第5章 SEEDウィルス

(ストーリーモード:オリジナル(EP2-6.5章))


  ガーディアンズコロニー内にあるホルテスシティ、その最上階にあるガーディアンズ本部内のミーティングルームにガーディアンが4人、過日の任務についての話をしていた。
画面には情報端末と思しき、卵形の機械が映っている。
「・・・つまり、これが先日の『ライア』内での同盟兵暴走とは関係は無いとの結論に達する訳が、逆にこれがなんの目的であそこに設置されていたか・・・が問題になってくる訳です。」
画面内に表示されたデータを示しながら、ルミナスは説明を続ける。
「形式から、恐らくGRM社のものと思われますが、GRM社の製品に該当する物はありませんでした。当然、あの衛星に設置された機材のリストにも該当するものはありません。」
「つまり、何者かが作戦前に設置した・・・といいたいのかの?」
上座に座っている老キャスト・・・ネーヴが口を開く。
「何者かというか、自分はGRMと思いますけどね、ネーヴ先生」
その脇に座っていたラドルスがそれに答えつつ、ネーヴの横に立つルウを見る。
「この端末に関しては既にいくつかのミッションで報告があがっています」
「やっぱりな・・・」
と、肩をすくめるラドルス。
「先日、わしもある任務に向かった際に、この端末を見ておる」
「ある任務?」
「先日の騒ぎで誘拐されたトムレイン博士の捜索じゃ」
「先生、よろしいのですか?」
ラドルスの問に素直に答えたネーヴにルウが驚きの声を上げる。
「構わん構わん、こやつらも十分事の中心に関わっておるしの。そこでじゃ・・・」
「ほらきた」
「なんじゃ?」
「空耳です」
ラドルスはネーヴから目を逸らしながらも、内心で覚悟を決めていた。
「先日、パルムの病院に移送されるはずだったヒューガが行方不明になっての」
「ヒューガって、ヒューガ・ライトですね・・・『あの』」
ルミナスが苦々しい顔で呟く。
「まぁ、なにがあったか予想はつくが、今は話を続けようかの・・・。その捜索の過程でGRMの列車に乗り込んだガーディアンがマガシを目撃しておる」
ネーヴの口調は何も変わらなかったが、『マガシ』という単語だけがラドルスの耳に大きく聞こえたような気がした。
「GRMの列車にマガシ???この件の資料として見たイルミナスの情報でもマガシの名前が出てましたが・・・」
ルミナスが疑問の声を上げる。
「うむ、エンドラム機関もイルミナスの隠れ蓑だったと言うのがこちらの結論じゃが、そこでラドルスとルミナス、それぞれに任務を頼む」
「任務?」
呟いてラドルスがネーヴに体を向きなおす。
「同行者の人選はお主らに一任する。それで、まずラドルスの方じゃが・・・」

「・・・で、この鉱山の捜索ですか」
そう言って、りりなが廃坑の入り口から中を覗き込んでいる。
「ああ、なんでもイルミナスの研究施設らしいんだが・・・」
ラインとその補助ユニットのチェックをしながらラドルス。モトゥブの廃坑の一つ、その内部の捜索が今回のラドルスに与えられた任務であった。ルミナスとリーファのチームも別の廃坑を受け持っているはずである。
「にしても、復帰早々に呼び出して悪かったな」
と、振り返った先には3人のガーディアンがそれぞれ準備をしている。
「どうせ、ラドさんは拒否権は認めてくれそうにありませんしね」
と、肩をすくめるのはラドルスの研修時代からの知り合いのミツ。
「俺達はこないだの借りを返したかったから願ったりだぜ!!」
と、親指を立てているのはアルト。その横でレインが会釈する。
「おいおい、俺を忘れてもらっては困るぜ」
ラドルスの足元から声がする。見ると小柄な緑のキャストが親指を立てている。アルトの知り合いのウーバーである。アルトを呼び出した際に一緒にいたらしくそのまま協力と称してここに来ている。ラドルスも何度か顔を合わせていたが、その色とサイズからパルムの原生生物ポルティのようだな、と初対面の時から思ってはいるが、口には出していないラドルスであった。
「ほんじゃ、いくとしますかね」
ラドルスが入り口から中に入る。明かりもないその廃構内ではラドルスの右手にあるソードのフォトン光が淡い光を放って、周囲を照らしていた。が・・・暫く進んだ所で、周囲が人工の光で照らされ、一行は広間に出た。
「こりゃ、まだ稼動中ってことか・・・」
アルトが周囲を見回して呟く。
「前にエンドラム機関の残党の対応をした事がありますが、その時の研究施設にそっくりですね」
そう言ったレインはアルトの横で情報端末で周囲の動体反応をチェックしている。今の時点では周囲に人影はない。
「でも、この扉は開きそうにないぜ」
ウーバーが奥に一つだけあった扉を調べながら一行を手招きする。確かに扉は一行が近づいても反応しなかった。周囲に端末のようなものもない。
「いきなり手詰まりか・・・ここは強行突破か?」
アルトがその右手に装備したナックルをラドルスに示す。
「・・・しかないかな・・・穏便に行きたかったんだけどな」
「それって普段は穏便に事を進めている様に聞こえちゃいますね」
ラドルスの言葉にミツが茶々を入れる。
「というか、皆さん、あっちの扉は無視ですか?」
と、りりなが右側を指差して呟く。
『扉???』
一行の声がハモるが、りりなが装着しているものに気づいて慌ててゴーグルを展開する。
『・・・』
ゴーグルごしに見えた扉のロックはかかっていなかった。

「しっかし、明かりがついていた割には誰もいないな」
ユーバーが先頭を歩きつつ左右を見渡している。通路の両脇は檻が並んでおり、中には実験用なのだろうか、各惑星の原生生物が入っている。
「所で、ラドよ」
「なんだ、アルト」
「一つ聞くのを忘れていたが、なんでここが分かったんだ?」
「ああ、先日イルミナスの内通者が捕まってな」
と、一瞬ラドルスは表情を曇らせるがそのまま言葉を続ける。
「その内の一人が逃亡・・・というかルウが泳がせたんだが・・・そいつが、この辺に逃げ込んだらしい」
「で、この廃坑を始めとして周囲の捜索って訳か」
アルトが腕を組みながらうなずく。
「正確なポイントが分からない以上、手当たりしだいって訳ですね」
レインがアルトの言葉に続く。と、一行の目の前に大きな扉が立ちふさがった。
「この大きさなら大型の原生生物も通れますね」
扉を見渡しながらミツがダガーを取り出す。ウーバーもライフルを取り出し、フォトン残量を確認している。ガーディアンとしての経験がこの扉の向こうに『なにか』がいると警告を出していた。一行の準備が整ったのを確認してりりなが扉を開け、その正面にラドルスがソードを構えて立つ・・・そこには・・・
「お前は・・・」
大部屋の中央に右腕がない、片腕の男が立っていた。ラドルスとりりなには見覚えのある男である。
「知り合いか?」
ウーバーがライフルを構えつつ顔だけをラドルスに向け尋ね、りりながそれに答える。
「先ほど話しに出ていた内通者さんです」
と、目の前で男が呻き声をあげる。怪訝に思った一行の前で男の体が膨張しだした・・・
「・・・人間が・・・SEEDフォーム化・・・ですって・・・」
レインが搾り出すように声を出した。他のメンバーは声も出ない。一行が見ている前で男は片翼のジャスナガンに変化していた。
「おいっ、まずは目前の現実を処理しようぜ!!」
叫んでウーバーがライフルを連射する。それは急所を確実に捉えていた。ジャスナガンが痛みの咆哮を上げる。その声に我に返る一行。りりなとレインが一行に能力向上のテクニックをかけ、ミツとアルト、そしてラドルスがそれぞれの得物を手に駆け出す。
「ぼ、ぼまえば・・・!!ぼまえばぁぁぁぁぁ!!」
ジャスナガンがラドルスの姿を見て今度は声を上げる。それは元の男の声であった。そして、そのまま肩翼を大きく振るう。それはラドルスを捉え、ラドルスは大きく跳ね飛ばされた。
「ラド!!」
「ラドさん!!」
ミツとアルトが叫び、全身を止める。
「大丈夫だ、一気に詰めろ!!」
胸を押さえながらラドルスは叫び、それに応えてアルトとミツはジャスナガンに攻撃を加える。しかし、ジャスナガンはそんなアルトとミツを無視し、立ち上がれないでいるラドルスに向かって歩いていった。
「ラド様!!」
りりながノス・ディーガを放ちジャスナガンの視界を塞いだ間に、レインがレスタをラドルスにかける。
「サンキュウ!!」
立ち上がったラドルスがソードを構えなおす。振り下ろされたジャスナガンの翼にある爪がそのソードに受け止められる。と、その背後でアルトがナックルでの大技の溜めを終えていた。
「くらいやがれ!!俺様の熱き拳をぉぉぉぉぉぉ!!」
アルトのボッガ・ズッバが炸裂し、ジャスナガンの巨体が床に倒れる。
「ふぅ〜、にしてもやばい誘いに乗ってしまったようだな・・・」
ウーバーがライフルを下ろしてジャスナガンに近づく。他の一行もそれにならう。と、その目前でジャスナガンの巨体が伸縮していき・・・、元の男の姿に戻った。

「ここはいったい何の施設なんだ・・・」
「全く、反吐がでるぜ・・・」
男のいた部屋は中央奥にロックのかかった扉、左右に小部屋がいくつかあり、その小部屋の内の一つをのぞいたラドルスの拳が怒りに震えた。隣に立つアルトも同様である。
「何があるんですか?」
「入るな!!」
「ふきゃ!!はいです・・・」
思わず怒鳴ってしまったラドルスに扉の前から下がるりりな。すまないと謝るラドルスの目前にあるのは、数本の液体の入ったガラスの筒と、その中に浮かぶ元は人であったであろうSEEDフォームであった。
部屋を出たラドルスの視界には反対側の部屋の探索を終えたウーバーとミツ、そしてレインの姿が見える。キャストのウーバーと部屋に入らなかった(入れさせなかった)りりな以外は顔が真っ青になっている。
「人を人為的にSEEDフォーム化させる・・・なんて事を考えるんだ、イルミナスは・・・」
「いえ、どうやらイルミナスだけではないようですよ」
と、ミツが情報端末の画面を一行に示す。そこには何かのデータが表示されていたが、ラドルスには見覚えがあった。
「これって、向こうにあったのか?ミツ」
「ええ、GRMの端末がありましてね。そこから吸い出したんです」
「それと、気になる端末がありまして・・・」
と、レインが部屋の一つを示してついて来るように促す。それについて行くと、端末があった。そこには・・・
「SEEDウィルス?」
りりなが画面に表示されている研究資料内の単語を読む。
「妙だな」
アルトもその画面を見て顎に片手を当てて呟く、レインはその側に立ち
「でしょ?ご主人」
「・・・なんでこんなもんが表示されたままに・・・。兎も角、ミツ、こいつの吸出しを頼む」
「了解です」
端末の前に立ち作業を始めるミツ。と、部屋の外にいたウーバーが警告の声をあげる
「お客さんがきたぜ!!」
ロックのかかった扉が開き、キャストが10数人入ってくる。それはラドルスが以前砂漠で見たキャストと同型であった。
「ミツの作業が終わるまでもここを防ぐぞ!!」
ラドルスがソードを出してキャストの集団に突っ込み、それにアルトが続いた。

ラドルスとアルトが中心となってキャストの一団を倒していくが、相手は後続が次々に現れた。その数にラドルスとアルトは疲労の色が隠せなくなってきていた。と、そこへウーバーが前に出てきた。
「まったく、奥の手を使うしかないな・・・」
呟いたウーバーの頭上に転送ゲートが開き、巨大な剣がその姿を見せる。それはウーバーの手の動きに合わせて動き、扉ごとキャストの一団を薙ぎ払う。剣が再び転送ゲートに消え、再び後続の現れたキャストにアルトがボッガ・ズッバで突っ込み、その姿が土煙の中に消える。
「・・・アルトぉ〜?」
ソードを構えつつ扉の前から中に呼びかけるラドルスの前に扉からアルトが走って出てくる。そのままラドルスの背中に回りこむアルト。
「ラドォ〜!!まかせた!!」
その後ろにはキャストが続いて出てくる。
「まったく、しょうがないな!!」
ソードを振るい、キャストを薙ぎ払っていくラドルス。りりなとレインがテクニックで、アルトとウーバーが射撃でそれぞれそれを援護する。と、ミツが部屋から出てきて作業の終了を一行に告げる。
「・・・撤退するぞ・・・りぃ!!」
「了解です!!」
りりなが扉に向かってノス・ディーガを放ち、ウーバーもグレネードでそれにならう。その隙をついて一行は元来た道を後退していった。

「人をSEEDフォーム化させるウィルスか、とんでもないものが出てきたの」
ガーディアンズコロニー内のミーティングルームでラドルスとネーヴ、そしてルウが廃坑内で収集した情報を検証していた。
「最初のHIVE内でも人がSEEDフォーム化したとの報告があがっています」
ルウの言葉に頷くネーヴ
「イルミナスはそれを人為的に起こす細菌兵器として開発している・・・そしてそれにはGRMも絡んでいる。と自分は考えます先生」
「お主もそう考えるか・・・」
「というと、他に同じ結論に至ったガーディアンが?」
「名前は伏せるが、そうじゃ」
ラドルスの問に肯定の意を示すネーヴ、名前は伏せると言われたが、実際の所ラドルスにはそのガーディアンには心当たりがあった。が、それは口には出さないでいた。
「ルウ、この資料をマヤの奴に回してやってくれんかの。研究の助けになると思うんじゃ」
「了解しました」
一礼してミーティングルームを出て行くルウ。
「研究とは?」
「うむ、さっきも言った通り、最初のHIVEで人がSEEDフォーム化することが確認されておった。それがウィルスによるものだとも最近わかってきておっての」
「既にガーディアンズでその対抗手段を研究中という訳ですか」
「そういうことじゃ。兎も角、今日はご苦労じゃった。ゆっくり休んでくれ」
「了解、失礼します」
一礼してミーティングルームを出るラドルスを見送り、ネーヴは窓から外を見ながら呟いた。
「ウィルスの情報も貴重じゃが、ガジェットも、とは中々いかんもんじゃの・・・」

「イルミナスはあれをどうするつもりなんですかね」
夕食の肉料理をフォークでつつきながらりりなが正面に座るラドルスに尋ねる。
「どこかの惑星で散布・・・というのが妥当な線だろうな」
肉をナイフで切りながら応えるラドルス。
「防ぎようがないでしね。それって」
「だな・・・。その前に基地をみつけて叩くしかないだろうな。うむ、美味しい」
「えへへ」
そのまま食事は進み、コーヒーをラドルスに出し、自分はホットミルクを飲みながらりりなが・・・
「そういえば、ラド様・・・」
「どうした?」
「あの研究施設で『ガジェット』って単語を資料に何回か見たんですけど・・・」
「ガジェット?聞いたことないな・・・例のウィルスのコードネームか」
「ですかね。他の所はチンプンカンプンで分からなかったんです」
「ふむん、今度ルウにでも聞いてみるか」
コーヒーカップを傾けながらラドルスはその単語を脳内で検索してみるが、やはり結果は変わらなかった。それがイルミナスの開発している強力な破壊兵器であることをラドルス達が知るのはかなり後のことであった。


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