・俺の知るパルム出身者は皆特例だったって訳だ・・・では、失礼する」
はんっ、と鼻で笑ったロブリルに振り返ることなく、ラドルスは宿舎へと帰った。

「そういえば、最近休暇取る人が多いですね」
ロブリルの事は伏せたまま、本部での話をしたラドルスへのりりなの感想である。
「お隣のアルトさんとレインさんが婚前旅行とか言って先日から出かけてますし、それと、そうそうミツさんも先日から温泉に行くとか・・・」
「温泉ねぇ〜」
サラダをフォークでつつきながら呟く・・・
「ま、封印装置とHIVEって大きな仕事が続いたんだ、休みたくもなるさ。俺達も皆と入れ替わりて感じになるように休みとって、どっか行くか」
「んみゅぅ〜、もし希望言ってもいいのなら、ローゼノムに行ってみたいです。なんか新しいショッピングセンターが出来たそうなので」
ラドルスも数度しか行った事のない、パルムの大都市の名前を出すりりな。
「おっけ〜、ローゼノム周辺の観光スポットでも調べておくよ」
「は〜い、楽しみにしています〜」
こうして、ラドルスとりりなの一日はなごやかな雰囲気のまま終わろうとしていた・・・
しかし、長い雌伏の時を経た影が表に出ようと蠢いている事に気づいている者はグラールに全体でもまだ数える程しかいなかったのである。


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