第12章 守護者再起

(ストーリーモード:希望と絶望 より)


 ガーディアンズコロニーの宇宙船ドック、そこにニューデイズからのシャトルが到着する。
「おっ、来た来た」
発着場の待合室でその様子をモニターで見ていたアルトが椅子から立ち上がって伸びをする。
「来ましたね」
アルトの横に座っていたオクリオル・ベイがお茶のカップをテーブルに置く。
「そんじゃ、我等の剣士殿を迎えにいきますか」
と、待合室を出て行こうとしたアルトを、アルトの向かいに座っていたレニオスが呼び止める。
「アルト、とりあえず、負け分を払ってから行ってもらおうか」
アルトとレニオス、オクリオル・ベイが囲んでいたテーブルの上にはカードが放り投げられており、アルトが座っていた席の前には全くないチップがレニオスとオクリオル・ベイの前には山となっていた。そして、そのテーブルについていたもう一人のビーストは既に灰になっていた・・・
シャトルの扉が開き、ラドルスとりりながドックに降りてくる。その前に並んでいる一行を見渡して、ラドルスは照れくさそうに頭をかく。
「・・・その、なんだ・・・ただいま」
『おかえり!!』
と、ラドルスが一行の端にある物体に気付く、
「え〜っと、アルトとジャバウォックの魂が抜けてるけど、どうしたん?」
「ああ、気にしなくていいです。私とレニオスさんでちゃんと持って帰りますから」
「持って帰らないと、ダメか?」
レインの言葉にレニオスが返し、一瞬の空白の後、宇宙船ドックは笑いに包まれたのであった。

「ハーイ、グラールチャンネル5。ヘッドライン・ニュース。ニュースキャスターのハルでぇす。今日のニュースをピィ〜ック・アップ!」
画面には何かの残骸の入った巨大なクレータが映し出される。それはパルムに落下したガーディアンズ・コロニーの残骸である。
「ガーディアンズ・コロニーの落下から今日で丸三ヶ月が経過しました。今なお、イルミナスによる破壊工作とSEED襲来の傷痕が色濃く残る中、落下を免れた居住区画の増設工事がようやく本格化しています。また、生き残ったガーディアンの一部は自主的に活動を再開させていますが、亡くなったオーベル・ダルガン総裁に代わる後継総裁選出の見通りは立っていません。現場の指揮系統は今しばらく混乱が続く物と思われます」
ソファに座りながら、ラドルスは黙ってそのニュースを見ている。
「続いてのニュースはこちら!」
画面には惑星パルムの映像が出される。
「コロニー落下により被災した惑星パルムの被害総額は、メルヴォア・エクスプロージョンの約三倍に上るとの集計結果が出ています。惑星モトゥブではSEEDウィルス感染者の大量虐殺が起こった事をきっかけに、街では民族対立による暴動が相次ぎ、通商連合は消滅、事実上無政府状態になりました。ローグスの四大勢力も利害対立による抗争を激化させ混乱に拍車をかけています。一方、惑星ニューディズでは、グラール教団が開発した新型の装置ラティス・シールド・システム(LSS)がSEEDの攻撃から地表を保護し、大きな被害を免れました。しかし、教団はLSSの詳細について一切の情報を公表しておらず、その運用のあり方をめぐって、他の惑星及び団体からは疑問の声が上がっています。」
グラール太陽系のどこか・・・、調度品の整った明るく広い部屋で、巨大モニターを見ている男が二人、一人が椅子に座りもう一人はその椅子の斜め後方、一歩引いた所で立っている。椅子に座っている男がハルのニュースに冷笑を浮かべる。
「モトゥブの奴隷どもはこれで勝手に自滅してくれるな、ハウザー」
「はっ、では次の作戦の準備を進めるとします」
長身の男は一礼して部屋を辞した。

 ニュースのあった翌日の朝、ラドルスとりりなはガーディアンズ・コロニーのガーディアンズ本部にいた。
カウンターまで進みいつもの癖でライセンス証を出したラドルスにミーナが首を振った。
「ライセンスの認証システムはまだ復旧できてないのか・・・」
「ええ、ごめんなさい。」
ミーナがすまさそうに頭を下げる。
「いや、君のせいじゃない。」
ライセンスをしまうラドルスに、ミーナが端末を操作して何かを表示させている。
「え〜っと、伝言が入っています。パルム支部からなんですけど、今日の午後一の便かその次の便でパルム支部に来て欲しいそうなんですけど」
「パルムに?誰だ?」
「差出人はシーナさんですね」
「ふむん、りぃ・・・行けるか?」
ラドルスの言葉にりりなは「はいです〜」と元気に手をあげたので、ラドルスはミーナに午後一の便で行く旨を告げる。
「はい、承りました」
ラドルスの言葉にミーナが端末を操作し、2枚の紙を渡す。
「まだ、パルムも混乱しています。お気をつけて」
一礼するミーナに片手で応えてからラドルスは本部の奥にふと目をやる
「さてっと、時間があるし、ついでにレニオスんとこに顔だすか・・・」
「はいです〜」
黒コート愛好会本部へ向かったラドルスの後をりりながトテテテテと続く。と、ミッションルームから人が出てくるのが見えた。
「まったく人の気も知らないで…。ライアったら、あんなところで何してるんだか…」
出てくるなり、ぼやいているニューマンの女性はラドルス達の知る人物であった。
「あれ、マヤさんですね。もう一人はどなたでしょう?」
りりなの言うとおりマヤの後ろにはヒューマンの女性が立っていた。黒い髪を背中まで伸ばしたそ女性をラドルスは知っていた。
「前にちらっと話しに出ただろう。あの事件の日までライアと一緒に行動していたガーディアンだよ」
「ほえ〜」
と、りりなが見ていると向こうがラドルスに気付き一礼する。ラドルスも軽く一礼した時、
「マヤさん!!」
カウンターの方から女の子がマヤに声をかけて、二人はその女の子の方に歩いていった。
「あの娘、どっかで見たような気がするが…ま、いっか」
ラドルスとりりなは女の子と話をしているマヤ達を背中に、黒コート愛好会の本部へと入っていった。

 黒コート愛好会本部でレニオスとゼロと共にお茶を楽しんでからパルムに降り立ったラドルスとりりな、二人はパルム支部へと向かおうとしたのだが、ホルテスシティの東区画へ出た所で、呼び出した本人が待ち構えていた。
「よう、ラドルス。腕の調子はどうだ?」
「もう、ばっちしだ。しかし、この時期にパルム支部から呼び出しとはおかしいとは思ったけど、イーサンだったのか・・・」
ラドルスはそういって右腕をブンブンと振り回す。
「正直に名乗るといろいろまずいんでね。シーナに頼んで呼び出してもらったんだ。それで、さっそくで悪いんだが、ローゼノムまで付き合って欲しいんだ」
いいつつ、イーサンはフライヤーベースへ歩き始めている。
「ローゼノム?」
「ああ、人に会いに行きたいんだが、原生生物が多くてね。単純に数が多いって話なので、浄化を手伝って欲しいんだ」
「まぁ、いいけど」
「はいです〜」
「ありがとう、では行くとするか」

 ローゼンム・シティ、三ヶ月前にガーディアンズ・コロニーが落着した場所であり、現在も難民が食料不足に加え原生生物の脅威に晒されながらも身を寄せ合っている。パルム政府はキャストの暴走でほいとんど機能していない上に、その難民キャンプの正確な数と位置が把握できていない為に、支援は後手後手になっていた。そんなローゼノム・シティの入り口でラドルスとりりなはあるモノを見る。
「コロニーの残骸・・・」
りりなが呟きつつ見た先にはコロニーの下部の残骸が逆さになって立っていた。比較的原型を留めているその残骸は何かの彫刻のようにも見える。
「ダルガン総裁やネーヴ先生を始めとした、5万人もの人があそこで亡くなったんですね」
りりなはそう言ってラドルスの手をぎゅっと握る。
「イルミナスの勝利、もしくはガーディアンズの敗北を伝えるモニュメントってところか」
ラドルスが呟き、りりなの手を握り返しつつも黙祷し、りりなもそれにならう。と、そこへ戦闘の音が微かに聞こえた。それに気付いた三人はその音のする方へ向かってみる事にした。

 戦闘の痕跡を追っていくと、難民キャンプの一つにたどり着いた。しかし、何か騒ぎがあった後らしく、そこの住民が殺気だっているのが少し離れた物影にいるラドルス達にも分かった。
「どうする?」
ラドルスが傍らで一緒に隠れているイーサンに尋ねる。
「流石にあの中を突っ切って行くのは無理だな・・・」
「・・・あっちから行けそうですよ」
りりなが指差した方向に別の区画への通路が見えた。
「どこに繋がっているかは分からないけど、ここよりかはマシかな?」
キャンプの住人達に気付かれないように、物陰に隠れながらその通路へと入る一行。通路は狭いが所々壁が崩れているために、明かりには困らなかった。そして、何度か行き止まりに会いつつも通路を進んでいくと、建物の外に出たのだが・・・
「暴走キャスト様によつごあんな〜い」
おどけつつも、ソードを抜き駆け出すラドルス。イーサンがその横を、りりなが後方を固める。その前方には同盟軍の重装歩兵部隊「だった」キャストがキャノン砲を向けて迫ってきている。数は多かったが、イーサンは敵集団の中心に入り込み、武器を巧みに持ち替えつつ、それらをなぎ払っていく。
「あれは、俺には真似できないや」
その技術に感嘆の声をあげつつ、ラドルスも数体のキャストを同時にその剣で倒していき、りりながそんな二人をテクニックで援護する。戦いつつもある建物の屋上まで進んでいったラドルス達に、ラドルス達の倍はありそうな巨大キャストが現れる。そしてその体は明らかにSEEDに侵されていた。巨大キャストはラドルス達の方へその巨体からは想像も出来ない程、長距離をジャンプして、一気に間合いをつめてきた。更にその着地の際の衝撃でラドルス達の反応が一瞬遅れる。気付いた時には巨大キャストの拳がラドルスとイーサンに向かってその拳が振り下ろされてくる所であった。
『くっ』
同時に左右に散るイーサンとラドルス。そのまま巨大キャストの拳は床に叩きつけられる。と、元々脆くなっていた床がその衝撃で崩れ、ラドルスとりりなの目の前でイーサンと巨大キャストが階下の闇の中に落ちていく。
「イーサン!!」
崩れた床の端から下を見下ろすラドルスだったが、その床も崩れそうになった為に慌てて後方に下がる。そして、そこへ階下から先程の巨大キャストがジャンプして戻ってくる。
「ラドルス!!りりな!!そっちに戻れそうにない、とりあえず別の道を探してみる!!」
階下から微かにイーサンの声が聞こえてきたが、ラドルスは巨大キャストの拳をかわすのに集中していてとりあえず「わかった!!」と叫ぶ事しか出来なかった。巨大キャストがラドルスに気を取られている所へ、
「んみゅぅ〜♪」
りりながノス・ディーガを放つ。3条の衝撃波が全て巨大キャストに当たり、巨大キャストがターゲットを変えようと振り返ると、その目の前に雷球が迫ってきており、巨大キャストの顔面で大きく弾けた。たまらず、転倒する巨大キャストにラドルスが剣を突き立てるが、その巨大キャストは倒れた姿勢から腕の力で回転しながらバク転の要領で体勢を立て直した。その際に振り回された脚から逃れる形で後方に下がらざるをえないラドルス。
「妙に器用な奴!!」
が、その着地点にりりがな入り込み、杖を振るう。りりなを中心に光球が発生し、巨大キャストの巨体を再び弾き飛ばした。壁に叩きつけられて動けなくなった巨大キャストの間合いに駆け寄り、再び光球を発生させるりりな。その衝撃波に空中で踊っているように翻弄される巨大キャスト、そしてそれは巨大キャストが煙となって浄化されるまで続いたのであった。

 巨大キャストの後は目立った敵に出会わないままイーサンを探していたラドルスとりりなであったが、空が暗くなってきた頃、イーサンの方から通信が入った。
「無事か?こっちは目的の人に会えた。この周囲の地図とポイントを送るのでそこで合流しよう」
「地図なんてどこで・・・」
「探してた人が持っていたのさ、詳しい話は後でする。では」
通信が切れ、同時に地図データと現在位置、少し離れた場所に合流地点を示すポイントが表示される。
「そんなに遠くないな・・・って、どうしたんだ?りぃ」
気付くと、りりながコロニーの破片らしきものを杖でほじくりかえしている。ラドルスも近寄り、その破片を撤去すると、中にあったのは・・・人間サイズの緩衝材の固まりであった。そして、それは救難信号を発信していた。中に何者かが入っているのは確実ではあるが・・・

「りぃ、ちっと後方の警戒を頼む」
最悪の場合を考えてその中身が見えない所にりりなを立たせ、緩衝材とその中の衝撃吸収ボード苦労しつつも開封してみると・・・
「・・・先生・・・」
そこにはルイカム・ネーヴの姿があった・・・。
ネーヴの回収を本部に依頼すると、別の依頼でローゼノムに来ていた回収班がそのまま回収に回るとの回答をであった。
「別の依頼?」
疑問に思いつつも、イーサンとの合流ポイントに到着したラドルスとりりなはそこでイーサンがローゼノムに来た成果を聞く。
「ライアさんが総裁に・・・」
「そういうこと、ついさっきコロニーに戻ったけど、後日正式に発表があると思う。」
そして、イーサンはライアと合流した時の話をラドルス達に聞かせる。その話が終わった時には一行はホルテスシティに辿りついていた。
「それじゃ、ここで・・・また会おうラドルス」
「ああ」
ホルテス・シティのPPTステーション前、別れを告げて去っていくイーサンを見送りラドルスとりりなはシャトルに乗り込んだ。
「もう一度、一から積み重ねっていこう・・・か」
シャトルの窓から見えるコロニーを眺めながらラドルスはイーサンから聞いたライアの言葉を呟いていた。

「みんな、本当にあたしでいいのかい?」
ガーディアンズ・コロニーのガーディアンズ本部、その入口でライアが一呼吸置いてその場に集まったガーディアン達に尋ねている。それがラドルスとりりなが本部に戻って見た光景である。二人はそのまま黙ってガーデイアン達の中に立つ。
「決まってるじゃねぇか!」
「当然じゃない!」
「俺達みんなでお前を盛り立てていくぞ!」
といった声がガーディアン達からあがる。ライアは黙ってそれらの声に対して頷くのであった。

「…亡くなったオーベル・ダルガン総裁に代わるガーディアンズ新総裁が選出されました!ライア・マルチネスさんです!ライア新総裁は先程ガーディアンズ本部で就任会見に臨み、イルミナス打倒及びSEED撲滅を宣言し、ガーディアンズ再生と信頼回復を呼びかけました…」
グラールチャンネル5でライア総裁就任のニュースを見てグラールの住民は現在の状況が改善されることを祈るのであった。

新総裁を迎え、ガーディアンズは組織的にイルミナスとSEEDに対する行動を開始することになる…


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